第八十話 神の力がついに顕現!?
初代聖騎士王レオンの試練を終えた俺たち。
ぼろぼろの身体は、フランによって手厚く介抱してもらう。
いてて、容赦なく殴ってくれたもんだ。
万倍返しにしてやったけどな。
死闘の最後がどうなったか、一応説明しておこうか。
打ち合い始めてだいぶ経った頃だ。
お互いが死力を尽くした一撃を放った。
同時に弾き飛ばされた二本の剣。
後はもう、やれることはひとつしかない。
そう、殴り合いの泥仕合だ。
最初はスタンディングで殴り合っていたんだがなぁ。
気付けば、投げ技有り関節技有り、結局なんでも有りになっちまった。
最後は俺が王のマウントポジションを取り、連打連打。
拳の弾幕。
二人とも気絶寸前だ。
そこでようやく、王が降参したってわけだ。
あそこまで追い詰められたのは初めてかもしれん。
たぶん、王も負けたのは初めてだったのだろう。
悔しがり方が半端じゃなかったもんな。
「全くもう! こんな無茶して! 顎と頭蓋骨が骨折してたんだからね!」
「す、すまんなフラン、本当に助かった。世界一愛してるぞ」
「そんなのじゃごまかされないもん!」
やべ、本気で怒ってる。
俺は膝枕をされたまま、必死にフランをなだめた。
まぁ、確かにちょっとばかり無茶したな。
途中から俺も王も、引くに引けなくなっちまったからなぁ。
レオン王の方は、双子が治療しているようだ。
随分時間がかかっているようだが、もしかしてやりすぎたのだろうか。
いくらアンデッドの王でもあるとは言え、この手で聖騎士王を消滅させてしまっては寝覚めが悪いぞ。
俺は起き上がって彼の様子を見ようとしたが、フランに怒られた。
ものすごい剣幕だ。
大人しく膝に戻るしかあるまい。
だが、転んでも俺はタダじゃ起きないのがモットーだ。
「まだ動かないで、ちょっ、あっ、動かないでってば、あん、ダメぇ、みんな見てるってばぁ……」
動いてない、うん、決して動いてないぞ。
ただちょっと、顔を柔らかな太ももにグリグリ押し付けているだけだ。
うひょー、気持ちいいー。
って、おい、王よ。
いきなり起き上がってフランの痴態を凝視するのはよせ。
死にかけてたように見えたのは、双子にチヤホヤされるための芝居だな。
「私は不死身であるからな。だが、エイプのようなアキトとは違って、私の心は繊細なのだよ。ならばその傷心を癒してもらわねばなるまい? ささ、フラン嬢よ、もそっとその美しい脚を左右に大きく……」
エイプと言うのは、俺たちの世界で言うゴリラみたいなものだ。
待て、誰がゴリラだ。
しかも、負けたのをまだ根に持ってやがる。
「フランは俺のなので、そう言う欲望はカノンとシノンに満たしてもらってください」
「いやんアキト、俺のだなんて、私が照れちゃうよー」
赤い顔を覆いながら、腰をクネクネさせるフラン。
どうやら喜んでいるようだ。
「ぐぬぬ、双子では幼さ故に物足りぬ時もあるであろうに…………それを察せぬとは、流石卑劣漢のアキトであるな」
歯噛みしながらも嫌味を忘れない王。
まだ言うか。
ならば奥の手を使ってやる。
「あれあれぇ? さっき、わんわん泣きながら腕を振り回していた人は誰でしたっけー?」
「ぐっ!?」
「「お兄ちゃん! その話詳しく!」」
「やめぬか馬鹿者! 頼む! やめて!」
「カノン、シノンこっちへ来なさい、おにーさんがじっくり教えてあげよう」
異様に食いついてきた双子へ、事細かに説明してやった。
王は、恥ずかしそうに顔を膝に埋めてしゃがんでいる。
はっはっは、これで双子もしばらくは優位に立てるな。
めでたしめでたし。
「…………このような男に神の力を渡さねばならぬとはな……」
いそいそと黒いローブを羽織りながら、まだブツブツと嫌味を言っている。
しつこいったらありゃしない。
聖騎士王たる度量と求心力は、どこへ行った。
こんな狭量さで良く務まったもんだな。
「まぁ良い。案内する故、ついて参れ」
不死王の姿に戻ったレオン王は、双子と共にふよふよと飛んで行った。
俺とフランが後に続く。
台所から道場を抜け、玉座の間、そして超大広間へ。
「フラン嬢よ。汝は以前、ここで何かに触れたな?」
「へ? そうでしたっけ? まっさかぁ、私がそんなおバカさんに見えますか?」
滅茶苦茶見えるわ!
王の問いに、すっとぼけるフラン。
いや、これは完全に忘れ去っているだけだな。
アホの子は偉大なり。
俺は覚えているぞ。
フランが前回ここの探索しているさなか、床の何かに触れたのを。
その時は特に何も起こらなかったがな。
やはりアレには意味があったってことか。
「触れたのだよ、聖鎧を起動させるための装置にな。だが、それだけでは不十分なのだ」
王は俺に手招きすると、床の一部を指さした。
そこには、右手の形にへこんだ水晶の床がある。
触れろと言う事なのだろう。
俺はしゃがんで、そっと右手を触れさせた。
冷たく、硬質な手触りが伝わってくる。
だが、それだけだ。
別段何かが起こるわけでもなかった。
「うむ。それで良い、しばし待て……むっ?」
王が天井を見上げると同時に、ズズーンと広間が揺れた。
爆撃を受けたような爆発音もする。
「「なになに!? どうなってるのー!? 初代様ー!」」
「なにこれ!? アキト、地震よ地震!!」
双子とフランが、揃って慌てふためく。
「落ち着けフラン」
「いやあああ! アキトのエッチ!」
何もしてないよ?
ただ、後ろからフランの胸を鷲掴みにしただけだよ?
落ち着かせるためで、他意はないよ。
ホントだよ?
「落ち着いただろ?」
「ちっとも落ち着けないからね!?」
俺たちのアホなやり取りをよそに、不死王は険し気な雰囲気になっている。
爆音と振動は止まない。
不安そうな双子を、枯れ木のような腕で抱きしめていた。
「これはいかんな、災厄に察知されたのかも知れぬ」
「ええ!?」
「あやつめ、自らを脅かす存在には、相変わらず敏感よ」
不死王は、言いながら空中に指を走らせた。
すると、少し上の空間にノイズが現れた後、パッと映像が映し出された。
なんだこの技術は。
あるいは魔法なのか。
そこに映し出されていたのは、真っ黒な靄に包まれた四足獣のシルエット。
災厄に憑りつかれているのだろう。
だけど、サイズが……
山を覆い尽くす大きさだぞ?
そいつが、ガンガンと山腹を殴りつけている。
いや、踏んでいると言うべきか。
その度にここが揺れる。
つまりこの映像は、この鉱山を映し出しているのか。
不死王は、さらに素早く指を動かす。
ブウウンと、大広間全体から唸りのような音が溢れた。
なにがどうなった!?
もう、俺にも何が何だかわからない。
俺に出来るのは、フランの手を握ってやることくらいだ。
フランも怯えているのか、きつく握ってくる。
「アキト、フラン嬢。汝らをこれから聖鎧の内部に送る故、この穴に飛び込むが良い」
焦っているのか、少し早口の不死王が言った。
それと同時に、足元に大きな穴が開く。
「内部に到着したら、フラン嬢を後ろへ座らせるのだぞ、さぁ早く行くのだ」
「「お兄ちゃん、お姉ちゃん、気を付けてね!」」
いや、展開が急すぎません?
頭が付いて行かないんですけど。
「ええい! さっさと行けと言っておろうに!」
まごまごしている俺たちに、業を煮やした不死王が蹴りを入れた。
咄嗟に踏みとどまろうとしたが、双子のダブルドロップキックが俺の顔面にヒットする。
フランの手を握っていたのも災いした。
「うわあああああああ」
「きゃーーー!」
俺はフランを道連れに、あっけなく穴へと落ちた。
真っ直ぐ落ちるものと覚悟をしていたが、どうやらスロープになっているようだ。
超巨大な滑り台の如く、俺たちは下へ下へと運ばれて行く。
しばらく滑った後、ペイッと狭い空間へ投げ出された。
したたかに頭を打つ俺たち。
そこへ、どこからともなく不死王の声が聞こえて来る。
「着いたか? 着いたのならば、座席が二つあるはずだ。くれぐれもフラン嬢を後ろへ乗せるのだぞ」
「暗くて良く見えませんが、わかりました」
俺は手探りで座席とやらを探す。
俺の手が何かに触れたのか、淡い光が点った。
お、確かに座席が二つ前後に並んでいる。
「フラン、後ろへ行ってくれ」
「はーい」
フランが座ったのを確認し、俺も前の座席へ。
それにしても狭いな。
二人以上は厳しいぞこれ。
「汝らの目の前に、丸い水晶のようなものがあるはずだ。それに触れるが良い」
王の言うとおりに触ってみると、見たことも無い緑色の文字列が真っ黒な壁面を駆け巡った。
しばらくすると、数文字だけ残して全てが消えた。
その数文字は、何度も点滅を繰り返している。
なんだこりゃ?
「起動完了、だって」
後ろからフランが教えてくれた。
起動って言われてもなぁ。
「なんだろこれ? 押しちゃえ」
「あっ! こらバカ!」
俺が止める間も無く、フランが何かを押した。
久々だなこのパターン。
その瞬間、計器類のようなものが全て点灯した。
うおっまぶしっ。
「どうやら、起動に成功したようだな。いよいよここも危ない。私は双子を連れて脱出する故、汝らの武運を祈るぞ」
「えっ、ちょっ、何もかも投げっぱなしじゃないですかー!」
俺の叫びも虚しく、一方的に言うだけ言って、不死王の声は聞こえなくなった。
ここからどうすりゃいいのかもわからないんですけど!
「アキト、発進準備完了って出たよ!」
「なにそれ!? 無駄にかっこいい!」
と、思う間もなく、俺とフランは座席に押し付けられた。
強烈な重力がかかり、身動きも出来ない。
数秒程後に、パッと視界が開けた。
どうやら空中のようだ。
前後左右に雲が見える。
うわ、上下も透け透けだ!
まるで座席が宙に浮いているような感覚。
そうか、以前にあの大広間の中で見た、巨大ロボットみたいな聖鎧に乗っているってことか。
マジかよ!?
やっべぇ、テンションが一気に上がるじゃねぇか!
だが、俺の昂った気持ちへ水を差すかのように重力が消え、今度は身体が上に浮遊する。
つまり、自由落下だ。
なす術もなく、落ちるがまま。
一気に急降下していく。
え、え!? どうやって動かすのこれ!?




