マホウのブタイ
そして、いよいよ。3日が経過した。
律儀にジョンは舞踏会の日の夕暮れに参上した。
アルムはジョンのエスコートされ、帝都中心部の舞踏会会場までやってきたのだ。
しかも会場近くのロータリー然とした広場まで乗り付けたのはそれらしく馬車である。
きっちりファンタジーのお約束を押さえているあたり、ジョンはなかなかやる男のようだ。だからといってアルムはやらんがな!
馬車から降りるアルムにさっと手を差し伸べたあたりも弁えている。
ジョンの服装は、さすがに小汚い旅装束ーーーーではなく、正装だっだ。
しかし相変わらず身体の輪郭がわからないように丈の長いマントを羽織っている。
マントの下には黒のタキシードも着ている。タキシードはほつれもなければ埃もおかしなテカテカもない。ぴっしりと手入れされている。上等で清潔な正装だった。
ボサボサだった髪も均等に整っている。伸び放題の無精ヒゲも残さず剃られていた。なによりタバコや酒のにおいがしない。代わりにするのはなにかのコロン……だろうか?
ーーーーつまり、だ。
オレのよく知るいつもの浮浪者ジョンの格好とは訳が違う。
とてもきちんと、ドレスコードに沿ったいでたちをしていた。
ーーーーもはや「誰だこいつ」状態である。
実はこいつ、結構いい家の生まれなのだろうか。浮浪者のようだったファーストインプレッションを完璧に塗り潰している。
ーーーーしかし姫騎士アルムの鎧は厚かった。
差し伸べられたジョンの手をはたき落とし、じろりと射殺す視線を突き刺す。
しかしジョンの面の皮も相当に厚い。「ドレスには合わん。取れ」とアルムの羽根つき帽子を無遠慮に奪った。
「返せ!」
「返すさ。洗って返す。しかし今宵はパーティだ。華やかな舞台にこの帽子はいささか不釣り合いだよ。鏡見てこい」
「そんなこと……!」
[あるぞ。悪いがそこには賛同できない。慎ましやかだが、そもそもドレスに普段使いの帽子はない。使い込まれすきていて不釣り合いだし、なにより高級感で負けてる]
「ぐぬぬぅ………」
「わかってもらってなによりだ」
身を引いたアルムを見てジョンは無感情にアルムの羽根つき帽子を自分の頭に乗せた。
ーーーーマントとタキシードのジョンにアルムの羽根つき帽子はそれなりにマッチしている。
しかしそれでも衣類としてのグレードの差が歴然としていて、実際にはそうでもないはずが、なんだか帽子がよれよれに見えてきた。雰囲気って怖い。
このままオレを手に取りかねない勢いで顔を赤らめていくアルム。その紅潮は恥ずかしさのためか、やるせなさのためかーーーーまぁ、緊張のため、ってことはないだろうが。
その様子を横目に、ジョンは大仰な動きでアルムに、これから入る舞踏会の会場を指し示した。
会場はまさに目の前だった。馬車で乗り付けた広場から一本道でつながっている。規則正しい並木に縁取られ、一直線に伸びただだっ広いメインストリート。その先にある建物だ。
というかドームだった。
雰囲気に合わせた言葉を選ぶと宮殿とか神殿とかいう言い方がいいのだろう。
だが悲しいことに、現代にかぶれたオレには野球が出来そうな規模感の建物を前にそんな小洒落たワードは出てきてくれなかった。まだまだファンタジーの住人を名乗るにはレベルが足りていない。
ジョンがドームに歩き出す。一歩遅れてアルムもそれに続いた。
歩きつつ、ジョンは白い仮面なぞを顔に付ける。
……怪しい。死ぬほど怪しい。というか今にも殺し回りそうな怪しさだ。離島とかを舞台にして。
さながら怪人のような格好で、しかし平気な様子でジョンは歩く。
もともと感情がどこか希薄な野郎である。羞恥心かあるかも疑わしい。
ーーーーしかしそれはそうとして、オレなら間違いなく会場の前で捕縛するぞこの怪しさは。
……そのジョンを、少し羨ましそうに見つめるアルム。目が輝いている。……きっとウソだったと思いたい。そんなの。




