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第八十五話 アホっ子ヒロイン大覚醒!


 リッカとミリアを無事に彼方の回廊へ送り届けた俺とフラン。

 第三の街へ帰還しようと思った矢先に、奇妙な光景が繰り広げられた。


 非常に遠く、と思われる空で、無数の光が瞬いているのだ。

 遠すぎて何が起こっているのか、皆目見当がつかない。


「何がどうなってるんだ……?」

「うーん、光が見えるたびに真っ黒いのがポトポト落ちていってるみたい……」

「お前見えるの!?」


 どんな視力だよ!

 フランが嘘を言っているとも思えないが、あんなに遠くのものが見えるとは……

 

 黒いの、と言うのはたぶん災厄に憑かれた怪物なのだろう。

 ってことは、誰かが怪物たちと空中戦をしているってことか?


「あれっ? なんか段々黒いのが近付いて来ている……かも?」

「えっ? やめろよフラン、変な冗談言うな……」


 俺も必死に目を凝らす。

 そう言われると、見えなかった黒い粒々が視界に現れたような……そして徐々に大きくなってきているような気がしないでもない……


 それに、瞬く光の数が減ったようにも見える。

 つまり怪物たちは、戦場から逃げるようにこちらへ向かってきていると。


「マジか、勘弁してくれよ」

「どうするのアキト、逃げた方が良くない?」

「……でも、あれが全部怪物だとしたらやばくないか? あいつらがこのまま真っ直ぐ東へ飛んだら第三の街だぞ」

「あ、そうね……」


 俺もフランも頭をひねくりまわす。

 このまま見過ごすわけにもいかないだろう。

 かと言って、あの数をたった二人で相手にするのも現実的じゃない。

 うーむ、悩ましい。

 くそう、戦力が揃っていればなぁ。

 街に残してきたみんなの顔が浮かぶ。


「取り敢えず、術で数を減らしておくとか?」

「そうだなぁ、数を減らす案は賛成だな。減らしておけば、万が一街へ流れて行ったとしても、ヤヨイとシャニィがなんとかしてくれるはずだし。だけど、やるとしてもここじゃまずかろう。もっと海側へ行った方がいいな」

「うん」


 俺とフランは鹿毛の馬に二人で乗る。

 もう一頭は、ここに繋いでおこう。


 彼方の回廊を破壊されちゃたまらんからな。

 馬を疾駆させ、港町のある方向へ向かう。

 しばらく走り、木立を抜けると海が見えて来た。

 ついでに怪物たちの姿も、だいぶ近付いて来ている。


 とは言っても、連中はヘトヘトなのか、まだ海の上だ。

 あれ、港町はどこだっけ?

 もう見えてもいいんだが。


「あれじゃない?」


 キョロキョロしている俺を見て察したのか、フランが指し示してくれた。

 平らに均された場所を。


「えぇ!? ここもやられたのか! うわぁごめんなさい!」


 俺は思わず両手を合わせた。

 港町も第三の街を壊滅させた、あの超巨大な獣の進路だったようだ。

 あの聖鎧、役に立つどころか迷惑ばっかりかけてんじゃねぇか!

 不死王に今度会ったら、思い切り文句を言おう。


「もうちょっと海に近付いたほうが良くない?」


 フランの声で我に返った。

 そうだな、そうしよう。

 まさに水際作戦だな。


 海岸近くまで来ると、怪物の群れもだいぶ大きく見えた。

 だが奴らめ、やたらと遅いな。

 ま、準備できるし、こっちは助かるけど。


 遠くに見える港町の跡地から、半鐘を鳴らす音が聞こえて来る。

 おお、生き残りがいたのか。

 わざわざ危険を知らせる鐘を鳴らすって事は、第三の街みたいに結構な人数がいるのかもな。


「そろそろ一発目、いっとく?」


 なんだかウズウズしているフランが、期待の目で俺を見ている。

 今回の主役はお前だ、フラン。

 俺たちは馬を降り、徒歩で波打ち際まで歩く。


 うーん、空は靄に覆われているとは言え、やはり海は良いなぁ。

 潮風も心地いい。

 よし、いっちょ、かましてやりますか。


「それでは、フラン大先生! お願いします!」

「はいはーい、やるよー!」


 じっくりと詠唱するフラン。

 おおっ、念入りだな。


 その間にも、じわりじわりと怪物が近付いてくる。

 当り前だが、飛行型ばかりだ。

 真っ黒でシルエットしかわからんが、羽がついているのはわかる。

 大小様々な怪物がいるようだ。


 ゴオッ


 フランの超火球が飛んで行く。

 本日の一発目だ。

 火球は怪物を蒸発させながら天空を突き進む。


「はじけてまざれっ!」


 フランが左手をギュッと握りながら叫ぶ。

 えぇー! どっかで聞いたことあるー!


 バチュン


 轟音と共に、群れの真ん中で火球は飛び散った。

 破片が散弾となり、次々に怪物を消し飛ばしていく。


「おー! かっこいいなフラン! さすが最強の術者だ!」

「そ、そう? エヘヘー! エッヘン!」


 頭をかき、照れ笑いからのドヤ顔。

 相変わらず褒め殺しに弱いな。

 ま、そんなところも可愛いんだけど。


「じゃあ、二発目いっちゃうー!?」

「ささ、アホ先生、いつものバカやる時みたいに全力でやっちまってください!」

「はーい!」


 俺の雑言ですらも気を良くし、嬉々として詠唱を始めるフラン。

 今なら何を言っても誉め言葉と受け取るようだ。

 ちょろーい!


 フランの周囲にいくつもの火球が現れる。

 ぐるぐると何度か旋回した後、怪物目がけて飛んで行った。

 大きい怪物を狙い撃ちにしている。

 うおお、誘導弾か!


 その後も次々と火球を放つフランだったが、流石に心配になってきた。

 こんなに連発して精神力は大丈夫か?


 そう思った矢先に、プスンと音がした。

 見れば、フランの頭からプスプスと煙が立ち上っている。


 やっぱりな!

 調子に乗るとこれだよ!


「フラン!? いよいよ頭が壊れたのか!?」

「ふにゃぁー……ちょっと疲れたみたいー……でもまだ大丈夫ー」


 あんまりそうは見えないけど。

 まぁ、だいぶ敵の数も減ったし……

 ……って、おいおい、なんだありゃ?


 確かに群れはだいぶ減ったのだが、遠くからでもわかるほどの巨大な怪物が迫って来ていた。

 ドラゴンなんてもんじゃないぞ。

 何十メートルもありそうだ。


 しかもなにあの形!?

 足! 真っ黒な足だよ!?

 超巨大な人間の足首に羽が生えてんの!

 キモッ!!


「フラン先生! おいアホフラン! 起きろコラ! でかい足が来てるって! 頼むぅぅぅぅ!」


 俺はふにゃふにゃしてるフランを必死に揺さぶる。

 ペシペシと往復ビンタもかましておく。

 俺の熱意が伝わったのかパチッと目を開け、頬を赤く腫れあがらせたフランが、すっくと立ち上がってくれた。

 即座に長い詠唱を開始する。


 やばいやばい!

 でかいでかい!


 火球も足怪物もだ。

 見たことねぇよ、こんなサイズ!


 ゴゴゴゴゴ……


 重低音を響かせながら、とんでもない大きさの火球が巨大足に向かって行く。

 回避行動を見せる足怪物だったが、無駄な努力だ。

 俺のフランを舐めるなよ。


 ドォォォォォォン


 見事な誘導によって、火球が足怪物に直撃した。

 コバンザメのように、足の周りに群がっていた小型怪物ごと炎に包まれていく。


「やったやった! フランすごいぞ!」


 俺はフランを抱きしめ、頭をグリグリと撫でまくった。

 あれ? 大人しいな。

 真っ先に騒ぎ立てるはずなんだが……


 ズズズズズ……


 ん?

 あれ?

 ちょっ、足が焼け残ってる!

 それどころか俺たちに向かって落ちてきてないか!?


 待て待て!

 あんなのに踏まれたら、ここら一帯はペッチャンコだぞ!


 俺はフランを抱きかかえて走った。

 それはもう、ものすごい必死な形相で。

 俺たちが影に覆われる。


 もう、足は真上にいた。

 ああ、駄目だこりゃ。


「どっせぇぇぇぇぇぇい!!!」


 間に合わないと即座に判断した俺は、裂帛の気合と共に、フランの身体を投げ飛ばした。

 なるべく軽い怪我で済むように、柔らかそうな草地へだ。

 投げた勢いが強すぎて、俺まで転んだ。


「いだっ! いだだ!? どうなってんのー!? ……あれ? なんかほっぺも痛い! …………ちょっと、アキト!?」


 転がった痛みで目を覚ましたフランが、俺を見つけて駆け寄ろうとする。

 アホか!

 ブン投げた意味がないだろう!


「来るなフラン! 逃げろ!」

「でも!!」


 ズゥゥゥゥゥゥン


 舞い上がる膨大な砂塵と海水。

 大地震のような揺れ。

 俺の腰から下にかかる、圧倒的な質量。


 くそ、回避しきれなかったか。

 俺は下半身を、足怪物の小指らしき部分に踏まれていた。

 黒鎧のお陰で潰れたり、骨が折れたりしていないのは僥倖だ。

 マジで防御だけは本当に無敵だな、この鎧は。

 しかし、腰を抜こうとしてもまるで動けない。


 やっべぇな。

 生き残りの怪物たちが迫ってるってのに。

 剣も足怪物に踏まれてるし、どうしよう。


「アキトー!!」


 泣きながらフランが駆け寄ってくる。

 ああ、フランは無事か。

 よかった。


「アホかー! 逃げろっつったろうが!」

「できるわけないよ! 待ってて! 今、助けるからね!」

「いいから逃げろって! 残った怪物も来てるんだぞ!」


 俺の言う事も聞かず、小指を持ち上げようとしている。

 んなもん、持ち上がるはずないだろ。

 泣きわめきながら必死に頑張ってるフランに、そんな事言えるはずも無いけどな。


 バサリバサリと羽をはばたかせる音と共に、真っ黒で良くわからないがキメラかマンティコアのような怪物が俺の前に降り立った。

 口を大きく開ける気配。

 キメラだな!


 俺は、無防備な顔と首だけを腕でガードする。

 怪物の牙は鎧が通さない。


「ダメぇ! アキトから離れなさい!」


 杖をブンブンと振って威嚇するフラン。

 だが、フランには見向きもせず、俺を食おうと執拗に齧る。

 バサバサと新手が何匹か現れたようだ。

 そいつらも、なんでか俺ばかりを狙う。

 ちっ、剣さえ抜ければなぁ……


「アキト! アキト!!」


 ガードしている腕の隙間からフランの泣き顔が見えた。

 そうか、フランの髪に刺した花飾り。

 あれのお陰でフランは襲われないんだな。

 良かった。

 フランが無事ならそれでいい。


「ぐっ、フラン! 早く行け! ここは俺が何とかするから!」

「やだ! いやぁ!」


 ペコポコと杖でキメラを叩くフランだったが、効果があるようにはとても思えない。

 いつキメラたちがフランに牙を剥くか、気が気ではなかった。


「頼むから逃げてくれよ!」

「絶対にいやぁぁああああ!!」


 フランの絶叫と共に、ペキンと音がした。

 フランの握る杖が、まるで薔薇のように花開いている。


 なにが起こったんだ!?


 両手を広げ、瞼を閉じたフランが、黄金のオーラに包まれて空へ昇って行く。

 そして──────



 フランの頭上に虹色の文字が浮かんだ。


 LEGEND RARE


 ─────と。

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