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第九十六話 変態衣装の仲間たち


 メイドさん、ないしは誰か顔見知りに事情を聴くべく、領主の屋敷へ赴いた俺とフラン。

 屋敷の裏手にある勝手口のドアを叩く。


「はい……?」


 不思議そうなくぐもった声と同時にドアが開かれた。

 運良くメイドさんが出てくれると良いのだが。


「あれっ?」

「えっ!?」

「ちょっ!?」


 三者三様に驚きの声を上げる。

 そこに立っていたのは、意外にも俺たちの良く知る人物。


 ヤヨイであった。

 あったんだが、何その格好。


 肩丸出しのノースリーブ。

 ちょっと動くだけで下着が見えそうな、フリフリの黒いミニスカート。

 太ももの半ばまでを覆う、白いサイハイソックス。

 総フリルの髪飾り。

 そして、その服の上から白いエプロンを付けていたのだ。

 変態趣味もいいところの、ゴスロリメイドアイドルみたいだった。

 どうせなら猫耳も付ければ完璧だったのに。


「だーっはっはっは! 何だよその格好!」

「あっはははは! どこで売ってるのそんな服!」

「ちょっ! 声が大きいですよ! こっちへ来てください!」


 大笑いする俺たちを、真っ赤な顔で引っ張っていくヤヨイ。

 そりゃ恥ずかしいよなぁ。


 連れて行かれた場所、そこはどうやら納戸のようであった。

 なるほど、物置ならそれほど人も来ないか。


「まずは、アキトさん、フランさん、良くぞ無事に帰って来てくれましたね。異様に遅かったですけど」

「すまん、色々あって遅れたんだ」

「そうなのよー、アキトが女の子を拾っちゃってねー」

「また浮気ですか! 子猫ちゃんとか、あんな期待させるような手紙を送っておいて!?」


 やべっ、タクミと悪ノリだけで送りましたなんて、今更言えないぞ。

 ざまぁ、とでも言いたげな目で、フランが俺を見ている。

 くっ、フランにも負い目があるから、助けてくれとはとても言えたもんじゃない。

 なんとか誤魔化すしかないな。


「いやいや、聞いてくれよヤヨイ」

「なんですか!」


 頬を膨らませ、お冠のヤヨイをなだめるように説明する。


「ヤヨイも知ってるだろ、良くしゃべる女将さん」

「……西の街にいましたね」

「そうそう! 拾ったのはその人の娘さんだったんだよ」

「そうなんですか」

「でも、女将さんは始まりの街に緊急避難していてな、可哀想だから送っていったってだけなんだ」

「…………アキトさんは優しいですからね。女の子だけには」


 まだ、言葉の端々に棘があるな。

 もう一押しか。


「その子、ルリアって言うんだけど、アキトったらその子ともキスしてたよ?」

「あっ、このバカ!」


 余計な事を口走るフランの口を素早く手で塞いだが、遅かったようだ。


「ほう、それは聞き捨てなりませんね……」

「待て待て、俺からしたわけじゃない! 事故だぞ!」


 ポキポキと指を鳴らしながら迫り来るヤヨイ。

 俺の後ろは壁だ。

 逃げ場などない。

 怒気が熱気となって俺に覆いかぶさる。


「むぐっ!?」

「んっ!」

「あぁーー!?」


 引っ掻き攻撃か、グーで殴られるのを覚悟していた俺だったが、まさか熱烈なキス攻撃とはね。

 会えない時間が長かったせいか、熱烈ってよりも苛烈という言葉が相応しいほどに貪られる。

 ぷるぷる震えるフランの姿が目の端に映った。


「…ヤヨイ、ここにいるの…? ……あぁー! アキト!?」


 ヤヨイと同じような格好をしたシャニィが入って来た。

 一声叫ぶなり、キス争奪戦に参戦して来やがる。

 シャニィが叫ぶのは結構珍しい。

 つまり、それくらい驚いたと言う事だろう。

 それはいいが、俺が持ちそうもないぞ。


「ちょ、ちょっと、ヤヨイ、シャニィ……アキトが死んじゃうよ……うっ、怖くて近付けない」


 フランが二の足を踏むほど熾烈になってきた。

 変態衣装の二人に全力で吸われ、みるみる俺の唇が腫れあがって行くのがわかった。

 きっと、屍肉に群がるハイエナの群れを連想させるような光景だろう。


 死ぬ、マジで死んじゃう。

 吸気ごと吸われて、呼吸困難寸前だ。

 ダイソンかお前ら!

 いやぁぁぁ! やっぱり助けてフラン!!


 死のカーニバルは、その後も彼女たちが飽きるまで続けられた。

 ようやく解放され、ぐったりと横たわる俺。

 肺が空気を求めて悲痛に喘いでいる。


「ふぅー! 今日はこのくらいにしておいてあげます」

「…久しぶりのアキトの味…満足…」


 ツヤッツヤになっているヤヨイとシャニィ。

 隅っこで丸くなり、震えているフラン。

 なんだか、少しだけいつもの日常に帰って来れた気分だ。

 死にかけでなければ、だが。


「で、何がどうなってるんだここの街は」


 フランの癒しで唇を治してもらった俺。

 腫れあがったままじゃ、話も出来ないからな。

 そろそろ情報交換といこうじゃないか。


 まずは、マキシマムの話からだろう。

 シャニィがこっそり用意してくれたお茶と軽食で、喉と胃袋を潤しながら話す。


 ヤツが現れたのは、俺たちがリッカとミリアを伴って旅立ってからしばらくした後。

 街の復興も少しずつ進んでいた時だった。

 北から、怪物の第二波が現れたのだ。

 俺たちもおらず、クレアの祖母である黄昏の占術師アレアも、精神力を使い切り臥せっている。

 街が崩壊した折に、兵士や冒険者連中も大多数が怪我人となった。

 残された希望は、ヤヨイとシャニィだけ。


 絶望的な状況の中で、二人は奮戦していた。

 だが、たった二人では、やはり無理があったのだ。

 いよいよ陥落も間近となった時、多数の男たちを引き連れたマキシマムが、怪物たちの更に北側から攻めたのだと言う。

 

 奴らの軍勢は強かった。

 一人一人が鍛え上げられた屈強な戦士だったのだ。


 だが、さらに目を見張ったのは、やはりマキシマムとそのレアリティだった。

 見る間に多数の敵を粉砕し、怪物を潰走させていた。

 ヤヨイとシャニィも歴戦の強者だが、唖然とするレベルだったそうだ。


 戦後、歓迎の声の中、街へ入ったマキシマムたち。

 喜んだ領主は、街を救った英雄を屋敷へ招いたことだろう。

 その時からずっと、屋敷へ入り浸っている。


 そして、突然告げられたエリィとマキシマムの婚約。

 それ以降は、マキシマムの手下たちが街を仕切るようになったらしい。

 荒くれらしいやり方で。

 完全に暴力が支配するところとなった訳だ。


 ヤヨイとシャニィは当然、猛抗議した。

 力でなら負けてないはずだもんな。


 しかし、ヤヨイとシャニィの存在を知ったマキシマムは、卑怯にも人質を取ったのだ。

 領主サドア、その娘エリィ、クレア、臥せったままのアレア婆ちゃん、そしてルカだ。

 人質によって逆らえなくなった二人は、半強制的にメイドとして働かされていた。

 殺されないだけマシと思え、ってことらしい。


 道理でクレアの家が空っぽだったはずだ。

 彼ら人質は、今もこの屋敷で軟禁状態にある。


「おかしいな、シャニィとヤヨイなら助け出せそうだけど」

「それがですね、あの人たち、無線機を持っているんですよ。定時連絡もしてるみたいで、あれを持った見張りを掻い潜るのは難しそうだったんです」

「なんだって」


 そうか、マキシマムが俺たちの世界から持ち込んだのかもしれんな。

 くそ、その手があったか。

 バッテリーや電池を大量に持ち込めばかなり持つもんな。


「そういや、マキシマムは今まで何やってんだろ? 向こうの世界で行方不明になったのは数年前って聞いたが」

「…噂だけど、北の果てに、高位の怪物ばかりが現れる場所があって、ずっとそこで闘っていたみたい…」


 え、そんな場所あったの!?

 それが本当だとすると厄介だぞ。

 奴はこっちへ来てから延々とレベル上げしてたってこったろ?

 しかも数年間て。

 どんだけ強くなってるかわかったもんじゃない。


「もうひとつ気になるのは、ヤツの当選したレアリティだな」

「あ、私、見たことありますよ。シャニィよりも小さい女の子でした。SSRで名前は確か……」

「へー、可愛かったか?」

「「「むっ!」」」

「いえ、何でも無いです」


 SSRで名前はティナと言うらしい。

 どうやら、二刀流で闘うそうだ。


 うむ、だいぶ情報が揃ってきたな。

 まだ解せない部分もあるけど。

 例えば、マキシマムがここを支配した動機とか。

 まぁ、狂える魔人なんてあだ名がつくくらいだし、狂人の考える事なんて俺にはわからない。


 明確にわかっていることなんてひとつだろ。

 救けを求めている人がいる。

 これだけでいいよな。


 免罪符にも大義名分にもなる、便利な言葉だ。

 おっと、これじゃ俺が悪党みたいだな。


「アキト、また悪い顔してるよ」

「ほっとけっ」


 さて、ここからは俺の神算鬼謀を見せてやらないとな。

 俺は無い知恵を必死にかき集めて、作戦を練るのであった。


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