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マホウのブトウカイ

 御前試合3日前。オレたちは貴族様の【号竜】に乗り、帝都セント・ミクシアに到着した。


 そのすぐのこと。


 煌びやかな帝都の端っこの薄汚れたホテルの一室で、アルムは悲鳴に似た声をあげた。


 まるで女の子みたいなリアクションだ。ーーーーまぁ、どうやら不意を打たれるとそういうことは少なくないようだが。オレも勉強できてきた。


「私、参加するのは御前試合……帝国でも歴史の長い帝都皇制武闘会だと聞いていたのだけれど」


「その通りだ」


「…………なぜ、わたすの? このドレスを?」


「舞踏会だからだ」


[ほら見ろ。やっぱり騙された]


 じろりと睨むアルムにジョンは両手をあげた。非暴力を訴える。


 それを前に、騎士の誓いがアルムにブレーキをかける。オレに伸びかけた指が震えていた。


 アルムは心底悔しそうに唇を横一文字に結ぶ。


 その姿に、鉄仮面のように無感情なジョンの表情が緩んだように見えた。……のは、さすがにおれの穿ち過ぎだと信じたい。


「待て。『俺は嘘をつかない』」


[ウソ付け。それが既にウソだぞ]


「それにだ、アルム。これは舞踏会といっても、武闘会本番前の交流会みたいなものだ。極めてトラディショナルなイベントだよ。


 そもそも、だ。派手好きで浪費グセが慢性的な貴族様達が、ただ身内にチャンバラだけをさせていて何が面白い?


 貴族様も楽しめる刺激的なイベントでなければ定期的に行われるはずもないだろう?」


「ぐっ……そうかも……え、そうなの?」


[少なくとも、オレには貴族って金の回りが激しいイメージがあるぞ。食うために吐き、吐くために食う感じがする]


「……そうなの?」


 アルムが首をひねる。オレのイメージがあまりピンと来ないらしい。


 ジョンは肩をすくめ、頭を人差し指でとんとんと叩く。「もう少し想像力を働かせろよバーカ」のジェスチャーである。


 これは、実に「やられたらお返しに一発ぶん殴ってやりたいモーション」だ。オレの体が金属の塊であることが実に悔やまれる。


「ーーーーとにかく。淡々と戦わせて終わりではわざわざ参加に出向いた貴族様方には騎士自慢以上の旨味がない。


 煌びやかな舞台で交流し、見識を広げ、顔を売り、布石をばら撒き、身の振りを決め、お零れにありつく。


 舞踏会というのはだな、そういう権謀術を張り巡らせる影の武闘会なのだよ、坊や」


「いいえ。とにかく、私、そういうの興味ないのだけれど。私が出たいのは口先の戦いの場じゃない」


「いいや、段階は踏まえるべきだ。お前は騎士になりたいのだろ。自称騎士のさすらいの剣士で終わりたくないなら、仕えたい貴族様を選ぶことも考えるべきだ」


「品定めをしろと?」


「尊敬できないヤツに仕えたいのか? おまえは? いいのかぁ?


 いやね? おまえが適当に選んだ貴族様がもし変態のロリコンオヤジだったらどうする? 裸同然の格好で首輪に繋がれて剣も二度と握れなくなるかもしれん。


 まぁ、そういう生き方も良しというなら、勝手にすればいい」


「…………………そんなヒト、いるわけ、ない」


 ねっとりといやらしい声を出すジョン。アルムもさすがに視線を外した。


 アルムは話題と一緒に受け流したいようだった。


 がーーーーしかし話は聞かせてもらった。


 そういう話であれば、いやいや、受け流すわけにはいかない。


 このオレも忠剣として黙っているわけにはいかないのだよデュフフ。


[いやいやいやいや。アルム。金と権力を持ったハゲは大体倒錯した性癖があるもんだ。


 ロリコンなんてまだヌルいぜ。暴力に屈した泣き顔に興奮するとか腋汗を舐めて欲情するとか野外で放尿させる姿に劣情を覚えるとか、そういうハードコアな話をよく薄いブックで勉強した]


「う……うん?」


[信じて送り出したアルムがハゲに汚されるなんて……オレはイヤだね。想像もしたくない。口にしたくもない。様子見は賛成だ。貴族社会の勉強になる]


「……………社会の勉強ね」


 ーーーーようやく意味がわかる言葉が聞こえたと安堵するアルム。


 ……すまない。さすがに自覚している。いじめすぎた。


「む? ……まぁ、そうだな。社会勉強になる。森の中での生活が長いおまえは、社交界というヤツも学んでおくべきだとは思わないか?


 まぁ、童話の【ローグ・ウォーリー】さながらの正義のヒーローになりたいのなら、止めはしないが。


 しかし昨今、そんな義賊じゃ食ってもいけないだろう。より現実を見ない選択だと思うが」


「わかった。わかりましたよ。舞踏会には出る。でも剣は持っていくから。騎士として当然」


「なぜそうなる。お前は剣を振り回してダンスを踊るのか? ……まぁいい。好きにしろ。


 ただし『貴族付きの騎士』以外……つまり素性の知れないヤツが武装するのは言うまでもないがルール違反だ。


 どうしても持ち込むなら止めはしない。そこら辺で貴族を引っ掛けるなりなんなり、どうにかするんだな。…………それともお前、俺の騎士になるか?」


「どうにかする。自分で」


「見つかれば最悪、国家要人暗殺未遂で帝国から永久追放だ。くれぐれも気をつけてくれよ。ーーーーそれじゃあ、舞踏会の前、夕暮れにまた迎えに来る」


 意地悪な笑みを浮かべ、ジョンはその場を後にした。持ってきた清楚系の色合いを取った慎ましやかなドレスを残して。


 アルムはそのドレスを抱き締め、ため息をついた。

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