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夢の条件

「…………それで、帰ったと。俺を置いて。一人で」


「うぅ……」


 翌朝。


 ホテルの一室で床に正座させられているアルム。


 目の前にはジョンがいる。ベッドには、脱ぎ捨てられたドレスがある。ーーーーというか、それはドレスと知らなければわからないほどボロボロななにかだった。


 ドレスはススと泥と血と汗と肉汁とマヨネーズと土と生クリームがシェイクされて塗りたくられている。正直食べたくない。いや、食べ物じゃないのだが。


 ジョンが大仰にため息をついた。


「ご、ごめんなさい。そのーーーー」


「いやな? レンタル、だったんだ。このドレス」


[なん……だと……]


「…………れん?」


 アルムはジョンの言葉の意味がよく理解できていないようだった。


 故にわからない。レンタルした物品が壊れたり延滞したりしたときのダメージの深さを……!


 死にそうな顔(いつもと同じ無感情な顔のはずだが、不思議とそう見えた)で、ジョンがドバドバと汚れ、ビリビリに破れたドレスの裾を手に取った。


「…………ふっ、なんだこのにおい。無駄にクラクラするぜ………」


 そりゃそうだろう。あまりにも意味わからないモノでつけ込まれすぎている。


 ジョンは名状しがたいドレスとアルムを交互に見て、大げさにため息などをしてみせた。


「金がまた……あぁ、いや……まぁいい」


「ご、ごめんなさい。お金、払うから……」


「いいんだー気にするな」


 喉を潰されたような声でジョンが答える。正気さえ疑うほどだ。


 おろおろとするアルムにジョンも歯牙をかけない。手紙を朗読するような淡々さで答えを続けた。


「まぁ、な? 不幸中の幸いだ。おまえが国家反逆罪で捕まれば、俺にも危害が加わった訳だ。


 その【護帝】の騎士の厚意でなんとかなったものの、本来ならこんな宿屋の一室ではなく城の地下の石造りのカビ臭い牢屋にいたことだろう。二人仲良く、一生」


「ごめんなさい」


「まったく、どうしてこうなった。まさか武闘会が始まるより先に目立つハメになるとは……。


 見知らぬよそ者に対する貴族連中の警戒が高くなってる。俺をちらりと見ると逃げていったぞ。クソ、どうなってる」


「ごめんなさい……」


「舞踏会で見つけられなかったのが致命傷になるとは計算違いだ。どうにかしてあいつらの警戒を解く必要がある。


 あーどうしたらいい。どうしたら、どうすれば…………」


「……ごめんなさい……」


 消え入りそうなアルムの声。


 キツイにおいのドレスを指先でもてあそぶ。目だけはぼーっとアルムを見やりーーーーやがて、はっとした。


「…………そうだ。いや、ある。方法はある。アルム。頼みが…………や、無理か。これは……だが……」


「なに?」


「…………すまない。忘れてくれ」


 かぶりを振って打ち消すジョン。


 アルムはそれに食いついた。身を乗り出し、ジョンの肩に触れた。ほとんど後ろから抱え込んだ。


「何をするの? いってよ。挽回させて。手伝わせてよ。なんでもするから」


[ん?]


「…………そこまで言うなら」


 しぶしぶと言い訳をして、ジョンはアルムの申し出を了承さり、。


 変わらず愛嬌のなく、ニコリともしない顔。無感情な鉄仮面なのは相変わらずだが、少なくとも表向きはそんな雰囲気を出していた。


 ーーーーそして。


 ーーーー武闘会の幕が開いたーーーー。


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