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第七十七話 やっぱり異常にフレンドリー


 カノンとシノンが呼ばわった、初代様とやら。

 重厚な声はすれども、姿は見えぬ。

 でもなぁ、この声、聞いた覚えがあるんだよなぁ。


 もうね、嫌な予感しかしない。

 絶対にあの異様にフレンドリーな……


「「お兄ちゃん、お姉ちゃん! わたしたちが初代様の所へご案内するね!」」

「あ、ああ、頼んだよ、二人とも」

「「うん!」」


 俺とフランは、誘うようにふわふわと飛んでいく双子幽霊の後を追った。

 フランなど、既に青い顔で俺の腕にしがみついている。

 わかる、わかるぞ。

 出来る事なら俺も会いたくない。


 双子は時々、俺たちがはぐれていないか確かめるように振り向きながら、ふよんふよんと飛んでいく。

 時折、おぱんつが見えるのは眼福であろう。

 しかし、この水晶の谷って、こんなに入り組んでいたっけ?

 さながら、遊園地にある鏡の迷路のような場所になっていた。


 やばい、もう道順の記憶があやふやだ。

 双子ゴーストとはぐれてしまったら、一生脱け出せる気がしない。

 無残に干からびた俺とフランを想像してしまう。

 俺たちもアンデッドの仲間入りしちゃうじゃないか!


「あはは……アキト、顔青いよ……」

「へへ……お前もな」


 俺とフランは、引きつった笑顔でお互いの顔を見つめた。

 フランの長いまつ毛と、青くなった唇まで震えている。

 ちょっとばかりビビりすぎだろう。

 フランの頬を両手で温めるように挟む。


「大丈夫だ、お前には俺がいる」

「アキト……うん、頼りにしてるからね」

「任せとけ」


 安請け合いも甚だしいが、こうでも言わないと俺まで動けなくなりそうだ。

 俺はこんなところで足を止めるわけにはいかない。


 って、おい! どこ行った!?

 双子がどこにもいねぇぞ!?

 さっき、はぐれたらやばいって思ったばかりなのに……

 くそ、探しに行くしかないか。


「ねぇ、下手に動くよりここで待ってようよー、私、足が震えちゃって……」

「そうだな……確かに余計面倒なことになりそうだもんな」


 二人で水晶の柱を背に座り込む。

 フランの震えはまだ収まっていない。

 俺はフランの腰を軽く抱いてやった。

 こっそりと横乳を触ることも忘れない。


「やっぱりお前もさっきの声の主がわかってるんだな?」

「うん、あの声は忘れないよね……」

「災厄を除外したら、多分この世界でも最高クラスなんじゃないのか?」

「私が知ってる限りだと、そうかも……」

「なんとか戦闘は避けたいもんだな……」

「うん……」


 二人で大きな溜息をつく。


「あんまり深く考えるとドツボにはまりそうだな」

「うん、そうね」

「お気楽でテキトーにが俺たちのモットーだろ?」

「え、そうだっけ? 初めて聞いたけど」


「今思い出したんだけど、今日はいつものおはようのキスしてなかったな」

「いつもしてたっけ!?」

「してたしてた」

「それこそ初めて聞いたよ!?」

「なんだ、嫌なのか?」

「全然嫌じゃないです!」

「よしよし、いい子だなフラン」


 俺は唇を思い切り尖らせる。

 フランがちょっと笑いながら目を閉じたのを確認し、顔を寄せた。

 むふふ。


「ほう、仲睦まじいな。勇者よ」

「「!?」」


 いきなりあの重々しい声がすぐ近くで響く。

 俺たちはギョッとするかないじゃないか。

 内心では忌々しく舌打ちをしながらだ。

 今は世界を救うよりも、フランとキスをしたかったのに。

 この出歯亀め!


 恐れよりも、助平を邪魔された怒りの方が先に出る。

 エロこそが世界を救うのだと、この時俺は確信していた。


「覗き見は趣味が悪いですよ」


 怒りに任せて言ってしまった。

 後から押し寄せる後悔。


「……その通りだな。すまなかった、許せ」


 身構えていた俺もフランも思わずコケる。

 なんでこうもフレンドリーなのこの人。

 厳密に言えば人じゃないけど。


「いや、俺こそ失礼を言ってすみませんでした。ここは貴方がたの領域でしたね」

「良い良い、あまりに来るのが遅いから、様子を見に来たのだ。双子とはぐれてしまったようだな。呼び戻す故、しばし待て」


 なんて良い人なんだ!

 って言うか待ちくたびれたの!?

 可愛い!


「「お兄ちゃん、お姉ちゃーん!」」


 すぐにカノンとシノンの姿が現れた。

 壁を貫通してくるあたりが、やはり幽霊なんだなと実感する。


「では、今度こそ気を付けて来るのだぞ」


 それきり、重々しい声と重圧が消え去る。

 ホントに変わった人だな。

 よし、気を取り直して行こう。

 俺はカノンと、フランはシノンと手を繋いで歩き始めた。

 最初からこうすりゃよかった。

 これなら迷う事もあるまい。


 俺たちは、さして長時間歩くこともなく、超大広間へと到達した。

 なるほど、ここに至る道は複数あったのか。


 広間を抜け、あの立派な椅子だけがある部屋へ向かう。

 そこには、水晶の立派な玉座に腰かけた真っ黒のローブ姿があった。


「良く来たな、勇者よ。怪我はないか?」

「「初代様ー!」」


 双子が嬉しそうに初代様の周りを飛ぶ。

 初代様は相変わらずフードを被っていて、顔がわからない。

 だが、身に纏う空気が人のそれではない。

 そう、彼はアンデッドの王なのだ。

 リッチーやノーライフキングと称される、不死なる者共の王。


「俺たちは何故ここに呼ばれたのですか?」


 思い切って尋ねてみた。


「うむ。まずは、私の自分語りをさせてもらおうか。私は、初代聖騎士王レオンの成れの果てだ」

「ええ!?」


 マジかよ!

 なんで聖騎士王がアンデッドに!?


「太古、私が王だった頃。神々との戦いで消滅したと思っていた災厄が、再びこの世界を覆った」


 年寄りの話は長い。

 気も遠くなるほどの年月を過ごしてきたのだから、余計に長い。

 脚色もすごい。

 仕方がないから俺が要約する。


 再び現れた災厄に対し、レオンとその仲間たちは神々の遺産である聖鎧の力をもって対抗した。

 しかし、神の力を振るっても災厄を滅するまでは叶わず、弱体化させるのが精一杯だった。

 どうも、この世界の人間では、神の力の半分も使いこなすことが出来ないようなのだ。


 その時、彼は考えた。

 災厄の極大期は、再び必ず訪れると。

 災厄を完全に滅する手段を、人類は持たねばならぬと。

 戦後、レオンが初代聖騎士王となり、世界の復興とともに着手したのが、例の謎施設であるアカデミーの創設だった。

 この世界の人間で駄目ならば、異世界から勇者となれる人間を召喚するしかないと考えたのだ。

 レオン王の時代に、レアリティ当選システムが完成を見ることは無かったが、脈々と現代までその意思は紡がれて来たようだった。


 そして彼は、もうひとつの研究をしていた。

 それは、彼が天寿を全うする頃、ようやく形になった。

 そう、不死の王に成る転生の秘術である。

 彼は死の直後、秘密裏に施術した。

 忠実なアカデミーの腹心たちによって。

 全ては、死してなお、勇者となり得る人物が現れるのを待つためであった。

 以来、不死の王となった彼は、ここで長き時を過ごしている。


 長く壮大な物語が終わり、静寂だけが辺りを支配する。

 俺もフランも、沈黙するしかなかった。

 だが、思いついたことを、ひとつだけ聖騎士王レオンに尋ねてみる。

 ある意味、根源に関わる質問だろう。


「……災厄とはいったい何なんでしょう」

「千億もの夜を越えて顕現せし者、と神々より伝わっておる」

「そう、ですか」

「全ての生物から生じる悪感情を食らう者。生あるもの全てを憎悪する者、ともな」

「それはつまり、災厄に何らかの意思があると?」

「うむ、私はそう考えておる」

「なるほど……」


 これ以上は、それこそ神でもないとわかるまい。

 俺もぼんやりとしたイメージしか掴めなかった。

 災厄とはもしかしたら……


「私たちはこれからどうすればいいんですか?」


 すっかり緊張の解けたフランが、レオン王に言った。

 そうだ、重要なのはそこだ。

 俺たちはこの王に認めてもらわねばならぬのだ。

 王が守っていると思われる、神の力を得るために。


 そうか、今わかったぞ。

 黄昏の占術師、アレア婆ちゃんが言っていたのはこのことだったんだ。


 東にて、さる御方が待っている。


 つまり俺たちがここに至ったのは必然だったわけだ。

 謎な部分もまだ残されてはいるが、間違いないだろう。


「少女よ、名は何と言う?」

「フラン、です」

「そうか、フランと申すか。女神の一人と同じ名であるな」

「えっ?」


「生まれはどこだ?」

「……わかりません」

「両親の名は?」

「それも、わかりません……」

「そう、であるか。すまぬな、酷な事を聞いてしまったようだ」

「いいえ。お気遣い、ありがとうございます」


 ちょっとだけショボンとしてしまったフランの頭を撫でる。

 いいんだ。

 お前は俺だけのフランでいてくれれば、それでいい。

 生まれも育ちも関係ない。


「勇者アキトよ、その子を守ってやってくれぬか」

「は? はい、勿論そのつもりです」


 何でそんな事を言うのだろうか。

 確かに時々、死んでもフランを守らなければと思う事はあるが……


「さて、唐突だが、汝らにはひとつ、試練を受けてもらわねばな」

「「!?」」


 試練!?

 本気で突然だな! 

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