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第八十七話 届いた手紙の内容は


「アキトさーん! フランさーん!」


 俺たちを呼ばわる声。

 遠くから聞こえるそれは、残念ながら男のものだ。

 既に声の持ち主はなんとなく特定できている。


 敢えて無視しておいたんだが、しつこく呼びやがる。

 なんなのもう。

 俺とフランのイチャコラを邪魔するんじゃねぇよ。

 このアイアンクローのポーズがイチャコラなら、だけどな。


 正直言って特に見たくも無かったが、仕方なく振り向いてやった。

 こっちがびっくりするくらいに満面の笑顔で駆け寄ってくるのは、元チンピラ勇者のタクミとその御一行様だ。

 このパーティーは、男三人と女二人で構成されている。

 あー、やっぱりこいつらか。


 俺が一本残らず消し飛ばしたタクミの頭髪は、生意気にも五分刈りくらいにまで伸びていた。

 チッ、毛根ごと消したつもりだったのに。


 それにしても、だよ。

 タクミの連れのSRライムだよ。

 ぷりんぷりんと豊かな胸を振り回しながら走ってくるその姿だよ。

 ずるくないかあれは。

 ただでさえ盗賊風の身なりで露出が多くエロいってのに、あの暴力的な乳はなんなの。


 俺がじっくり見ているのを悟ったライムは、もっと揺れるような仕草で走ってくる。

 こりゃたまらん。


「むうぅー!」

「いでででで」


 俺のエロスゲージが上がったことを察したフランが、全力で俺の頬を引っ張る。

 餅みたいに伸ばされる俺の頬。

 千切れちゃう!


「いやー! さっきのすごかったですねー! 流石はアキトさんですよ!」


 ニコニコしながら握手を求めてくるタクミ。

 こいつも随分と更生したよなぁ。

 あの陰湿さはどこへ行っちゃったんだ。


 そしてライムが俺の腕にしがみついてきた。

 それを見たフランの額に、ピキッと青筋が浮かびあがる。

 おっかねぇ。


「いや、さっきのはフランだよ」

「うおー! マジですか! フランさんすごいですね! 格好良かったですよ!」

「エヘヘー」


 先程の戦闘をまるで覚えてない癖に、フランは照れ笑いをしている。

 しかも、タクミ如きのおべっかでだぞ。

 納得いかねぇし、なんかムカつく。


「で、お前たちはなんでこんなところにいるんだ? ん、そう言えば壊滅した第三の街では見かけなかったな」

「ええっ! 第三の街もやられたんですか!? 俺たちは港町が平らにされたって聞いて、すぐにこっちへ駆けつけましたからね、まさか街までやられたなんて……」


「お前ら、マジで更生したんだな。災害が起こったらすぐ行動できるなんて大したもんだよ」

「アキトさんたちのお陰です。あの一件がなかったら、俺たちは今でもダメなままだったと思ってます。だから、アキトさんには感謝してるんですよ」


「そ、そうか、ところで、ライムを引きはがしてくれないか。うちのお姫様がさっきからお怒りでな」

「あっ、す、すみません! コラ、ライム! 大人しくしてろ!」

「やぁーん! アキトさんといるのぉー!」


 ぷよんぷよんと俺の腕に胸を押し付けてくるライム。

 動くたびに形が変わる胸から、俺は目が離せずにいた。

 思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。

 服から半分ほども露出させているんだぞ?

 誰だこの服を選んだのは!

 グッジョブ!


 フランの頬をつねる力が、尻上がりになってきやがった。

 そろそろマジで千切れると思った頃、四人がかりで引き剥がされたライムが、遠くへと連れて行かれた。

 意外と真面目そうな黒髪ロングの女性から、こんこんと説教されているようだ。

 あんなまともな女の人が、なんでタクミのパーティーにいるんだろう。


「アキト、これに懲りたら他の子に余所見しないこと!」

「なんだよ、フランだってタクミに褒められて舞い上がってたろ」

「そ、そんなことないもん!」

「いや、あった!」

「ない!」

「あった!」

「もういい!」

「あー、そうですか!」


 プイっとお互いそっぽを向く。

 俺とフランの間でオロオロしているタクミたち。

 すまん、どう考えても痴話喧嘩だなこれは。


「すみません……俺たちが来たばっかりにお二人が……ライムにはきつく言っておきますんで……」

「いや、いいんだ、気にしないでくれ。フランがアホなだけだ」

「なにそれ!? ひどくない!?」


 深々と頭を下げるタクミに、俺の方が申し訳ない気持ちになる。

 俺に向かってアカンベーをしているフランは、しばらく放っておこう。


「それで、港町の様子はどうだ?」

「建造物は軒並みやられましたけど、だいぶ生き残っていますよ。今は復興するために仮の住まいを造っているところです」

「船は?」

「ダメですね、桟橋も全滅です。当分のあいだ船の行き来はできないでしょう」


 くそ、やっぱり王都へは行けないか。

 少しだけ期待していたんだがな。


「そうだ、アキトさん。本題を忘れていました、伝書鳥がアキトさん宛てに手紙を持ってきたんですよ」

「なんだって」

「第三の街からだったんで、街は無事なもんだと思っていました……はい、これです」


 伝書鳥も確保していたとは、流石領主さんだ。

 抜かりが無いな。


 タクミから手渡された小さな紙の筒を広げる。

 とうとう、俺の勉強の成果が発揮される時が来た。

 へっへっへ、読んでやるぜ!


「ア……すぐ……くれ」


 やばい、思った以上に読めてない!

 嘘だろ、こんなはずじゃ……!


「ぷー、くすくす」


 隣で吹き出すフランが無性にイラつく!

 落ち着け、落ち着けば必ず読める。

 こんな短い文章だぞ、いけるいける。


「アキ、トさ、んへ…………に……すぐ、」

「……俺、読みましょうか?」

「お前も読めるの!?」

「ええ、まぁ。こっちでの暮らしもだいぶ長いもんで」


 くっ、タクミでさえも読めると言うのに、この俺がこんな辱めを……


「……頼む」

「了解です。えーと、なになに、『アキトさんへ すぐに第三の街へ戻ってくれと領主さんがおっしゃっています あ、急ぎって程じゃないみたいですのでご安心ください でも、私は早く会いたいので急いで帰って来て欲しいです 大好きなアキトさんへ愛をこめて ヤヨイ』だ、そうです。ヒャー! モテモテですねアキトさん! ヤヨイちゃんってあの細くて小さくて可愛い子でしょ!? いやー、うらやましい!」


 いやいや、そんなことよりも!

 嘘だろ!?

 あの短い文章にこれほどの情報量が入るの!?

 たった一行だよ!?

 圧縮言語か何かなの!?


「ちょっとそれ見せて!」


 フランがタクミから手紙を奪い、食い入るように読んでいる。

 怒った顔だ。

 まぁ内容も内容だしな。

 フランの嫉妬心がメラメラと燃え上がったようだ。


「こりゃあ、早く帰ってあげたほうがいいですよ。実は俺、ヤヨイちゃんのファンなんですよね」

「マジかよ、ハハハ、そりゃ知らなかった」

「モロ俺の好みなんですよ。シャニィちゃんって子も可愛いですよねー」

「おぉ? お前もまさかロリ属性なのか?」

「アキトさんもですか!? いやー、気が合いますね! 俺、それが目当てでこっちに来たってわけです」

「なるほどなぁ、気持ちはわかる。あっちは融通きかないしなー」

「ハハハハハ、確かに。向こうって俺たちには住みにくい世界ですよね」


「そうだタクミ、鳥を使って街へ返事を送ってくれないか?」

「お安い御用ですよ。内容はどうします?」

「そうだなぁ、『ヤヨイへ 大人しく待っててくれよ 俺の可愛い子猫ちゃん アキト』これでどうだ?」

「うっひゃひゃひゃ! それいいですねぇ! わかりました、任せてください」


「アキト! 帰ろう!」


 同士を見つけた俺たちの和やかムードに水を差したのはフランだ。

 なかなか同士と話せる機会がないんだ、邪魔をするんじゃない。


「俺とは喧嘩してたんじゃなかったっけ?」

「そうだけど……でもヤヨイに一言いってやんないと……」


 ぷるぷる震えながら、ちょっと涙目になっているフラン。

 くそ、可愛いな。


「くっ……やっぱりフランさんは可愛いですよねぇー……」


 しみじみとタクミが言う。

 お前も俺と同意見か。

 フランの顔を見ていると、甘やかしたくなるんだよ。

 ムカつく時は容赦なく叩くけどな。


「わかったわかった、帰るとするか」

「うん!」


 俺たちはタクミ一行も伴って、置いてきた馬の所まで歩いた。

 よしよし、逃げずにいてくれたようだ。

 先にフランを馬に乗せてから、タクミに尋ねてみる。


「お前たちは港町に残るのか?」

「はい、復興にメドがついたら第三の街へ戻ります。街も人手がいるでしょう? でもまだ港町に結界が張れてないんでそれが終わってからですね……」

「そうか、頑張ってくれよ。お前たちももう、立派な勇者だ。武運を祈ってるからな」

「はい! アキトさん、フランさん、お気をつけて!」


 俺はバッとまたがって、拍車をかけた。

 見送っているタクミたちに、二人で手を振る。


 俺とフランは再び馬上の人となり、帰還するべく第三の街を目指すのであった。


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