●●●●(的)
観客席は騒然としていた。
ライラック・リディンという騎士はその品性はどうとして、技量の高さは有名だったようだ。
しかも相手は誰も知らない無名の小娘。安牌の試合にまさかの展開と、貴族達の関心が注目していた。
やれやれーーーータバコの煙を吐き出して、その様子を傍目からジョンは観察していた。
「お金の方が大事だもの。あなたはそうではない?」
ふいに話しかけられ、ジョンはじろりと目を向けた。褐色の肌とウェーブのかかった銀色の髪が目立つ少女である。
「…………『ああ、アイツらは試合結果で賭博をしているんだな。他人の騎士の勝敗であれだけ騒ぎたてて、暇な連中だ。』ーーーーお嬢さんは俺の思考をそう読み取った、ということでいいかな?」
「あたりー」
「読心魔法が勝手に発動しているとは難儀だな。それともコントロールできているのか? だとすれば頭の中をスナック感覚で盗み見るなんて趣味が悪い。
……まぁ、だが、その程度で得意にならないことだ。お嬢さん、あなたはどうにも、物事を真正面から読み取り過ぎている」
「え?」
「ヒトの思考は多重螺旋だ。あの田舎娘が今発動させていた魔法のようにな。あの魔法は低級魔法の連鎖反応で超重力を作り上げ、その裏で上級魔法の下準備をする。
……いやはや、まっすぐだけが取り柄かと思えば、思ったより器用じゃないか。ああいうテクも隠しているとはね」
「いいえ、アルム様は正直な方。隠されていたのは、あなたを信じていないためよ」
「それは既に当人から言われた。ご忠告どうも。ーーーーところで、イゾルデ。ここで待っていれば、マリン様は来てくれるかい?」
少女は名乗りもしていない名前を呼ばれ、目を見開いた。後ずさる彼女を視界の端に納め、ジョンはまたタバコをふかす。
「だから、その程度で得意になるなと言っている。お嬢さんが見える場所は、決してお前しか見えない場所じゃないということだ。
お嬢さんの視点は少しばかり特殊なだけ。『同じような特殊なら』お嬢さんは決して特別じゃない。問題なく『同じ』ということだ」
「そして、同じ視点は惹かれ合う……ということ?」
イゾルデの両肩を抱きとめる、二本の手。声は静かに、イゾルデの耳を甘く舐った。
肌は白く、指は細く、手首にはブレスレットが巻かれている。装飾自体は大したことのないものだったが、一点だけ、雫状の宝石が下がっている。
「これはこれは、マリン様。何年振りかな?」
「ええ、ジャンゴ。……あーそんな顔しないで。本名で呼ばれたくないなら、私もいまの名前で呼んでくれない?」
「仰せのままに。ミリアマリン=マクミクシア様。第三皇女だったか? もう少し自重した地位にいるのかと思えば、よくもまぁ……」
「次があったら考えておくわ。ここまでの継承権だと、護衛の目を盗むのも大変なのよ。今回はあの『騒ぎ』で少しマシだけど」
第三皇女と呼ばれたマリンはイゾルデの首筋を舌でなぞる。どこか恍惚とした表情を作ってみせる。
ジョンは一瞬顔をしかめたが、特に強くやめさせることもしなかった。半身を逸らしてマリンとイゾルデの姿を視界の隅に追いやることにする。
「なるほど。分の良い賭けだとは思っていた。魔法だけで勝てと要求しておいた甲斐があったな。……まさかああまであっさり勝てるとは思ってなかったが」
「要求? あなた、お願い聞いてくれるような女の子いたの? 私やマリー以外に?」
「ほっとけ」
ジョンが吐き捨て、マリンがわらう。
ーーーーイゾルデの表情は、すっかり凍り付いていた。




