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旅の決意

 ……一時間超。満開だった騎士トークの花弁が、ひらりと散った。


 突風が音圧を引き連れてきたのだ。


 衝撃にアルムが目を鋭く走らせる。カーテンの奥で貴族様は頭を抱えて丸まった。


「貴族様はここで!」


 アルムが叫ぶ。貴族様の返事を待たずに部屋を飛び出した。


 外はしんと静まり返っていた。風のひとつも吹いていない。さっきの突然の凄まじい音圧が嘘のようだ。


 アルムはオレに手を伸ばし、視線を周囲に巡らせ敵の姿を探す。


 ーーーーだからだろう。


     オレの方がアルムより早く気がついた。


 象の頭に誰もいない。ジョンが、いない。


 そして。


 その場に。


 滴る。


 赤い血。


 ーーーー上から。


[空だ!]


 オレの警告と同時にアルムが視線を走らせた。


 鉄砲のような鋭い風が体当たりを仕掛け、直撃する前にアルムの華奢な体は吹き飛ばされた。象の上にしがみつくのがやっとだ。


 片膝を付き、帽子を抑え、跪くアルム。


 そこに、ぽっかりと影が差し込んだ。


 帽子のツバの奥から、アルムは見る。影の先にあるもの。


 コウモリのような皮張りの羽を広げ、長いツノを肘と膝から突き出し、潰れた右目からアルムをギロリと見下している。


 とてもそれは、ヒトの姿には見えなかった。


 しかし獣と切り分けるにはヒトに近すぎた。


 逞しすぎる両肩に対して長い指。牙で裂け開かれたような口端に対して細すぎる腰回り。とても野獣が持つにはアンバランスだ。


 ただ自然を跳ね除けるだけの強靭さだけではない。砕け散った木片にペンで文字を記すような知性を感じる。


「まさかっ……【獣魔人】……ッ!」


 アルムの呟きはひどく合点がいった。獣のようでもありヒトのようでもある。


 なるほど、その有り様はまさしく【魔的】だ。【獣魔人】。そのネーミングはこの存在を括るには素晴らしい。


 ーーーーなんて、現実逃避をしている場合ではない。


 身体的特徴をあげつらって「コイツ実は話せばわかる奴なんじゃね?」なんて淡い妄想に浸っている余裕は一切ない。


 なぜならばーーーー面と向かえば嫌でもわかる。


 なにが「知性を感じてならない」だ。バカかオレ。バカなのかオレ。


 コイツはまさしく獣性100%。獣の中の獣だ。


 バズーカを担いで爆炎をそこかしこにばら撒き散らすような破壊衝動と猛々しい殺意が嫌というほど伝わってくる。


 一挙手一投足から滲み出る荒々しさ。怒気。暴力性。迸るパワーは実際に手足を動かさなくても胸を杭で突き刺すような圧迫感を押し付ける。


 オレに手をかけるアルムの指先も、弱く震えている。


 ーーーーヤバいヤツなのだ。正真正銘、底抜けに危険な野郎だ。


 【獣魔人】が足を踏み出す。魔人の長い爪が、アルムの頭上をすり抜ける。


 ーーーーアルムなど眼中にない。狙いは貴族様なのだ。


     ジョンが言っていた。貴族様を狙っている【なにか】。


     そして貴族様専属の騎士様を倒した【なにか】。


     その正体。それが、この魔人だ。


 瞬間。


 白刃がーーーーオレが、閃く。


 【獣魔人】の爪ごと、その手を切り落とした。


「…………いかせない」


 鞘で【獣魔人】の腹を突いて吹き飛ばす。アルムは立ち上がり、剣を構え直した。


 今一度、【獣魔人】がアルムを睨む。アルムはびくりと肩を震わせた。


[おい、アルム。おまえ、膝笑ってるぞ……?]


「【獣魔人】の特性……生き物の生存本能に訴えかけて、根っこの恐怖を刺激する。原初の悪魔の末裔の性質。だから、この震えはどうしようもない。


 サヤ。ごめんね。不安にさせて。でも、頼らせて」


[生理現象だっていうのか。でも怖いのは本当だろう? 逃げちまえ。逃げちまえよ。生理現象なんだろ? 本能だ。仕方ないだろ]


「仕方なくない! 逃げられない。貴族様を守るって約束した。怖いからって、諦めたら……私は、死んでも私のゴールにたどり着けない。


 私は私の夢を叶えてみせる。私は師匠から希望を受け継いだんだ。……だから私は、みんなの希望を守る騎士になる!!」


[…………]


 無茶苦茶だ。それにアバウトだ。


 そんなのに意地になってなにになる?


 死んだらおしまいだ。たとえオレのように「次」があっても、夢の続きはないかもしれない。


 逃げろ。逃げてくれよ。


 …………なんて、もう言えるはずがない。オレにさえ頼る、オレに頼ってまで進もうとする女の子に。そんなこと。


 せめて手を引いて逃げ出すことができないのなら、その手を支え、立ち向かうための剣になる。もうオレが取れる選択肢はそれしかない。


 そこへいくと、この身体は便利だ。たとえ本心ではガラス細工同然でビビり倒していても、なにより不動な金色の剣になりきれる。


[オレも…………いる。約束だからな。一緒にいる。だから……行け!]


「はい!」


 恐怖を押さえつけ、アルムが応える。


 この瞬間、剣刃を伝う震えは、ぴたりと止まった。


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