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第七十二話 時には妬いちゃう事もある


「アキトさーーーん! やりましたね!」

「アキトさん、素敵ーーー!」


 壁の上からタクミとライムが手を振っている。

 俺はニヤっと笑いながら片腕をあげてガッツポーズした。

 それを見ていた観衆から、またもウオオオと喝采が上がる。


 俺たちはそのまま街へ入り、タクミたちとも合流して領主の館へと向かった。

 聞けば領主のサドアさんも、怪我を負っているらしい。


「街の中はもう大丈夫ですって。司祭たちが結界を張ったみたいですよ。これで街の中にいる限りは災厄に憑りつかれることもないだろうって」

「ほう、それは助かるな」


 そんな事を話しながら、ライムが馴れ馴れしく俺の腕に抱き着いてきた。

 たわわな胸が当たる当たる。

 こりゃきっと、俺の気を引くためにわざとやってるな。

 しかし、こうかはばつぐんだ。

 つい、鼻の下が伸びてしまう。


「むぅー!」


 むくれたフランが何事かブツブツ言ってる。


「あちゃちゃちゃーーー!!」


 突然ライムが自らの尻を押さえながら飛び跳ねた。

 フランめ、やりやがったな。

 どうやらライムの衣服に術をかけたようだ。

 あーあ、ホットパンツが焼けてお尻丸出しになってら。

 眼福だ、御馳走様。


「アホだなお前、アキトさんに手を出すなんて……真の勇者様とSSRだぞ? 敵うはずないだろ」


 タクミがライムを戒めるように言いながら、布を腰に巻いてやっていた。

 よろしい、こいつらもだいぶ更生したようだな。


 館への道中で辟易したのは、次から次へと様々な連中から握手を求められたことだ。

 街の人々も、よほど嬉しかったのだろう。

 フランに至っては、術が圧倒的な威力だったこともあってか、ものすごいモテかたをしていた。

 大半はおばちゃんたちで、もみくちゃにされるほど可愛がられていたが、中にはいきなりフランに求婚する野郎もいた。


「一目で感じました! 俺の運命の人は貴女です! 結婚してください! 必ず幸せにしますから!!」

「えぇー!? それはちょっと……あの、困ります」


 チラチラと俺を窺うフラン。

 なんで俺を見る。

 自分で断ればよかろうに。

 ま、仕方ない、助けてやるか。

 と思ったんだが。


「なぁに言ってんのアンタ! フランちゃんにはもう旦那様がいるんだよ! 勇者アキト様って言う立派な御方がね! アンタなんかの出る幕じゃないよ! 成金は引っ込んでな!」


 求婚男はおばちゃんたちの手で、フルボッコにされていた。

 哀れな……


「ごめんねアキト、次からはキッパリ断るね」

「そうしてくれると俺も嬉しいけどな、正直心臓に悪い」

「えっ? もしかして妬いてくれるの? 本当!?」

「そりゃまぁ、他の野郎に口説かれてたら妬くだろう」

「うれしい……愛してるのは、あ・な・た、だけだからね、うふん」


 なんか久々に引っ叩いてやりたくなった。

 ペシッと、あんまり痛くない程度に頭を叩いて泣かせておく。

 これは、罰である。

 だが、泣きながら抱き着いて謝ってくるので許してやろう。

 よしよし、そんなに痛かったか?

 

「……何かムカつきません? ああも目の前でイチャ付かれると……」

「…メラメラと嫉妬の炎が…わたしを燃え上がらせる…」

「アキトと最初に出会ったのはフランだからね……私たちはアドバンテージで負けているわ」

「私が一番最後だし、不利じゃないですかっ」

「待ってくださいミリアさん、本気で最後なのは私っすよ! どうすればいいっすか!?」


 背中に突き刺さるジト目の群れ。

 今更そんな精神攻撃が効くと思うなよ。

 俺はあの災厄の影を振り払った男だぞ。

 ……九割がた、フランのお陰だけど。


 なんてことをしているうちに、館へと着いた。

 先ぶれでもあったのか、ズラリと玄関にメイドたちが並んでいる。

 俺たちの姿を見て、スッと頭を下げた。

 それはいいんだが、何で全員の顔が真っ赤なの?

 逆に怖いんですけど。


 もっとひどいのは、タクミたちの見た目がチンピラっぽいと言う、何とも無残な理由で屋敷に入れず追い返された事だ。

 メイドさんたちが、ヒソヒソ声でキモいキモいと連呼している、

 これには流石に同情を禁じ得ない。

 彼らは泣く泣く街へ戻っていった。

 その後ろ姿の哀愁たるや。

 あんなチンピラでも、街のために戦ったのにな。

 あ、俺もチンピラって言っちゃった。


 残った俺たちは、メイド長の案内で屋内を進む。

 話だと、サドア領主は怪我を負っていると言う事だったが。

 通された一室は、どうやら領主の寝室だ。


「これはアキト様! 御婦人方も良くぞ御無事で……!」


 頭や身体に包帯を巻いてはいるものの、結構元気そうで何よりだよ、領主さん。

 ベッドの横には、椅子に腰かけたエリィも居た。

 俺の顔を見るや否や、ガタンと椅子を蹴倒して立ち上がったエリィは、勢いもそのままに抱き着いてきた。


「アキトさん……アキトさぁん……良かった……私、私……」

「おやおや、相変わらず泣き虫さんですな」


 俺はエリィの黒髪の頭を優しく撫でた。

 街の存亡の危機だったわけだし、親父さんも怪我したもんだから、怖くなってしまったのだろう。

 それらから解放されて一気に感情がこみ上げた、ってところかな。


 その後、ミリアの強力な癒しで、すっかり回復したサドア領主。

 しつこいくらいに礼を言われる。


「最早、どうやって恩に報いた物か……二度も街を救っていただいた挙句、私まで怪我を治してもらったとあっては……この命を差し出しても、まるで足りませぬ」


 おっさんの命なんて貰ってもなぁ。


「私から差し出せるのは、娘と、選りすぐったメイドたち、後は金品しかないのです」

「いや、何もいりませんよ、船を貸してもらったりしたし、それだけで充分です」

「いいや! そうは参りませぬ! ではせめて、せめて娘とメイドたちをぉお!」

「ちょ、怖い、怖いですって」


 血走った目が俺の眼前に迫る。

 おっさんのアップは見たくないぞ。

 だいたい、嫁はそんなにいらねぇってば。


 あと、リッカとミリアは物欲しそうにメイドさんたちを見るんじゃありません!

 百合もいい加減にしたまえ!



「そうだ、サドアさん。アンジェラ船長がどうなったか知りませんか?」

「おぉ! アンジェラを見初めるとは、流石は勇者様ですな!」


 いや、見初めてないけど。


「あれは、私が選んだ最高の美女です! 乳もすごいことになってたでしょう? しかも有能ときたもんです!」


 やっぱり選んだのはアンタかよ。

 しかも予想通り、見た目と乳でとは。

 だが俺は、意に反して大きく頷いてしまった。

 あれは良いものだ。


「おお、そうだ! では、アンジェラもアキト様の嫁にすると言う事でいかがですかな」

「ぐっ、そう来ましたか」


 揺れ動く男心。

 みんな、すまない、察してくれ。

 美人で乳がデカくて、その上仕事が出来て、俺に従順。

 ロリコンの俺ですら、あの色香には負けそうになる。

 

 ゴン!


「ぐっ、じゃないでしょ! アキトのバカ!」

「おっぱいですか! 私たちはおっぱいに負けたんですか!?」

「…わたしだってあのくらいに育つもん…」


 アホアホ三人娘に、後頭部をどつかれた。

 目が飛び出るかと思ったぞ。

 ちなみに、俺が命名したアホアホ三人娘とは、フラン、ヤヨイ、シャニィのことである。

 だいたいワンセットのアホだと思ってもらえれば良い。


 そんな事をしていた時だった。

 やたら遠くから、俺の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「……キトさーん…… アキトさーーーーん!」


 どうやら幻聴じゃなかったようだ。

 パタパタと走る音、そしてなんだか聞き覚えのある声。


 バターンと力いっぱい扉を開けたのは。


「アキトさん!!」


 ローブを着た眼鏡っ子。

 そう、クレアだった。

 だが、数人のメイドを引きずっているところを見ると、強引に押し入ってでも来たのだろうか。


「クレア、元気そうじゃないか、無事で良かったなぁ」

「街の人たちが、アキトさんたちはここに来ているって言ってて……ぜいぜい……でも謁見中だからダメってメイドさんたちに止められて、ハァハァ……私とアキトさんの恋路を邪魔するもんだから力づくで……さぁ、アキトさん、私と駆け落ちしましょう!」


 うわー、相変わらずの妄想癖だぁ。


「……じゃなかった、アキトさん、お婆ちゃんが呼んでいるんです!」

「ん? そうか、倒れたって聞いたし、後で見舞いに行こうとは思ってたんだ」

「今すぐ来てください! すぐに勇者様に伝えねばならぬことがあると言ってました!」

「何があったんだろ?」

「何でも災厄に関してのことだそうで!」

「なんだって!?」


 聞かずに居れるか!


 俺たちはクレアの家で待つ、黄昏の占術師の元へ向かう事にしたのであった。

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