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第九十話 幼女の頼みは断らぬ


 熱を出した幼女を、空き家へ担ぎこんだ俺たち。


 あれっ?

 こう言うと、まるで犯罪者みたいじゃないか!

 ゴホン。

 改めまして。


 熱がある幼女を介抱するべく、可愛らしい服を脱がせてベッドへ寝かせた俺。


 駄目だ!

 どう言い繕っても事案の臭いしかしない!


 幼女の面倒を見てるのは、主にフランだからね!

 濡れた身体を拭いたり、俺たちの世界から持ってきていた解熱剤を飲ませたりは、全部フランに任せていますから!


 俺がやるって提案したのに、フランに全力で阻止されましたとも、ええ。

 敗因はハァハァしすぎたことと思われる。


 手持ち無沙汰な俺には、雑務を担当しろとのお達しです……チッ。

 服を暖炉で乾かしたり、ジュウジュウと炒め物を作ったりしながらも、チラチラと様子を窺うことに余念はない。

 膨らみかけとか、誰もが見たいに決まっているじゃないか。


 仕方ないのさ  ロリなんだもの    アキト


 と言う訳で、薬とフランの癒しの効果か、名も知らぬ少女はだいぶ回復したようだ。

 彼女についてわかっているのは、宿屋の女将さんの子であると言うことだけ。

 だが、詮索は後でも良かろう。

 さ、メシが出来たぞー。


 余程空腹だったのか、少女は俺の作った食事を勢いよく頬張っている。

 その食べっぷりに、俺とフランも少々呆気に取られた。

 欠食児童もいいところだ。

 それでも食べ方が汚くないのは、女将さんの教育の賜物だな。


「これ、お兄ちゃんが作ったの?」

「ん? ああ、そうだよ」

「美味しい! すっごく美味しい! お母さんがね、将来は料理が上手な人と結婚しなさいって言ってたよ! お兄ちゃんわたしと結婚して!」

「「!?」」


 なにこれ。

 飯だけでこんなに掌返しされたのは初めてだよ。

 これは言うまでもないが、三の街を発つ際にルカから授かった特製調味料のお陰であろう。

 悶絶するほど美味いからな。


「だめだめ! アキトお兄ちゃんは、私と結婚するんだから!」

「えぇー! ずるいよフランお姉ちゃん!」


 何を幼女と張り合ってるんだフランは。

 これじゃどっちが子供だか、わかりゃしねぇ。


「んで、嬢ちゃんの名前を聞いてもいいかな?」

「うん、わたしルリアって言います。助けてくれてありがとう! 結婚してください!」


 にっこー! と満面に笑みを浮かべる赤毛の少女。

 なるほど、良く食べそうな名前だ。


「つらいかもしれないけど、詳しい話を聞かせてくれるかい?」

「うん……わたし、港町に疎開? って言うのをしてたの、親戚のおばちゃんのところ」

「ふんふん」

「それで、どこかから逃げて来たおじさんが、ここの街がやられちゃったって言ってて……わたし、お母さんが心配になったから見に行こうと思ったの」

「そうかぁ」

「でも、道に迷っちゃって、何日も森の中をウロウロしてたら教会だった場所にお馬さんがいて、それに乗ってここまできたの……」


 馬泥棒はお前かーい!

 まぁ、なんとなく予想はしていたがな。


「いっぱい探したけど、お母さんがどこにもいなくて……もしかしたら怪物に食べられちゃったのかなって……ぐすっ」

「おっと、泣くのはまだ早いぞルリア」

「……?」

「さっき、この家の中を見回っていた時に、置手紙を見つけたんだ。ここの家人が家族に宛てたものなんだけど……えーと、フラン、読んでおくれ」

「はいはーい」


『カイルへ お父さんとお母さんは、近所の人たちと始まりの街へ避難します。心配しないでください』


「……だとさ。女将さんも一緒に始まりの街へ行ってるかもしれないぞ」

「本当!?」

「ああ、俺の見て来た限りだけど、あの街はこの近辺で唯一無事な場所だからな。かなり難民が集まっているはずだ。可能性は高いだろうな」

「…………あの、お兄ちゃん、お姉ちゃん、あのね……」


 皆まで言わずとも、わかっているよルリア。

 俺たちもこの子を放り投げていくほど悪党ではない、と思いたい。


「お兄ちゃんに任せなさい。始まりの街へ連れて行ってやるよ」

「うん! お兄ちゃん大好き!」


 食事も忘れてルリアが抱き着いてきた。

 可愛いのう。


「フラン、いいよな? ちょっとばかり寄り道が過ぎるけど」

「もっちろん。アキトと一緒ならどこでもいくよ」


 物わかりの良いフランだ。

 よしよし、チューしてやろう。


「あー! わたしもチューしたいー!」

「あっ! こら!」


 フランが止める間も無く、俺はルリアにキスされた。

 むほほ、役得役得。

 少女のぷりぷりとした小さな唇を存分に味わう。


「子供はだめっ!」

「えー! 子供じゃないもんー!」


 ずるずるとフランに引き剥がされるルリア。

 説教コースだなこれは。


「お兄ちゃん! フランお姉ちゃんに折檻されちゃう! 助けてぇ!」

「しないわよっ! たっぷりお説教するだけ!」

「いやぁぁぁー!」


 やっぱりな。

 別室に引きずられて行くルリアを、俺はそっと見守ることしか出来なかった。

 アーメン。


 俺とフランも軽く食事を済ませ、これからの旅に必要な物資を探しに出た。

 すっかり雨も上がった通りを、三人並んで歩く。


 目指すは商店だ。

 何と言っても、食料が無ければ始まらない。

 生鮮食品は無理として、せめて何か日持ちのするものが残ってるといいんだがな。


 宿屋のある通りの並びに、お目当ての食料品店があった。

 店仕舞いもせずに逃げ出したのだろうか。

 商品は出しっ放しになっている。


 うーん、前々から思っていたんだが、この世界って異様に治安がいいよな。

 俺たちの世界の外国なんて、隙あらば略奪されるってのに。

 などと考えながら、店内を巡る。


 やはり生野菜は全滅か。

 どれも、しなびていたり腐ったりしている。

 干し野菜だと思えば、かろうじていけそうなものもあるにはあるが……


「アキト、これ食べられるんじゃない?」


 そう言ってフランが俺に見せたものは、明らかに内部が腐っていそうな玉葱っぽい野菜。

 俺は無言で、フランの手からその物体を叩き落とした。


「ああっ!」


 転がる玉葱を追いかけて行くフラン。

 あいつの鼻はバカなんだろうか。

 腐臭がすごいぞ。


「お兄ちゃん、これは?」


 ルリアが差し出したのは、少ししなびた椎茸のようなキノコ。

 む、これはまだ行けそうだな。

 干し椎茸は美味いぞ。

 水で戻せば出汁も取れる。

 俺は椎茸を袋に詰め、ルリアの頭を撫でた。


「へへー」


 嬉しそうに笑うルリアに癒される。

 一番つらいのはこの子なのにな。


「アキト! これならどう!?」


 懲りずに何かを差し出すフラン。

 既に嫌な予感が漂っているが、一応確認する。


 でろり、と溶け落ちる寸前の果物だった。

 どうやったらこれを食えると思えるのだろうか。


 俺は、かつて果物だった物体を、全身全霊をもって投げ捨てた。


「ああああああ!」


 フランが放物線を描いて飛ぶそれを、犬のように追って行く。

 その尻には、全力で振り回される尻尾が幻視出来る程だ。

 あいつの前世は、きっとバカ犬だったのだろう。


 何とか食べられそうなものを集め、代金をカウンターに置いた。

 まぁ、こんなことしなくてもいいんだろうけど、感謝の気持ちってやつだ。


 俺たちはその足で、肉屋や雑貨屋にも赴き、必要な物を仕入れた。

 そしてさっきの空き家に戻る。


 今はいないが、この家の持ち主にも世話になった訳だ。

 ここにも礼金を置いて行くべきだよな。


 まだ文章を書くのが不安な俺は、フランに代筆を頼んで書置きを残すことにした。

 文面はフランに任せるとして、荷物を馬に積み込むとしますかね。


 いや、待てよ。

 フランに書かせたらどんな悪辣な事を書くかわかったもんじゃない。

 念のため監修だけしておくか。


「フラン、なんて書いたんだ?」

「勝手に家を使っちゃって申し訳ありませんって」


 お、意外とまともじゃないか。

 感心感心。


「アキトが宿屋の少女を連れ込むためには仕方なかったのです。それ相応の礼金を置いて行きますので、当局にはどうか内密に」

「おま!? アホか! さっさと書き直せ!」

「本当のことじゃない! いだっ! うわーーん!」


 このおバカには、拳骨を脳天にかまして泣かせるしかあるまい。

 名誉棄損もいいところだぞ。

 俺を貶めてどうしようってんだ。


 とは言ったものの、こんなところでアホな事をやってる場合じゃないのも確かだ。

 急いでいないとは言っても、俺たちを待っている連中がいることを忘れてはいけない。


 泣かせた張本人の俺が言えた義理じゃないけれど、このままでは時間ばかりが浪費されて行く。

 オッケェー、一秒で泣きやませるとしようか。


「よしよし、痛かったかフラン? ごめんな」


 こんな感じで、ちょっと抱きしめてやれば機嫌も直るのが、真のチョロインってもんよ。


「シクシク……うん……もう平気……えへへー、アキトー、もっとギュッてしてー」


 ほら見ろ。

 全く、アホの子は可愛いなぁ!

 ……あまりにもチョロすぎて、今後が少し心配になるけどな。


「お兄ちゃん……鬼畜……」


 軽蔑しきった目のルリア。

 こらっ、誰にそんな言葉教わったの!

 ってフランしかいねぇよな。

 このアマ!


 さてと、これで全ての準備は整った。

 出発しようじゃないか、諸君。

 では、颯爽と馬に乗りますかね。


 …………あれぇ?

 俺、一人?

 フランとルリアで葦毛に乗るの?

 寂しくない?


「だって、アキトとルリアを一緒にしたら危険でしょ?」

「何がだよ!」


 俺がルリアにイタズラをすると確信しているフランの論は、ちっとも納得いかないものであったが、ルリアを一人で馬に乗せるのも確かに不安が残る。


 もう例の花はない。

 今後は怪物との戦闘も避けられないものとなるだろう。

 ま、身軽な方が、助けには入りやすいか。

 

 ええい、仕方ない。

 女体は我慢しよう。


 ってことで、今度こそ出発!

 一路、始まりの街へ!

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