表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/156

第八十三話 またまた西へ向かうのです


 滅んでしまった第三の街。

 だが、その地下には多数の生き残りが居た。

 俺たちもいったんそこへ身を寄せている。


 大怪我で動けなかった領主は、フランの癒しでだいぶ復調してきていた。

 身を起こし、話すことくらいは出来るまでに。

 俺は、領主さんに経緯を話して聞かせた。


「そうですか、旅立つのですね……わかりました。リッカ嬢、ミリア嬢。これまで本当にありがとうございました。お二人の尽力、決して忘れませぬぞ」


 深々と頭をさげる領主。

 なんだかいっぺんに老け込んでしまったように見える。


「俺とフランでこの二人を送ったら、ここに戻ってきます。それまではヤヨイとシャニィに街の警備は任せてください」

「おお、それは非常に助かりますな、司祭たちもフラン嬢に癒されてかなり回復しましたし、なんとか結界は維持できそうです。我々もすぐに復興へ向けて動き出しますぞ」


 ニカッと白い歯を見せる初老の領主さんだったが、やはりまだ無理をしているようだ。

 俺は領主の身体を支えているエリィに目をやる。

 お嬢様育ちにはかなりきつかったろうな。


 あれ? 目の光は濁っちゃいないようだ。

 いいぞ、それでいい。

 辛い経験は多かれ少なかれ、人を強くするものだ。

 彼女なら、もう俺たちがいなくてもうまくやっていけるだろう。


 ……優秀なメイドさんたちも、いっぱいいるしな。

 俺の覚えている限りじゃ、一人も欠けていないと思う。

 どんだけ優秀なの。


 後は、移動のための足が必要だな。

 馬車はもうないし、どうしようか。

 流石に全行程が徒歩では、トホホだぞ。

 往復で一ヶ月はかかるだろう。

 いや、急げば三週間くらいにはなるかも。

 どっちみち、きっついよなぁ。


「あのぅ、図々しい事を聞きますが、馬とかいませんかね……?」


 一応領主に尋ねてみることにした。

 少し卑屈だが、この街の惨状を思い出すと言いにくいもんなぁ。

 今は人も馬も資材も、全てが貴重なのだから。


「ハッハッハ、この私がそんな手抜かりをするはずがありませんよ。ちゃんと確保してありますので、ご安心召されよ」

「そ、それは助かります」


 やった!

 これで行程が半分は縮められる。


「何頭必要ですかな? 十頭までならご用意出来ますぞ」

「いえいえ、二頭でいいです。二人ずつ乗りますんで」

「では、すぐにご用意いたしましょう。当座の食料などもね」

「ありがとうございます」

「なぁに、災厄を祓う手助けができるのならば、お安い御用ですよ」


 俺は思い切り領主に頭を下げた。

 ポカンとしているフランの頭も掴んで下ろす。


 よし、これで整ったな。

 後は細かい打ち合わせをするか。

 特に、ヤヨイとシャニィに。

 この二人が、ここの要となるわけだし。

 俺は噛んで含めるように、こんこんと言い聞かせた。


「…アキト、細かい…ダーッと行って、ドーンとやれば全部済む…」

「アキトさん、まるでお母さんみたいですよ、そんなに心配しなくても大丈夫です、任せちゃってください」


 鼻息も荒く、自らの薄い胸をドンと叩く二人。

 余計に不安が募る。

 俺たちが付いていなくて本当に大丈夫なんだろうか。

 こんなに可愛いんだし、悪い大人に騙されたりするかも……


「過保護すぎよ、アキト」


 俺の表情から心を読んだようにリッカが言う。

 わかってるつもりなんだがな。

 あぁ心配だ、心配だ。


「ルカさんとクレアさんもいますから、きっと大丈夫ですよっ」


 ミリアにまで励まされる。

 気分は、はじめてのおつかいに子供を送り出す父親だ。

 こういう時は女性の方が強気だよなぁ。

 仕方ない、腹を括るか。


「わかった、ヤヨイ、シャニィ、この街は二人に任せたぞ」

「はい! アキトさんたちこそ気を付けてくださいよ!」

「…任せて…あ、帰ってきたらエッチなご褒美お願い…」

「あ、私も希望です!」

「いいの!? マジでするぞ!?」


 お馬鹿なやり取りも、またしばらくできないと思うと、少し寂しいものがあるな。

 まぁ、二人とも機転が利くから何とかなると信じよう。


 外に出された二頭の駿馬は、鹿毛と葦毛だった。

 どちらも良い馬体をしている。

 俺は先にフランを馬に乗せ、その後ろに座った。

 どうしてもフランを抱きかかえるような姿勢になってしまう。

 嬉し恥ずかしな表情のフラン。


 指をくわえたヤヨイとシャニィが、心底羨ましそうに見ていやがる。

 リッカとミリアもかよ!

 お前らはさっさと馬に乗れ!


 まだ外は危険があるかもしれないので、見送りに出てきたのはヤヨイとシャニィだけだった。

 ルカやクレアは、今も忙しく手伝っている事だろう。


 領主さんに聞いた話では南門のほうが瓦礫が少なく、馬に乗ったままでも街の外へ行けるらしい。

 その情報を受けて、いったん南門から出て、その後西へ向かうコースを取ることにした。


 馬上からヤヨイとシャニィに握手をする。

 なに、すぐ帰ってくるさ。


「二人とも、後は頼んだぞ!」

「いってきまーす!」

「いってらっしゃーい!」

「…お早いお帰りを…」


 手を振る二人を残し、馬は走り出した。

 全く、ゆっくりチュッチュしたりも出来なかったじゃねぇか。

 とっとと災厄のクソ野郎をブッ倒さねぇとな。


 情報通り、瓦礫のない南門跡地を抜け、西へと進路を取る。

 目指すは大平原の先。


 お? あれは俺たちと一緒に降りて来たシャトル群か?

 台形の箱にしか見えないシャトルたちが、大平原へ続く森の付近に鎮座していた。

 あの金属は街の復興に使えそうだな。

 ま、戻ってから考えよう。


 パカラッパカラッと軽快に並走する二頭。

 あれ? ミリアが前でリッカが後ろに乗ってんのか。

 艶めかしい真っ白な太ももも眩しく、ヒラヒラの白いローブをはためかせているミリアにしがみつくのは、いかつい鎧姿のリッカ。

 絵にならねぇー。

 普通は逆だろ、逆。


 俺はフランを後ろから抱きしめるようにして、格好良く手綱を握っているというのに。

 まるで姫と駆け落ちする王子のように見えないか?

 うん、見えないね。

 いや、それより駆け落ちはダメだろ。

 いったい姫と王子になにがあったんだよ。


 そんなくだらないことを考えながら馬を走らせる。

 姫、と言えばシャルロット姫だよな。

 のじゃのじゃ言う、可愛らしい小さなお姫様。

 元気にしているだろうか。

 災厄と思われる球体が出現したのは、聖王都のある大陸だったと思う。

 無事でいてくれるといいのだが。


 それで思い出した。

 橘博士と聖騎士王レインはどこに行ったんだよ。

 今は災厄の靄に浸食されちまったが、月面基地みたいな場所で何かを見つけたと違うんかい。

 あの人たちの行動は謎すぎるだろ。


 二頭の馬は森を抜け、大平原へと入って行く。

 広大な草原が眼前に。

 風が冷たい。

 もう、冬はすぐそこに来ているようだ。

 そうか、こっちの世界にも四季があるってことか。

 宇宙から見た感じでは、ここや王都のある大陸は緯度が高そうだったもんな。

 そんなところも無駄に北欧っぽいのは、なんだか不思議だ。


「ね、ねぇ、アキトさん、ちょっとお話が……」


 俺の思考を断ち切ったのは、目の前のフランだった。

 いかん、だいぶ長いこと思考の渦に捕らわれていたようだ。

 それにしても、随分神妙だなフランよ。


「どうした?」

「あの、ね……一度馬を止めて欲しいかなー、なんて……」

「なんだ、おしっこか」

「バ、バカー! 変態!」


 こらこら、馬上で暴れるな。


「おーい! ミリア! リッカ! フランがおしっこしたいって言うから、いったん休憩しようかー!」

「はーい!」

「わかったわー!」

「な、なんで言っちゃうの!? バカなの!? 鬼畜なの!?」


 真っ赤になって恥ずかしがるフランを無視して馬を止める。

 ちゃんと繁みがある場所にだ。

 優しいな、俺。


「いちいち生理現象で恥ずかしがるなよ、ほれ、行ってこい。なんならじっくり見ててやろうか?」

「アキトのバカバカバカ!!」


 ひらりと馬から降りて、繁みにダッシュするフラン。

 なんと身軽な動きよ。


「ミリアとリッカはおしっこ大丈夫か?」

「私は行っておきますね」

「私はまだ平気かな」


 ほら見ろ。

 大人はこのくらいオープンに言わないとな。

 フランの乙女心はわからん。

 よし、ついでに俺も放尿しとくか。

 適当な場所でする。


「ちょっと! なんでこんなところでしてるのーーー!?」


 戻ってきたフランに思い切り見られた。

 出るもんはしょうがないだろ。

 フランめ、指の隙間からガン見してるじゃねぇか。


「はっはっはっは、これがいずれフランを可愛がることになるんだぞー」

「いっ、いやぁぁああ! 早くしまってよぉぉぉ!」


 顔を覆ったまま、フランは馬の方へ走っていった。

 フフフ、初心なヤツめ。


 こら、馬鹿野郎、ピクつくな息子よ。

 今はまだ、その時じゃない。


「って、ちょっと待ってミリア!」

「はい?」

「俺の横でしようとするな! 繁み! あっちに繁みがあるから!」

「あ、そうでしたねっ」


 どうしちゃったんだミリアは。

 俺が居ない間に何かあったのか。

 こんな変態な子じゃなかったのに。


 さてと、すっきりしたところで再出発しようじゃないか。

 鹿毛と葦毛の二頭は、俺たちをその背に乗せ、地平線を目指して疾駆するのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ