第八話 SSRがもう一人!?
一応、練習のつもりで何度か木刀を素振りをしてみる。
すると、フランがすぐに吹き出した。
「プスー、何そのへっぴり腰」
ギッとフランを睨みつけると、サッとそっぽを向く。
このアマ!
ムカつくが気を取り直し、素振りを続ける。
いてて、もう筋肉痛だ。
普段、何もしないだけあって、身体が相当なまってるな。
あんな怪物がこれからも出ると言うなら、少しは鍛えておいた方がいいだろう。
フランだけに任せるのは少々心許ない。
ホントにSSRなのかこいつは。
「なぁフラン」
「なに?」
「お前より強いSSRっているのか?」
「ぐっ!」
見れば胸を押さえてうずくまっている。
ああ……この反応は、いるってことだな……
「こちら側に来ている強いSSRもいるのか?」
「はうっ!」
フランの心を深く抉ったようだ。
肩がプルプル震えているのが証拠である。
「そいつらに連絡とって、取り敢えずこっちの敵を片付けるとかさぁ」
「………捨てるの………?」
「えっ?」
「私を捨てる気なのね! 鬼! 悪魔! 鬼畜! 変態! ロリコン!」
「ちょ、やめろ! なんでその発想になるんだ! 別に捨てやしないぞ! って最後なんつったテメェ!」
ギャイギャイ騒いでいたフランが、ハッと顔を空に向けた。
俺もつられてそっちを見ると、黒い柱が空高くまで立ちのぼっていた。
敵が纏う靄、それの凄まじいヤツだとは何となく思ったが、でかすぎないか?
「あっちは公園のほうだな……」
「アキト、あれはヤバいヤツよ」
「見るからにな」
「ゲームで言う中ボスクラスよ」
「嘘だろ! マジかよ!?」
そんなもん、いったいどうすりゃいいのか。
てか、なんでそんなヤツがこんなところに出るんだ。
まさかフランが呼び寄せてるんじゃなかろうな。
ありそうだから困る。
俺は胡乱なものを見るような目つきでフランの横顔を眺めた。
しかし、俺たちで中ボスなんぞ倒せるとも思えないし、こりゃ困ったな。
そんな俺の悩みは、一瞬で解決された。
「あっ」
「おっ」
なんと、黒柱の割と近くに、虹色の柱がそそり立ったのだ。
あれ、なんか強烈な既視感。
虹色の柱は一瞬小さくなった後、四方八方に虹の輝きを撒き散らした。
「まさか……うそでしょ……そんな……」
眩い光の中で青ざめたフランが呟く。
光が収まった後、俺たちが上空をみると─────
S S R
例の、巨大で仰々しいフォントの金文字が浮かんでいた。
フランが現れた時と、酷似している。
「キターーーーーー!」
「来なくていい! 私が役立たずだと思われちゃう! うわーーーーん!!」
俺は何を隠そう、とっくに思っていましたがね。
ちょ、こいつガン泣きだ。
哀れな……
SSRの文字が消えた瞬間、黒柱を覆うほどの巨大な魔法陣のようなものが現れた。
それはぐるぐると回転しながら黒柱を飲み込んでいく。
「おおっ!」
俺は思わず前のめりになる。
男ならこんな熱い展開見逃せない。
ゲームやアニメ好きならなおさらだ。
魔法陣ぽいものが一瞬輝くと、黒柱は最初から無かったみたいに消え去っていた。
しばらくしてから、振動が、次いでドォンと言う音も俺たちに届く。
中ボスを一撃かよ。
強いSSRかぁ、良いなぁ。
羨ましいなぁ。
やっぱり最高レアリティを名乗るなら強くないとなぁ。
「おおー……」
俺が感嘆の吐息をもらす中、フランは体育座りで「の」の字を地面に書いていた。
一粒が数センチはあろうかと言う、大粒の涙を流しながら。
流石の俺も、憐れみを込めてフランを見つめることしか出来なかった。
つくづく不憫な奴だ。