第七話 殴れば何とかなるはずだ
遅めの夕食を終え、今はフランに命じられ正座をさせられている。
散々説教と訓示を聞かされた。
「ねっ、これで解ったでしょ? 私がいなかったら貴方は今頃死んでたの。さっ、解ったのなら早速向こうへ出発しましょうか!」
「余計に行きたくなくなるわ!」
「!? なんでよー!」
「誰が好き好んであんなのまみれの世界に行くんだ! どうやってもすぐ死ぬわ!」
さっきの出来事を思い出し、少しだけゾクっとする。
冗談じゃない。
あんな思いはもう御免だ。
「あんなの初級の敵よ! こっちで力の出せない私でも余裕だもの!」
「余計に怖いわ!」
俺は涙目のフランから背を向けた。
初級でアレかよ。
初級つったら普通はポヨポヨした弱そうなヤツとかだろ。
どうなってんだ向こうは。
でも、まぁ、助けてもらったことに変わりはないな。
礼は言っておこう。
「……さっきは助かったよ。ありがとな」
出来るだけぶっきら棒に言ってみる。
くそ、恥ずかしい。
途端にパッと顔を輝かせたフランは、
「やっと私の偉大さがわかったのね! それとも何? 私に惚れちゃったの? いやーん」
とかほざいてる。
なんとかコイツを送り返す手段はないものだろうか。
なんなら金を払ってもいい。
「それにしても」
と、フランがちょっと真面目な声で言う。
「何故向こうの敵がこちらに現れたのかしら……本来こんなことあるわけないのに……」
珍しく真剣に悩む姿を見て、もしかしたらとんでもない事が起きつつあるんじゃないだろうかと思えてきた。
おいおい、フランさん。
フラグを立てるのはやめておくれ。
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「うぎゃああああ! フラン様ぁぁぁぁ!」
『ソレ』から逃げ回りながら絶叫する俺。
よくわからん獣の牙が、俺の尻を齧ろうと迫る。
「犯されるーーーー!」
「アホな事言ってないで伏せて!」
フランが呪文のようなものを唱えると獣はたちまち消えていく。
ナイスですフラン様……がくっ。
あれ以来、毎日のように『敵』と出くわすようになっていた。
おちおち外出も出来ないレベルだ。
やむなく外に用があるときには、嫌々ながらフランに護衛を頼んでいるものの、このざまだ。
かなり情けない。
「ハァハァ……どうなってんだこりゃ……くそぅ……」
「流石に私もこれはおかしいと思うの。もしかしたら向こうで何かが起こっているのかも……チラッチラッ。早く向こう側へ行って、どうにかしたほうがいいんじゃないかしら。チラッチラッ」
「そうだとしても行かない」
「あれっ!?」
「今のは行くって言うところでしょー!」
と叫ぶフランを尻目に、俺はどうしたもんかと思案していた。
せめて何か対抗手段がないとマジで死にかねない。
「なぁ、あいつらって物理攻撃は効かないのか?」
「へ? 効くわよ?」
当り前じゃないという顔で言われた。
効くんかい!
「オラアアアア!」
「いだいいだいいだいぃぃぃ」
全力でこめかみをグリグリしてやった。
「何すんのよ!」
「もっと早く言えぇぇぇ!」
メソメソ泣いているフランの手を引きながら家まで戻る。
裏手の物置に回り、中に入ってゴソゴソやり始めた俺を見たフランが、
「なになに? まさかエロ本?」
とか言ってる。
こいつには後で強烈な折檻をお見舞いしよう。
俺は目当てのものを見つけて引っ張り出す。
それは数本の木刀だった。
「こんなもんでも無いよりはマシだろ?」
とは言ったものの、俺は運動が得意と言う訳でもない、当然剣道もやったことがない。
言ってて情けないが、気休め程度の武器だ。
フランを横目に見ると、すごく微妙そうに、残念な子を見るような目をしていた。
そんな武器、無い方がマシとでも言いたげだ。
うわー、ムカつく。