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第九十二話 有能領主は顔見知り!?


 案内所では、ルリアの母に関する決定的な情報を得られなかった。

 寂しそうに笑うルリアを励ましつつ、領主の屋敷へ向かっているところだ。


 案内所の受付嬢が言うには、そこに難民対策室が設けられているらしい。

 一縷の望みを託し、馬の歩みを進めた。


 始まりの街の東。

 見晴らしのいい丘を利用した土地に、領主の館は建造されたようだ。

 それほど豪奢な建物ではない。


 これは領主が堅実だからか、それとも単に貧しいだけなのかはわからないものの、ゴテゴテした成金趣味よりはよほど好感が持てた。

 鬱陶しいほど豪華だったりしたら、あの聖王都でのさばっていたクソ大臣親子を思い出しちまうからな。

 今考えても、あいつら胸糞悪かったな。

 って、結局思い出してどうする。


 自らの後頭部にチョップでツッコミを入れる。

 フランが、とうとう頭がおかしくなったの? と言いたそうな目で俺を見ていた。

 お前ほどじゃないよ、と言うような生暖かい目で見返しておこう。


 館の周辺も、難民たちでごった返している。

 この街へ避難してきた人間は、最初にここを訪れて登録する決まりになっているそうだ。

 この制度によってだいぶ混乱も落ち着いた、と言うのが受付嬢の談である。

 当初はかなり無秩序で、犯罪や人死にが絶えなかったようだが、ここ最近になって突然見事な制度が次々と発布されたらしい。


 あの、穏やかだが人を治める才能のない領主が、これほどまでに変わるものか、と皆驚いたそうだ。

 そんな話を聞いてしまっては、俺も一目見てみたくなるってもんよ。

 女将さん探しのついでに会ってみようと思っていた。


 館の屋外に設置された、避難民登録者用の簡易テント。

 ずらりと並んだ人々の列。

 それらを横目に通りすぎ、直接玄関に赴く。


 扉を軽くノックし、出て来た初老の執事に用件を告げた。

 効果は覿面。

 物凄い勢いで、走り去っていく執事さん。


「アキト、何て言ったの?」


 馬を繋いで戻って来たフランに教えてやろう。


「ただ、勇者アキトが会いに来た、ってな」

「それだけ? アキトのお嫁さんで、可愛いSSRフランちゃんも来ましたって言ってくれなかったの?」

「言ってたまるかっ!」

「えぇー! 言ってよー!」


 タップダンスのように地団駄を踏むフラン。

 なにその動き!

 無駄に器用だな!?

 アホなやり取りをしていると、息を切らせた執事さんが戻って来た。


「勇者、アキト様……ぜぃぜぃ……こち、らへ……ハァハァ……ど、どうぞ」


 もはや死にかけだ。

 なにもそんな必死にならなくていいのに。


「はぁ、どうも。お邪魔します」

「「お邪魔しまーす!」」


 遠慮がちな俺、元気いっぱいに入って行くフランとルリア。

 ちょっとは先方に気を遣えよ。

 案内された応接間で、お茶を出される。


「良い茶葉の香りー」


 フランが目を閉じて香りを楽しんでいた。

 お茶にだけは鼻が利くんだな。

 腐った野菜もわからない癖に。

 食料品店での一件を思い出しながら、俺も熱々のお茶をシュルリとすする。


「うーん、俺はフランの淹れたお茶の方が好きだな」

「本当!? 嬉しいよアキトー!」

「こらっ、こぼれるから抱き着くな!」

「あっ、チューするならわたしもー!」


 顔を寄せてくるフランとルリアの頭をガッシと掴む。

 こんなに熱いお茶をブチ撒けたら大惨事だぞ。

 しかも、こんな時だけ二人の力が強い!

 俺の手がプルプルするほど押されているとは!


「フラン様のお茶に敵わなくて申し訳ありません、アキト様」


 そんな俺の耳をくすぐる、涼やかな声。

 あれ? 聞き覚えがあるぞ。


「お久しぶりです、アキト様、フラン様」


 俺たちの前に颯爽と現れた麗人。

 こりゃまた意外な人物であった。


「「ア、アンジェラ船長!?」」


 図らずもハモってしまう俺とフラン。


「はい! やっとお会い出来ましたね!」


 ブルルンと見事な胸を震わせる美しき女船長。

 朗々と屈強な船員たちに的確な指示を出す、超有能な若き船乗り。

 これほど船上が似合う女性もいない。

 その彼女がなんでここに。


「アキト様、私の経緯は後でお話しいたします。まずはその子を」

「相変わらず、凄いね」

「いえ、それほどでも」


 口では謙遜しているが、身体は俺に褒められた嬉しさからか、クネクネと身悶えしていた。

 その度にぶるりぶるりとたわわな果実が。


「はおぅっ!」


 見ろ。

 妖艶すぎて初老の執事さんですら、股間を押さえながらノックアウトされている。

 淫靡さに磨きをかけすぎだろ。

 エリィ号にいた船員たちは、こんなのを毎日見せられてるってのに良く我慢できるもんだ。


 沸かしたお湯とティーセットを用意してもらい、今度はフランに茶を淹れてもらう。

 その間に、ルリアの身の上をアンジェラに語った。


「なるほど、わかりました。お母上の事は、すぐにお調べいたしましょう」

「悪いが頼むよ」


 傍にいたメイドさんに、すぐさま指示を出すアンジェラ船長。

 テキパキと仕事をこなす様は、お見事と言う他ない。


「情報が揃うまでの間、私の経緯をお話しします」

「ああ、俺たちも話すことがたくさんある」


 俺たちと船長は、嘆きの門があった島で別れたきりだ。

 そこから聞かせてもらおう。


 俺たちが嘆きの門から転移した後、アンジェラたちは予定通り数日間ほど俺たちを待ち、そして聖王都へと帰港した。

 シャルロット王女の元で、しばらくの間は手伝いなどをしていたが、ある日、三の街から伝書鳥が来たと言う。

 その書簡の内容は、始まりの街の領主が病床に伏せ、更に難民問題が発生したため、アンジェラに臨時の領主になって欲しいとの要請であった。

 アンジェラは、俺が王都へ帰還するものと信じていたらしく、それを待つためにも難渋していたのだが、再三に渡る三の街の領主とシャル王女からの懇願もあり、重い腰を上げてここへやってきた。


 うむ、シャルと領主さんの人選は非常に正しい。

 このエスパーじみた超有能美人船長ならば、この街の秩序が保たれていることにも納得がいく。


「素晴らしい手腕だよ、船長。いや、領主代理」

「それはやめてください。いつも通り、アンと呼んで欲しいです」


 そんな呼び方したことあったっけ!?

 一度もないよ!?


 その後、俺たちの経緯も話し終えようとした頃、ルリアの母に関する情報が届けられた。

 メイドさんが、分厚い避難民台帳を抱えて戻ってきたのだ。

 この台帳には、避難民たちの膨大な情報が詰まっているらしい。

 氏名、年齢、職業、出身地、初めてこの街を訪れた日時、その目的。

 街を出る際にも、行先や理由を記載するシステムになっていた。


「ふむ、どうやらルリア嬢の母君は、第三の街へ向かった復興支援隊の中にいるようですね。三の街経由で港町へ向かう、とあります。ご丁寧に、娘を迎えに行くためと書いて行ったようです」

「うへ、すれ違いって事か」

「そのようですね。今から向かえば三の街近郊で出会えるでしょう。道中に必要な物資は、現在手配中です。二頭用の馬車も準備しているところです」


 本当に有能だな!

 俺が申し出そうなことを全部先回りしてやがる!

 相変わらずなんだけど、やっぱり怖いよ!


「何から何まで、ありがとうアンジェラ。この借りは必ず」

「ア、アキト様が、ア、アンジェラとお呼びに……! 私はもうそれだけで満足でしゅぅー!」


 ばたーんと顔面から転げ落ちるアンジェラ船長。

 名前で呼び捨てにされたのが、よほど嬉しかったのだろうか。

 恍惚の表情で、全身をビクンビクンと悶えさせていた。

 駄目だ、目がイッてる。

 だけど、面白いから時々名前で呼んでやるとしよう。


「船長、世話になったな。しばらくはここにいるのか?」


 俺は用意された馬車の御者台に座る。

 無骨だが、頑丈さが気に入った。

 船長は俺の性格を良く解ってらっしゃる。


「はい、難民問題が片付いたら、次は三の街の復興をします。その次は港町へ。全てが終わった後、聖王都へ戻ります」

「そうか、何かあったら、遠慮なく頼ってくれよ。アンジェラ」

「は、はひぃっ!」


 フランとルリアが乗り込んだのを確認する。

 物資もオーケー。

 借りばかりが溜まって行くなぁ。

 返しきれるといいんだが。


「くれぐれもお気をつけて! 武運を祈っています!」

「ああ! アンジェラも頑張ってくれよ!」

「はひぃぃぃ!」


 真っ赤な顔で手を振るアンジェラ船長に別れを告げ、再び旅に出る。

 果たして、この先に待ち受ける運命とは─────


 いつも通りですけどね。

 すまん、言ってみたかっただけなんだ。


 やっぱ、馬車はいいなー!

 馬だと尻の皮がむけて痛いんだよ。

 フランとルリアも、快適な馬車に大喜びだ。


「お母さーん! 今行くからねー!」


 ルリアの声が冷たい風に乗って、母の元へと飛んで行くのであった。


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