旅の談笑/
ほどなくジョンがハコから出てきた。
表情は変わっていないが、仕草はどこか疲れた様子だ。
「アルム。象の後ろを頼んだぞ。俺は前で操舵と警戒をする」
「……私たちだけなんですか? 貴族様なんですよね。ご自身を守る騎士様もいるはずでは? どちらに……?」
「ここに来るまでで全滅した。あとは雇われの俺ひとりだ。……貴族様が不安がるから、俺より騎士然としたヤツが必要なのもわかるだろ」
「……………全滅? どういうこと?」
[や、つーか何人いたの]
「どうやら貴族様は誰か……いや、【なにか】に恨まれているそうだ。まぁ、俺の知ったことではないがな。
帝都まで行って報酬も付く。そして取り分・分け前は最大値。俺の知っておきたいことはそれだけでね。気になるなら自分で聞いたらどうだ」
「……入れと? いや……入っていいの?」
「この通り、俺は小汚い旅装束だけしか持ち合わせてなくてね。剣もない。不安な貴族様をなだめるには、まともな騎士様が必要なんだ。支えになってくれるような。
そこへ行くと、お前は及第点だろう? いい剣を差しているしな」
[いやぁ、それほどでも]
ーーーー同時に、アルムを誘った理由も判明した。
少し予想と違った(というより力でなく見た目が必要だった)ことにアルムはややむっとした表情を作る。
その機微をジョンは特別気にした様子はない。相変わらず無感情な顔を崩さない。
「まぁ、適当に距離を取っておけばいいだろうさ。ただ景色を見るより貴族様の話し相手になった方が楽しいだろう?」
更に発言もどことなく適当だ。見た目通りのズボラな男なのだろう。それとも貴族様の相手がよっぽど疲れたのか。
アルムの質問させる暇も与えずジョンはタバコを咥え、だらだらと象の頭の上で座った。手綱を握り、そのままぼーっとしている。
…………操舵。してるのか。あれで。
どうやって警戒するのだろう。あんなマヌケ面で。
しかしアルムは特に苦言を呈さない。納得した様子だった。
それなら、とオレもあえて文句を口に出さない。
もしかすると、アレが一般的な象の操縦なのかもしれない…………いやいやまさか。
アルムはジョンと入れ違いに象の背中のハコに入る。
中は薄暗かった。モノが乱雑に置かれ、奥には薄いカーテンがかかっている。
カーテンの中には光源があるらしい。うすぼんやりと人影をカーテンに投影させていた。
「貴族様……ですか?」
「そういう君は……ああ、あの男が言っていた雇いの騎士というやつか。ーーーーいや、その心得があるヒトというだけだろう。
私とて知っているぞ。私は騎士の教養はないが、私の騎士を見ていればわかる。
真に騎士なら、まさかこのように自分の身を金で売るような事をするまい。金や名声でなく、絆……主人とのつながりと名誉を守る。少なくとも、我が騎士はそういう男だ」
さりげなくマイ騎士を持ち上げるスタイルで貴族様は口火を切った。
こりゃあ面倒臭そうなお人だなーーーーなんてオレが辟易とした。ジョンが疲れる理由がなんとなく理解できた。
しかしオレがそんなことなど露も思っていなさそうに、アルムは声を輝かせた。
「騎士様! やはり貴族様にも騎士様が? これだけの号竜をお持ちの貴族様です。さぞ騎士様も名うての方なのでしょう!?」
[ごーりゅー? えっ、これ象じゃないの? え? 竜なの?]
「そうだとも。我が騎士はハンドエイフ家の出でな」
「西の名門の!? 随分遠くから……」
「私が彼の剣筋に惚れ込んだのだよ、一目惚れだったな、あれは。もう15年は前の話になるが……聞くかい?」
「はい……はい! ぜひ!」
ーーーー勘弁してくれ。
なんて音にできるはずもなく。
騎士トークの花は咲く。




