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第七十八話 これが試練ってひどくない?


 いきなり試練を受けよと言う、初代聖騎士王レオン。

 果たして、俺たちにいったいどんな途方も無い試練が待ち受けているのか!


 なんて言うとちょっと格好良いよな。

 アニメや漫画の次回予告みたいでさ。

 うん、現実は厳しいのですね。


「なに、簡単な事。私に汝らの力を見せれば良いだけだ」

「えー!」

「ええええーーー!!」


 抗議の声は、俺よりもフランの方が大きかった。

 無理もない。

 相手は不死の王だ。

 ……そもそも武器って効くの?


 やばい、フランの顔が青を通り越して、白い。

 魂が半分抜けかかってるのを、体内へ押し戻してやるように頭をバシバシ叩いてやる。

 これで少しはアホの子も治るといいのだが。


 うむ、どうやら魂は戻ったようだ。

 死んだ魚のようだったフランの瞳に、光がともる。


 だが、足が生まれたての小鹿みたいに震えているし、今にも失禁してしまいそうなのはどうしたもんかね。

 こんなところで粗相はやめてくれよ?

 美少女の聖水とか、一部喜んじゃう人もいるかもしれないが、俺にそんな趣味は無いぞ。


「安心せよ、私が見たいのは勇者アキトの力と意思なのだ…………ふむ、ではこうしよう、フラン嬢には双子と戦ってもらうことにする」

「「えええーー!」」

「「えええええ!」」


 まさに青天の霹靂。

 俺とフラン、カノンとシノンの二組が同時に声を上げてしまうほどであった。

 なんてことを言い出すんだ、このおっさんは。

 絶対に、今適当に思いついただけだろ。


「「初代様ぁ! わたしたち、戦ったことなんてないですよぅ!」」

「私も嫌ぁ! ねぇ、アキト! なんとかしてー!」


 お互いの主人に詰め寄る双子とフラン。

 何とかしろって言われてもなぁ。

 年寄りは頑固と相場が決まっている。

 俺たちの意見など聞いてもらえるかどうか。


 現に双子が必死に抗弁しているってのに、この王様は両耳に指を入れて栓をし、ツーンとそっぽを向いたままだ。

 初代の聖騎士王が、まさかこんなキャラだったなんてな。

 緊張感も、とっくにどっかへ飛んで行った。


「やるのだ、良いな? でなければ、食事抜きである」

「「……ふえぇ……わかりましたぁ……」」


 不死王のとどめの一言に、半泣きで頷く双子。

 って、あんたらご飯食べるの!?

 アンデッドの食事って何!?

 まさか人間の丸かじりとか!?


「上手に出来たら、おやつは甘ーいお菓子をあげよう」

「「「わーい!」」」


 フランまで双子と一緒に喜んでる!

 お前にはプライドとかないのかっ。

 つーか、菓子かよ。


「私、お菓子のために……ゴホン、アキトのために頑張るね!」

「今なんて!?」


 駄目だ、どこからツッコミを入れていいのかわからん。

 さっきまでの漏らしそうな緊張感もどこへやら。

 俄然やる気を出したフランが、鼻息も荒く杖を構えた。


 双子はと言うと、何やら隅っこでボソボソと話している。

 作戦会議だろうか。


「おお、いかん。ここでは狭すぎるな」


 不死王が骨っぽい指をバチンと鳴らすと、左の壁に扉が現れた。


「この奥が道場になっておる」

「道場!?」


 いったい何の道を究めようとしているんだ、この御方は。

 だが、急かされるままに俺たちは付いて行くしかない。

 確かに、広い方がやりやすいしな。


 短い廊下の奥は、かなり広い部屋となっていた。

 百畳以上ありそうだ。

 ご丁寧な事に、床が板張りとは。

 しかも、何故か床の間の造りになっている挙句、神棚みたいなものまであった。


 天井近くの壁には、額縁に入った巨大な書が。

 その書には、変態紳士の四文字が異様な達筆で書かれている。

 なにこれ!?


「驚いたようであるな。昔、汝の世界の者と出会った折に、その者の話を参考に作ったのだ。そちらの世界では鍛錬や勝負はこう言う場で行うのだろう?」

「合ってるような、思い切り勘違いしてるような……」


 間違った知識を植え付けられた外国人みたいになっているが、とても言い出せる雰囲気じゃない。

 否定しても仕方がなかろう。

 よく見れば、天井も高いし、動き回るにはいいかもしれない。


「では、フラン嬢、カノン、シノン、前へ出よ」


 だだっ広い道場のど真ん中に立たされるフランと双子。

 不死王は既に審判気取りだ。

 何やら注意事項をくどくどと説明している。

 俺は少し離れた場所で、フランの応援をすることにした。


「準備は良いな? 試練開始!」


 王の重々しい声と共に、どこからかドドンと和太鼓の音が道場に鳴り響く。

 無駄にすごい仕掛け!


 フランは開始と同時に、双子から離れるべく駆け出した。

 術が主体のフランは、相手から距離を取って詠唱するのがセオリーのひとつだ。

 おっ、まずは自分に支援をかけるつもりだな。

 いいぞ、それでいい。


 フランの頭上に次々と支援効果の文字が浮かぶ。

 勿論、双子もこれを見過ごすわけにいかない。

 左右から挟み込むように、フラン目がけて飛んで行く。

 双子はいつの間にか、それほど長くない木剣を握っていた。


「フラン! 詠唱中断! 前へ飛べ!」


 しまった、いつもの癖で指示しちゃった。

 フランは指示通り前方へ飛び、一回転して立ち上がる。

 双子の木剣は空を切った。

 グッドだ!


「これこれ、アキトよ。それはズルではないのか?」


 少し焦ったような王の声が、すぐ近くから聞こえた。

 気付けば俺の横に立っている。


「ほほう、では二対一はズルくないと?」


 俺も負けじと言い返す。

 目は、フランと双子の下半身に釘付けのまま。


「……ぐぬ、まぁ良かろう。それにしても若い娘はやはり良いものだな」

「最高ですね。見てくださいよ、あの張りのあるフランの瑞々しい太ももを。そして、双子のしなやかな幼い脚も」

「うむ、素晴らしい、素晴らしいぞ」


 変なところで意気投合する俺と不死王。

 完全にエロ目線で見守る俺たちであった。

 趣味が合いすぎるのも困ったもんだ。


 フランが双子の木剣を杖で受け止めながら、何事か詠唱している。

 一気に決める気か。

 させじと、片割れがフランの後ろへ回り込み、小さな手でフランの口を覆った。


「んんー!」


 強制的に詠唱を妨げられるフラン。

 必死にもがく姿が、これまたエロい。


「そう言えば、レオン王。双子はどうやって見分けているんですか?」

「ふむ、観察力が足らぬな、アキトよ。泣き虫がシノンだ」


 だからそれはどっちだ。


「つまり、だ、泣きボクロがある方こそシノンよ」

「なるほど、ありがとうございます」


 助かるわー。

 名前を間違って呼ぶのは可哀想だもんな。

 て事は、今フランの口を押えている方がカノンか。

 いいぞ、カノン! もっとやれ!

 じゃなかった。


「フラン! 後ろに倒れるんだ!」


 素直なフランはビタンと倒れた。

 カノンがその下敷きとなり、むきゅーと声を上げる。

 やはりな。

 物体に触れている間は、カノンにも実体があるのだ。

 その隙に早口で詠唱を始めるフラン。


「カノンよ! 早く立ち上がるのだ! ペロペロの刑に処するぞ!」

「何それ!? 素敵で卑猥な響きですね!」

「私の数少ない楽しみのひとつよ」


 この人、ガチだ。

 ひぃぃと悲鳴をあげながら、素早くカノンが宙に舞う。

 余程嫌な刑なのだろう。

 そして再度フランの口を塞ごうとしている。


 フランはその気配を察知したのか、バッとカノンの方へ振り返った瞬間。

 小さめの火球が杖から飛び出し、カノンの小さな身体を包み込んだ。

 ボムと音を立てて、カノンが数メートルほど吹き飛ばされる。


 ああ、なんてことだ。

 カノンの可愛らしい縦ロールが、見事なアフロヘアーに……


「アキトよ、汝の嫁は非道であるな」

「でも、あいつ可愛いでしょ?」

「ぐぬぬ」


 歯噛みする王は放っておこう。

 目を戻すと、カノンにかかりきりとなったフランの後頭部を、シノンが必死に木剣で叩いているところだった。


「いたっ、ちょ、いたた! 痛いってば! うわーん! 痛いー!」

「わーん! よくもカノンにひどいことをー! あんな頭じゃ恥ずかしくて生きていけないよー!」


 どっちも泣いてる。

 そして、壮絶な殴り合いが開始された。

 二人の頭に、みるみるたんこぶが増えて行く。


「おっ、もうちょっとこう、二人とも脚を開け、そうだ! そう! そう!」

「シノンよ、フラン嬢の足元を攻めてくれぬかっ! 良い! 良いぞ!」


 数十分に渡る長き戦い。

 フランがやけっぱちで放った火球が、道場全体を包み込む。

 ズドーンと天井まで打ち上がったのは、真っ黒焦げのアフロになったシノン。

 残った炎の余波が、俺までも焼こうとその手を広げてくる。

 うおー! あっちぃー!

 そんな炎の中でも平然としている不死王が、高らかにこう告げた。


「勝負あり! それまでだ!!」


 カンカンカンカンカンカン


 どこからともなく、ゴングの音が聞こえて来る。

 ボコボコになったフランが、脚を引きずりながら俺の方へ戻って来た。

 服が派手に破れ、左肩と半乳が出ている。

 ニーソックスも片方がずり落ちていた。

 綺麗な金髪がグシャグシャだ。


 そこまでの死闘だったっけ!?


「ぐすっ……勝ったよアキト……ヘヘ……偉い……?」

「ああ、良くやったぞフラン。俺はお前を誇りに思う」

「エヘ、ヘ……よかっ、たぁ……」


 ドシャアッと倒れるフラン。

 その涙にまみれた顔は、満足気な笑みを浮かべていた。


「フラーーーーン!」


 俺はフランの身体を抱きかかえて叫んだ。

 お前の雄姿は忘れない。

 忘れるもんか。

 見せてもらったぞ、その覚悟と生き様を!

 俺はフランに別れのキスをした。


「また来世で会おうな」

「死んでないよ!?」


 フランが、ガバリと起き上がる。

 おや、思ったより元気だな。


 戦闘不能となった三人に、不死王が癒しをかけていく。

 癒しと言うよりは、ドレインを逆流させているらしいのだが、治るならどっちでもいい。

 それよりも、後ほど双子に与えられるペロペロの刑が気になってしょうがない。

 俺も参加させてもらえないだろうか。


「さぁ! アキトの番ね! 頑張ってよ、お菓子のために!」


 あんまり嬉しくない激励をフランからいただいた。

 ボコボコだった顔も癒え、いつもの可愛いフランに戻っていたのが救いか。


 俺と王が道場の真ん中に立つ。


「勇者アキトよ。これから汝の力を見るわけだが、この姿のままではやり難かろう。私は変身を残しておる、それを見せてやろうではないか」


 なんだって!?

 どこのフ〇ーザ様!?


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