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マホウのフィナーレ


 シュラは大きなあくびをかいて、足場にしていた大槍の刃を小突く。


 ただのそれだけで、巨漢の彼の肩まではあろうかという刃を持っていた大槍はしゅんと消え失せた。


「あー、驚いたかぁ? もしや、おれがあれを背負ってウロウロしてると思ってたか?


 いやぁ、だとしたら期待に応えられず失敬失敬。あれは皇帝閣下から【超魔】との決戦の時に賜った魔導具だがな。便利は便利と使ってはいるが……なに、使いにくくてな。手になかなか馴染んでくれんのだ」


「…………そ、そういうものなの?」


[あんな非常識な鉄の塊が手に馴染んだ方がヤベーだろ。日常生活とのギャップが。ああいうデカブツ使わないと食事もできなくなるぞ]


「ーーーー時に、騎士殿。私もあなたの名前を頂戴したい」


 急にキリッとしてアルムに尋ねるシュラ。眉の間がキュッと締まった。


 相手の調子が戻り圧迫感が復活する。


 アルムの調子は変わらない。臆することなく、あくまで平等に、公正に、相手を自分と同じ目線をとって話す。


「では、あなたが先に名乗るべきでは? ……見たところ、皇帝閣下の直属のようですが……?」


「ふっ、確かに。ではーーーー我が名はシュラ! シュラ・シンクレイス! いかにも確かに皇帝閣下にお仕えする【護帝三騎将】のひとり、【帝国の盾】の名を拝命している!」


 ーーーーすっげぇ音圧で、豪快に名乗り上げた。


 周囲のザワつきがしんと静まり返ったかのように錯覚するほどだ。周りの貴族様なんて雑音だと言わんばかりの。


 猛烈なパワーに溢れたシュラに、アルムも自然と佇まいを直す。頭の帽子を直ーーーーそうとして、指が宙を掻く。アルムは顔をしかめた。


「失礼いたしました。まさか【護帝三騎将】の方とは知らず。数々のご無礼、申し訳ありません」


「構わんよ。他の将と比較すれば、おれなど面白みもないでくの坊に過ぎんからな」


「ご謙遜を。…………では、畏れ多くありますが私も謹んで名前をお返しいたします。私はアルム・ミルメット。ただのアルムです」


「ふっ、アルム殿か。ラベルは結構。腕前は先ほど拝見した。おれの見立てでは、あなたはそんじょそこらの騎士では相手にならんだろう。ひょっとすると、おれより強いか?」


「ご冗談を。……その言葉、たとえお世辞でも【護帝】の騎士が言っていい言葉ではないと思いますが?」


「ふっ、確かに。おれはその辺り、ダメージを貰わねばわからんうつけ者でな。よく自覚がないとカーチャンに叱られているのだ。許してくれ、素直な感想だ」


 がはがはと豪快に笑い飛ばすシュラ。ここまで来るとただのバカというより大馬鹿野郎に見えてくる。


 しかし突き抜けた大馬鹿となったらもうただバカにはできない。それは「芯のあるバカ」ーーーーつまり「大器」なのだ。


 つまり、大物ということだ。


 伊達に評価されているわけでもないのだろう。…………もっともオレにはあいつの【護帝三騎将】の意味からよくわからんのだが。


「さて、そういうことだ。皆の衆。此度の騒動は一件落着。遺恨は明日の闘技で決しよう。


 よいかよいか。皆々様よ。そういうことなのだ。おれに免じて、この場はそれで収めてくれんか」


 おおらかな態度で周囲に投げかけるシュラ。


 その態度を受けて、今まさに必死に人混みをかき分けてやってきた息も絶え絶えの黒服のSP然とした野郎どもが襟を正して深々と一礼した。回れ右をして貴族達にパーティに戻るよう指示を出している。


 ーーーー風紀を守るのも大変のようだ。


[…………あー。もしかして、シュラがいなかったらオレ達捕まってた? 国家反逆罪とかで?]


「……お礼申し上げます。シュラ様」


「よいのだよいのだ。騎士殿。いやさ、【タダ】のアルム殿」


[おいこいつなんか勘違いしてないか?]


「サヤ、黙って」


「明日の武闘会には参加するのであろう? 礼ならばその時にお願いしよう。最上の剣戟を以ってな。


 ーーーーではな、名を知られておらぬ未開の騎士殿。願わくば、並び立つ剣となれることを」


 そう言って、シュラは背を向けた。


 気がつけば、隣にいたはずのイゾルデもいなくなっている。


 そして、後には。


 肉汁やクリームにまみれ、太ももまでばっくりとスカートの破けたドレス姿のアルムだけが残り。


 ーーーー気恥ずかしさで、アルムは真っ赤になった。


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