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第七十九話 王の試練、そして決着


 不死王は準備すると言い残して、道場に併設された隣室へ向かった。

 俺は精神統一しながら待つことにする。

 ついでにストレッチもしておこう。

 身体よりも心をほぐしておかねばなるまい。


 フランはボコボコにされながらも、頑張ってくれた。

 次は俺が男を見せる番だ。

 見ててくれよフラン。

 俺が決意と共にフランへ振り返ると。


「わぁ! このお菓子美味しいー!」

「「うん! 美味しいねー!」」


 フランの奴め、双子と一緒に菓子を頬張ってやがる。

 しかも、ほっぺがパンパンになるほど詰め込んでいた。

 お前はリスか!

 俺の決意を返せ!


 なんなのもう!


 始まる前からかなりやる気を削がれたが、そうも言っていられない。

 不死王が、先程気になる発言をしたからだ。

 変身を残していると。

 本気で戦闘力五十三万の人みたいに変身するのだろうか。

 ただでさえ恐ろしいアンデッドの王だと言うのに、さらに変身されたのではロールプレイングゲームのラスボスも真っ青だろうよ。


「アキトよ、待たせたな」


 準備を終えた王が声をかけて来た。

 だが、見たところ何も変わっちゃいない。

 これで変身したのだろうか。

 そんな俺の疑問はすぐに氷解した。


「慌てるな、今から見せようぞ」


 王の声が、深く、重くなっていった。

 空気に満ちる重圧が、一気に増していく。

 菓子に夢中なフランと双子も、あっけにとられたようにこちらを眺めている。

 まだ頬はパンパンにしているけどな。


 ビリビリと道場全体が震える。

 くっ、すごいなこれは。


「見るが良い。これが私の真の姿だ!」


 王は、なんとローブをいそいそと普通に脱ぎ始めた!

 どういうこと!?

 まさか全裸で闘うの!?

 いや、待て!


 こ、これは……


 眩く輝いている金色の鎧。

 煌めく光を放つ大剣。

 なびくように揺らめく長い金髪。


「驚いたか? うむうむ、その顔をみるだけで私は満足だ」


 楽しそうに笑う声までイケメンだ。

 俺の顔があまりにも間抜けだったのだろう。

 いや普通驚くだろうこれは。

 禍々しい不死の王が、いきなり聖騎士王の姿になったんだぞ。


「これが私の全盛期時代だ。汝の動きでわかる、聖騎士の訓練を受けたな?」


 確かに俺は聖騎士ラスターから、特訓を受けた。

 彼は今、聖王都で宰相をしているが元気だろうか。


「ならばこそ、だ。私も聖騎士王として汝と相対せねばなるまいて」

「……いいでしょう。俺も本気で答えます」

「ふむ、良い目だ。やっと汝の本気が見られるな」


 嬉しそうに目を細める聖騎士王レオン。

 そして巨大な剣を、顔の前に立てた。


 これは、俺もラスターから一番最初に教わったものだ。

 聖騎士の礼である。

 俺もレオン王に倣って黒剣を顔の前に立てた。


「カノン、シノン。開始の合図をするのだ」

「「は、はーい! 初代様、素敵ですぅー! 行きますよー!」」


 ドドン


 和太鼓の音が鳴る。


「行くぞ、アキトよ!」


 レオンが大きく踏み込んで来る。

 まずは力試しか。

 いいだろう、受けて立つ。


 真上から振り下ろされる大剣を、俺は盾で受け止めた。

 ぐっ、重い一撃だ。

 盾ごと吹き飛ばされそうになるのを、なんとか踏みとどまる。

 ギリギリと押し込んで来る王。


 負けるか。

 俺は盾を外側にずらし、王の大剣を滑らせていなすと同時に黒剣を突き出した。

 容赦なく首を狙ったつもりが、いつの間にか振り戻した大剣で防がれた。


 なんちゅう反応速度だ。

 聖騎士王は伊達じゃないな。


「ふむ、聖騎士として見るならば、まぁまぁだな。だがそれだけよ」


 超上から目線の物言いに、カチンと来た。

 舐めるなよ。


 俺は盾を、王の眼前にかざした。

 そして王の足元を斬りつける。

 視界を塞ぐ作戦だ。


 ギン


 金色の脛当てに黒剣がヒットする。

 よし!


「むっ、良い、良いぞ。そうでなくてはな」

「まだまだ、驚くのはこれからですよ」

「言うではないか!」


 ドゴン


 中段から大剣が真横に振るわれた。

 いかん、盾で受け止めたつもりが、腕ごと弾かれる。

 なんて膂力だ。

 腕が痺れたぞ。

 王が二撃目を振りかぶる。


 俺は弾かれた腕を軸にし、その場で横に回った。

 その勢いを利用して、黒剣を左に薙ぐ。


 カァン


 あらかじめ俺の動きを察していたのか、大剣で綺麗に受け流された。

 くそ、やるな。

 そのまま王が、背中を見せる。

 やばい、回転斬りか。


 高速で俺の胴を狙う王の大剣は、空気のみを切り裂いた。


「ぬっ!?」


 俺は王の身体を飛び越えて、その背後に着地する。


 ゴッ


 盾で王の背中を思い切り、どついてやった。

 流石の王もたたらを踏む。


「やるではないか! そうこなくてはな!」

「アキト格好良いー! 愛してるよー!」

「「あぁん! 初代様がんばってー!」」


 三者三様の声をあげた。

 フランの応援が来ると、俄然張り切ってしまうな。

 よし、もっと良いところを見せ……


 ゴン


「わっはっは! 隙有りだぞアキト!」


 俺が少しよそ見をしている間に、拳で顔を殴られた。

 いってぇー!

 畜生め!


 俺は突進し、目にも止まらぬ速さで突きを見舞った。


 カカカァン


「ぬっ、むっ!」

「はぁぁぁっ!」


 大剣で受け止めてはいるものの、徐々に後退する王。

 突け! 突け!

 フッと王の姿が視界から消える。


 下か!?

 と思う間も無く、王の足払いで俺は背中から転倒した。

 一瞬息が詰まる。

 二撃目を食らう前に、俺は転がって跳ね起きた。


「はぁ、はぁ、やりますね」

「ふぅ、ふぅ、汝もな」


 王も少し息切れしているのが、せめてもの慰めだ。

 だが、王の目の光は少しも鈍っちゃいない。

 お互いが剣技のみで闘っているのは、隠し玉を使うタイミングを計っているからだ。

 いや、儀礼上でもあるがな。


「アキトよ、汝の力はわかった。ここからは全力で行こうではないか」

「気が合いますね。俺もそう思っていたところです」

「はっはっは、では、参る!」


 王が突進してきた。

 大剣を思い切り引いている。


 突きか!?

 王が初めて見せる突き。

 物凄い速度で俺の首を掠める。

 なんて突きだ。

 速すぎる!


 突きと言うのは、隙の少ない技だ。

 剣を引けば、すぐに連撃できる。

 斬ることに比べて、身体の動きも最小限で済むのだ。


 だが、王は、身体ごと突っ込んで来た。

 そこに隙は生まれる。


 片手で突いてきた王の腕に被せるように、俺は盾で顔面を殴った。

 いわゆる、クロスカウンターだ。


 ベキッ


 完全に捉えた。

 王の上半身が後ろへのけぞる。


「「初代様!!」」


 双子の悲痛な叫び。


 ガッ


 一瞬何が起こったのかわからなかった。


 カラーン


 遠くに聞こえる金属音。

 俺の手から、盾が無くなっていたのだ。

 のけぞったのはわざとか!


 倒れると見せかけて、下から俺の盾を狙って剣を振り上げたようだ。

 くっそ、そう来たか。


「だが、今のは効いたぞ、アキトよ」

「とてもそうは思えませんが……」


 余裕そうに笑う王だが、少しだけ鼻血が出ていた。

 あ、意外と効いてるのは本当だったのか。


「提案があるのだがな」

「何でしょう?」

「やはり、このまま剣技だけでやらぬか? 私は今、楽しくて堪らぬのだ」

「いいですね、俺もですよ。俺の剣がどこまで通じるのか試してみたいんです」


 俺と王はニヤっと笑った。

 お互いに、再度聖騎士の礼を取る。

 盾を失った俺は、両手で黒剣を固く握りしめた。


 そして同時に突進。

 ギャリンと激しく剣同士がぶつかり合う。

 飛び散る火花。


 何合にも渡って打ち合い続ける。

 延々と。

 時に、鍔迫り合いでの力比べ。

 時に、野蛮な拳や蹴り。


「ねー、アキトー。まだ終わんないのー? お腹空いたよー」

「「初代様ー、わたしたちもおなかぺこぺこですよぅー」


 お前ら、さっきあれほど菓子を食ってたろ!


「「フランお姉ちゃん、台所に色々あるから食べに行こうよー」」

「本当!? 行く行くー! アキトー、私たち、向こうに行ってるねー!」


 なんて冷たい連中だ!


 どれくらいの時間を費やしたのだろうか、俺と王は心身ともに疲弊しきった状態で台所へ入る。


「あ、アキトー! やっと終わったの? …………誰!?」

「「初代様……? ひぃぃ!!」」


 フランも双子も、驚愕の目で俺たちを見ていた。

 無理も無い。

 俺と王の顔は、数倍に膨れあがっているのだから。

 瞼が腫れすぎて、前もろくに見えない。


「フガフガ、フガ……」

「なんて!? なんて言ったのアキト!? 全然わかんないよ!」


 唇もバナナ並みに腫れているから、満足に喋れもしない。


「アキヒョの勝ちふぇひゃる」

「「初代様!? 歯と毛が一本も無いですよぅ!?」


 王に至っては、頭髪まで残っていない。

 イケメンが台無しだ。


 ドシャリと椅子に座った俺と王は、真っ白に燃え尽きていた。


「いやぁー! アキトしっかりしてよー!」

「「初代様ー! 逝かないでぇー!」」


 フランと双子の絶叫だけが、台所に木霊するのであった。


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