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マホウのソード

「私はイゾルデといいます。以後お見知り置きを。騎士様」


 褐色の少女は名乗り、はにかんで手を差し伸べた。アルムもそれに握手で答える。


「私はアルム。とにかく、色々話してくれてありがとう。けれどーーーー」


「詮索したいなら、あなたもなにか伝えるべきよ、アルム様。あなたの口から。あなたのことを。その剣のことも」


「…………その口ぶり。あなたは私のことを知って…………いえ、『わかっている』ということ?」


「どうかな。私のセンスはよく当たるけれど、当たるだけだもの。


 歴史書を読んでも偉人の心、わからないでしょ? そういうものよ。それに、アルム様はただのアルムでいるにはもったいないお方だと思うよ」


[私のセンス? 心が読めるのは魔法じゃないってことか?]


「…………。どういうこと?」


「言った通りよ、アルム様。あなたはもう少し、自分の異常性……いいえ、特別性を自覚すべきね。ここに来ることができたのもきっと、そういう意味」


「あなたの言っていること、よくわからないのだけれど」


「貴族付きでないアルム様が、このパーティに参加している。そういうところよ」


 アルムの怪訝な眼差しにまた困った表情をみせるイゾルデ。


 …………イゾルデの言葉は難解だった。雰囲気それっぽいことを並べただけのような難しさだ。


 掻い摘むと、「今ここにいるアルムは特別だと思う」ということ……だろうか?


 しかしオレも、肝心のアルム自身さえ、それに対する明確な答えはもっていなかった。


 つまり、「アルムのこういうところが特別だ」ということ。それがわかっていない。


「難しいなぁ……」


 本音を吐露したアルムが悩む。イゾルデがまた微笑んだ。


 そして、その手はふいに、ぐいと捩じ上げられた。


「どこに行ったのかと思えば……おいたが過ぎるぞ、姫」


「っ……」


 苦悶の声を漏らすイゾルデ。腕ごとアルムから引き剥がされていく。


 引き剥がした先にいたのはーーーー太ったおっさんだった。


 上等な/金だけはかかった様子のスーツを着て、脇や腹など肉の厚い部位には汗をじっとりと滲ませている。


 金髪も汗の水気を吸っているのか、じっとりとしてボリューム感を損なっている。元々ハゲてもいるのだろうが。


 息を吐くたび、白い蒸気が出る。イゾルデを掴めたのが嬉しいのか顔を歪ませている。唇の間で唾液が糸を引く。糸の隙間から引き笑いが漏れている。


 ーーーー間違いなく。


 ーーーーこれが変態だ。


「さぁ、戻ろうか姫。今日のベッドもきちんと用意させてある。


 ……そのドレスをみんなに見せびらかしたい気持ちはわかるけどね。なにせ俺が選んだ特注品だ。もう少し太ももが見えるようにしたかったんだけれどね」


「はい」


 機械的にイゾルデが頷く。おっさんは満足した様子でイゾルデを連れ添い、雑踏の中に消えていく。


 ーーーーその前に、アルムが立ちふさがった。


「待ちなさい」


「なんだね君は。……貧相なドレスだ。もっと太腿と胸と背中を開いていた方が俺の趣味だぞ。ああ、スカートが邪魔だな。いっそ無くすか」


「私はイゾルデの友だち。そしてイゾルデは今、私とおしゃべりの途中だ。だから、イヤがる彼女を勝手に連れて行かせない。あなたが彼女のなんであろうと」


[それと、そんなものはドレスじゃねぇ。競泳水着という。衣装の侘び寂び萌えがわからん無粋モノめ。肌見せればいいってもんじゃねーぞ恥を知れ恥を]


「…………姫。どうだね? この子、知ってる?」


 おっさんはに息を吹きかけられ、目を伏せるイゾルデ。今まさに頰を舌なめずりしそうな顔の距離だった。さぞ息が臭かろう。死ねばいいのに。


 黙りこくるイゾルデに、おっさんは満足げに歯をむき出しにする。


 お友達という証拠はないようだが? そんなことを言いたげな顔だ。


 ……黙っているだけのはずだが、おそろしくうるさい。もうなんていうか、存在がうるさい。


「行かせない。彼女は私の名前を知っている」


「どうして? お節介焼きの赤の他人が。俺の姫に手垢をつけるな。無垢で穢れのない俺の姫に傷がついたらどうする。


 ……それとも、君も姫と同じベッドに案内しようか?」


「……そう。ほうって、おいて」


 絞り出したイゾルデの声が、耳をつく。少ない拒絶の言葉。アルムから逸らした彼女の目はーーーー。


 アルムが決意するには十分すぎた。


 ーーーー途端、アルムが自分のドレスを腰から膝上までを引き裂いた。


 白い肌が露わになる。その奥には革のベルトで巻き付け、鞘に仕舞われた果物ナイフがある。


 アルムはナイフを抜いたーーーーが。


 鞘から抜かれるほど、ナイフの刃渡りが伸びていく。


 元の鞘の長さなどは余裕で超える。アルムが引き抜いたぶんだけ長くなりーーーー最後には、果物ナイフだったはずのものは一振りの剣になっていた。


 金色の柄。琥珀色の宝玉を輝かせた、白銀の刃を持つ剣。ーーーーつまり、オレである。


 今の今までドレスのスカートの中、アルムの太ももを堪能させてもらっていたのだ。うらやましかろう。

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