マホウのトリック
ーーーー状況を整理しよう。
オレはアルムに提案した。こういう時こそ箇条書き整頓法だ。物事の本質を捉えてきっかり整列。バカでもわかる状況分析で冴え渡るのである。たぶん。
あまり分解しすぎると本質が素粒子レベルに砕け散って意味わかんなくなるけど。……やべ。提案しといてアレだが、墓穴掘ってバカが露呈するかもしれん。
ーーーーしかしオレの一喜一憂、ここに極まる。
アルムはこくりと頷いた。
……従順だ。ジョンの無理難題はかなりこたえているらしい。(かわいい)
[よし、ではいくぞ]
まず、第一の目標。帝都セント・ミクシアに行くということ。
これは間違いなく達成だ。正面ゲートの厳つさと迫力には物々しい「帝国の中心地」の覇気であふれていた。
「まぁ……ね。帝都は他の街より結界が強いから」
[結界?]
「魔獣のような【魔】を跳ね返すもの。皇城には守護結界の中心になってる大きな触媒があるんだってさ。……師匠からそうだって聞いてる」
[ふぅん……]
ーーーーまぁ、その物々しさの中だが、例の号竜の貴族様のおかげでほとんどチェックを受けなかった。
貴族様はかなり地位が保証されたヒトだったようだ。【獣魔人】なんて危なっかしいものに襲われた割に、クリーンでしっかりとしたヒトなのだろう。たぶん。
続く第二の目標。御前試合の出場だ。正式名称は「皇制帝都武闘会」らしい。割とどうでもいいが。
しかし名前はともかく、今これが問題に直面している。
武闘会の前夜祭的イベント、つまり交流会に参加することになったのだ。
名目上は「舞踏会」であり、なんかこうヌルそうな雰囲気らしい。少なくともジョンからドレスと一緒に手渡されたパンフレットにはそんな感じで書かれている。
そこに(頭の)ユルい貴族の姫みたいな格好で出てこい、なんてジョンがドレスを手渡してきたのだ。
要はまた、そう、またもジョンの差し金のせいで我々は振り回されているということである。
サイズが合ってるのかとかいつ測ったのかとかどうしたらオレにも教えてくれるとか色々尋問したいところだが!
誠に遺憾ながら、それより重大なのは、アルムは騎士として見られない姫の服装を着ることが不満なようだ。
無理もない。
アルムはーーーー少女だ。
剣を持たずドレスを身に付ければ、それは立派なお姫様だろう。だってかわいいし。
色気の少ない剣を腰に差した状態でも、街をほっつき歩いているだけであれだけナンパされたのだ。
……まぁ、あれは、ド田舎では単に「武装した女の子」ご珍しくないから、という可能性も否定できんが。面倒だし考えないでおこう。
とにかく、アルムが姫コスしたらそんなもんかわいいに決まったんだろう。
かわいい×かわいい=どえらくかわいい。というわけだ。
つまり、やばい。
もうマジで誰に何されるかわかんねぇ。近づくヒト科は全員野獣と思っていい。そのレベルだ。ほぼバイオハザードである。
特にオレ無しの丸腰では。ホイホイ付いて行きかねない。土下座とかされて。断りきれなくて。
ーーーー許せん。断じて。そんな展開、認められん。
ーーーーしかし、舞踏会にでなければ武闘会への参加もできない。
これはジョンとの交換条件のようなものだった。武闘会参加に口利きする代わりに、俺の趣味で着飾らせ、社交界に顔を出せ。というもの。
オレとしてはかわいいアルムが見れるのは大変素晴らしいのだが、反して柄にもなくため息をしきりにこぼす。目も少し潤ませている。
かわいく着飾るということは、それだけアルムが夢見る強く、カッコいい騎士からは遠のいてしまう、ということだろう……か?
であれば、これは陵辱だ。アルムは自分の心を捻じ曲げ、ジョンのため羞恥と屈辱を噛み締めながら衆目に晒されなければならない。
もしかすると「舞踏会に剣を持っていく」ということに頑ななのは、このためかもしれない。
自分は姫でなく騎士だと、他の誰の目からも姫として視姦され、嬲られ、弄ばれ、穢されたとしても、私は騎士なのだ……と。決して心までは屈しはしないぞ………的な。
[ってなんだそれエロゲーか!?]
「…………え? なに?」
[絶対姫扱いなんかに負けないんだからねからってことですか!?
あー女騎士だしそうだよねそっちの方向いっちゃうよね定番なのかな!? これもう汚いおっさんに監禁と即堕ちまでセットだって絶対!!]
「………………サヤ、私、ときどきあなたが興奮気味にいう言葉、本当にわからない」
[あ、ごめん。信じて送り出したアルムがおっさんの慰みになるようなことはオレがさせない。絶対させない。本当に。フリじゃないから]
「う、うん……?」
決意を新たにしたオレを見つつ、アルムは不安そうに曖昧な相槌を打った。
ーーーーそうして。
誰もが不安に、3日を過ごした。




