夢の途中
ぴん、となにかが張り詰める音がする。
地面に半身を食われつつあるライラックの体が、ギラギラと発光を強めていく。
筋肉は膨れ上がり、噛み合わせた牙がガチガチと火花を散らす。爪が舞台を砕き、体から漏れ出た余剰魔力が地面を焼く。
アルムを睨みつける眼光でさえも紫電を帯びた。
「舐めんなよ。この俺を……!!」
ライラックが四股を踏む。杭のように片足が舞台を踏み抜いた。舞台は蜘蛛の巣状にひび割れを起こしーーーー。
遂に、沈みつつあったライラックの体を震えもなく立ち上がらせた。
ライラックが絶叫する。それは雷鳴のように鼓膜を切り裂くほどの音圧を放つ。
そして、アルムに銃口を差し向けた。
見えない鎖に引きずられているのか、ライラックの腕はガタガタと震えていた。銃口が大きくぶれる。全身から汗が噴き出し、見るからに疲弊している。
しかし眼光だけは今すぐにでもアルムの喉笛を噛みちぎろうとギラギラとエネルギーを迸らせている。
血のにじむ指が、トリガーを引く。
震える銃身のライフリングを伝い、重厚な空気のカーテンを穿孔し、邁進し、突き抜け。
ーーーーアルムの足元に墜落した。
「くっ…………ーーーーっっぁはははは」
手から銃を落とし、ライラックは笑い出した。
顔を手で押さえ、腹をよじらせ、汗ばんだ笑い声をあげたのだ。
[く、狂ったか……?]
「この超重力でも……まだ……!」
「知れたことぉーーーー軽いんだよ、こんなもの。私の主人に比べれば!!」
た、確かにーーーーあの変態貴族の肉に比べたら、軽いのか……!?
ライラックは落とした一丁の銃を踏み壊した。
バラバラになった断片を蹴り飛ばしーーーー。
残る一丁を両手で握った。
今度の銃口にはブレが少ない。そして、ライラックの踏み砕いた銃の破片達は紫電を帯び、それぞれがバチバチと磁界を作り出す。
その流れに、ライラックは弾丸を撃ち込んだ。
弾丸は超重力に踏みつけられ、しかし磁界の魔力が引っ張り上げる。
それこそ稲妻のような無軌道を描き。
アルムの遥か頭上を越えて。
「破ぁーーー!!」
爆散した。
小型の爆弾がアルムを襲うーーー!!
[アルーーーー]
「遠いよ……!」
しかし爆発の範囲は狭い。アルムの呟きどおり、攻撃と呼ぶにはあまりにも弾丸は遠すぎた。そう動くまでもなく爆発は自滅する。
後には変わらず、片膝をつくライラックとアルムがいる。
「くっ……やはり小細工は慣れん。ならばぁ、次はーーーー!!」
[やる気かよ……これだけ八方塞がりだっていうのに! こいつ、本当にあの変態貴族のメンツのために命張る気か!?]
「…………。騎士ライラック。降参する気は?」
「バカなことを! こんなに、こんなにーーーーヤり甲斐のある戦いが、どこにある!?」
「ーーーーッ」
ライラックの言葉に、アルムは目を見開いた。
相変わらずライラックは顔を歪ませ、どう猛に笑う。心底おかしく、狂い咲く。惜しみなくエネルギーを撒き散らし、命の限りを傾け注ぐ。
ーーーー全ては、アルムを倒すため。
主人の要求どおりに。
「はっはっはーーーーその魔力、利用させてもらうッッ!!」
ライラックは跳び上がる。
ほとんど倒れているような姿勢から、舞台に埋まっているような状況から文字通りに飛び出しーーーーアルムの身長をゆうに3倍は越える高さにまで。まっすぐに跳躍した。
ライラックの銃口がアルムに刺さる。超重力場でまた地面に叩きつけられるより、超重力場で加速した弾丸がアルムを貫くスピードの方がはるかに速いだろう。
「ならーーーーそうしろ! 全部、焼き尽くせ!! こんなもの!!」
アルムが叫び、顔を上げた。ライラックの銃口に目を見開きーーーー。
その瞳は、金色に輝いた。
アルムの指が宙空を走る。なぞった軌跡が光を残す。
その宙空の文字が、一斉に色めき出した。円形に描かれたそれらはひとつの数式のようであり、全てでひとつの記号のようだった。
アルムがその記号を殴りつける。記号は回り、嵐のように黒い塊をーーーー岩石を、射出した。
飛び出したそれらはライラックの銃弾を弾き飛ばす。
岩石はまず空を掻くライラックの袖をとらえた。膝に、肩に、腹に、脛に、その体にまとわりつきーーーー押しかため。
やがてそれは、ライラックを中心にした球体に変わった。
ライラックだった球体は。
超重力場に引かれ。
舞台の穴にピタリとはまった。
ーーーーそして、静寂。
アルムはため息をひとつつく。瞼をきつく結び、また開く頃には先ほどの輝きは失われていた。
[アルム……ライラックは?]
「封印した」
[は!?]
「そしてこれでーーーー熱はさめる」
アルムはニ小節ほど何かを口ずさんだ。無造作に指を鳴らす。
瞬間、地面は発光しーーーー。
元の通りに、ライラックが地面に突っ伏した状態で現れた。
「怪我はない? でも立てないよね。魔力、全部吸い尽くして大地にあげちなったから。
立てないなら戦えない。だからこれは、今は、私の勝ち。ーーーーこれで、終わりだよ。本当に」
そう吐き捨て、アルムは振り返りもせずその場を後にする。
アルムが倒れるライラックを残して舞台を後にして、ようやく貴族様方も状況が理解できたらしい。
どっと背後から反響が押し寄せた。悲鳴。歓声。怒声。嬌声。ありとあらゆる感情がるつぼのようにきらめいた。
ーーーーどうやら本当に、アルムも無事一回戦突破のようだった。




