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第六十九話 皆が夢見る未来の形


「あー、疲れたー!」


 精神攻撃は肉体にも影響するのか、それとも初めて放った合体奥義のせいか。

 疲労感が半端ではない。

 俺とフランはへたり込むように腰を下ろした。

 皆、俺にくっついたままなので、なし崩し的に全員で座り込んだ。

 って、君たちまだ泣いてんの。


「みんなフランの泣き虫が移ったんじゃないのか?」


 茶化すように笑いながら言うと、猛抗議を受けた。


「アキトのバカ! 今回はホントにダメかと思ったんだから!」

「そ、そうか、すまなかった」


 心配してくれる人がいるってのは有難いねぇ。

 俺は一人一人に感謝を込めて額へキスをした。

 効果覿面、泣くよりも恥ずかしがっている。

 なんて純情な奴らなんだ。

 この手は後々まで使えそうだぞ。

 俺は内心でほくそ笑んだ。


 しっかし喉が渇いたな。

 革袋から水を飲むが、これまた革臭い。

 俺が顔をしかめているのを見たルカが、残念そうに言った。


「薪があれば温かいお茶を淹れられるんですけどねぇ……」


 そこで、はたと思い出した。

 荷物をゴソゴソと探り、奥から目当ての品を引っ張り出す。

 一度、向こうの世界へ戻った時に、これだけはと思って持って来ていた物が、今こそ役に立つ。


「じゃじゃーん! 固形燃料とライター!」

「「おおーーー!」」


 ヤヨイとリッカが拍手をしていた。

 固形燃料が何であるか解るのは、俺たちだけだろう。

 実際、異世界組はキョトンとしている。

 俺は、ルカの簡易かまどを広げ、手鍋に水を満たして固形燃料に火を点けた。

 大した火力ではないが、手鍋の水くらいはなんとかなるだろう。


「なんすかこれは!? すごいっす! 着火の術なんて初めて見たっすよーーー!!」


 ライターを初めて見たルカが、驚きのあまり卒倒しかけていた。


「アキトの世界はすごいのよ! 薪なんていらないんだから! しかも人が空を飛んだりするの! エヘン!」


 なんでフランが偉そうにしているのかサッパリ解らないが、ルカは目をキラキラさせていた。


「すごいっすー! 行ってみたいっすねぇー!」

「何でもお店で売っているし、とっても清潔な世界なの! お風呂だって毎日入れちゃうよ!」

「ほぇー! うらやましいっすねー!」

「ま、私はアキトと結婚したら、向こうで野菜でも作りながら暮らそうと思ってるんだけどねー」


 え、そうなの?

 今初めて聞いたんですけど。

 しかもすごく牧歌的!


「おっと、それは聞き捨てなりませんね。アキトさんは私と、BL同人ショップを開く予定ですから!」


 何言ってんのヤヨイ!?

 やんないよ!?


「…駄目駄目、アキトはわたしと子供をたくさんつくって幸せに暮らすの…」


 いやいや、聞いてないよシャニィ!

 それにお前、初潮も来てないだろ!


「アンタたち何を言ってるの。私と研究漬けの日々を送るのよ、そしてノーベル賞を!」


 リッカのは何それ!?

 きっついよ!


「ええっ、私と聖地巡礼の旅をしていただけるとおっしゃってましたよっ!」


 ミリアは妄想癖か!

 言った覚えがねぇよ!!


 もういいや、好きにやってなさい。

 俺はそろそろ沸いてきた鍋を確認し、固形燃料の火を消した。

 貴重な燃料だ、大事に使おう。


 まだギャイギャイ騒いでいるフランに声をかける。


「フランさんや、出番ですぞ」

「えっ? 私でいいの?」

「うむ、俺はお前のお茶が飲みたいんだ」

「わーい! 嬉しいー!」

「唯一の取柄だしな」

「ひどっ!」


 フランがお茶の準備を始めると、たちどころに良い香りが広がって行く。

 どんな安物の茶葉だろうがフランの手に掛かれば、お構いなしに美味くなる。

 最早、特殊能力と言っても過言ではないだろう。


「はい、アキト。いーっぱい愛情を込めておいたからね」

「ああ、ありがとう」


 受け取ったカップに口を付ける。

 芳醇な香りが鼻を抜けた後に、ほのかな甘みを感じた。


 うめぇなぁ。

 砂糖など入れてないはずなんだがな。

 もしやとは思うが、フランの手から甘い汁でも出ているんじゃなかろうか。

 今度しゃぶってやろう。


 皆もホッと一息付けたようだ。

 先程の喧騒もどこへやら。

 一同に、まったりとした空気が流れる。


「フランさんはすごいっすねぇ……この茶葉は大したものじゃないんですけど……こんなに美味しくなるなんて」

「そう? テヘヘ」

「店を出せる程っすよ」

「エッヘン! じゃあ、カフェでも開く?」

「カヘ?」

「んーと、茶屋ね」

「ああ! 茶屋! いいじゃないっすか!」

「ルカが軽食係で、私がお茶専門のマイスター! アキトはお店のマスターで、私の旦那様ね! シャニィたちは……下働きでいいや」

「「「「!!??」」」」


 またも始まる大騒ぎ。

 そりゃ、シャニィたちから文句も出るだろうよ。

 でも、みんな意外と真面目に俺との将来を考えてくれているのかと思うと、やっぱり嬉しいもんだな。

 俺もこの子たちを、出来る事なら幸せにしてあげたいもんだ。

 まず、災厄を倒さないと何にも始まらないんだけどな。


 それにしても、いったい今は何時なんだ?

 昼飯を食ってからだいぶ経つはずなのに、一向に暗くなる気配がない。

 感覚的には既に夕方のはずなんだが。

 太陽も数時間前に見た角度から、ほとんど動いてないような気がする。

 そう言えば、地球の月は昼の長さが十五日くらいあるって何かで見たな。

 ここも月と似たようなものだと仮定すれば、そんなに不思議な事でもないか。


 何はともあれ、こんなところで野宿するわけにも行くまい。

 フランのお茶のお陰で喉も潤った。

 行こう。


 俺は、まだ騒いでいる女性陣と共に、再び歩を進めた。

 足跡はまだ続いている。

 橘博士と聖騎士王レインも、災厄の影の試練を乗り越えたのだ。


 彼らは強いな。

 たった二人でアレを倒したのだから。


 俺は弱いな。

 フランやみんながいてくれても、災厄に捕らわれそうになったのだから。


 あのまま災厄に飲み込まれていたら、今頃どうなっていたのかな。

 何の迷いもなく、みんなに手をかけていたのかもしれない。

 悪感情が流れ込んでくる、あの感覚を思い出すだけで背筋が冷える。

 フランがいなかったら、全てが終わっていたかもしれん。


 俺は隣を歩くフランの顔をチラリと見た。

 なにやら鼻歌を歌いながら、トコトコ歩いている。

 その姿を見ているだけで癒されている自分に驚いてしまった。

 俺の視線に気付いたフランが、腕に抱き着いてくる。


「なぁにアキト。私を見つめちゃってー、そんなに好きなの? なんちゃって」

「あぁ、大好きだぞ。俺のフランは可愛いなぁ」


 ボン、と音を立ててフランの顔が真っ赤になった。

 自爆してやがる。

 ストレートに言われると照れるらしい。

 やばい、面白い。


「あ、あの……私もアキトが大好き、です」

「知ってるよ、ハハハ」

「エヘヘ」


「あれをどう思います? 私たちもいるのに、ちょっとイチャつき過ぎじゃないですかね?」

「…ぐぬぬ…負けられない戦いがここにある…」

「男の人の心を掴むには、まず胃袋からと近所のお姉さんに教わったっす。私も頑張るっすよ!」

「アキトさんなら、皆さんを均等に愛してくださるから大丈夫ですよっ」

「アキトにそんな甲斐性があると良いのだけれどね……」


 し、失敬な!


 そんな会話を交わしながら歩く。

 だがそれも、先へ進むに連れ徐々に少なくなっていき、ついには誰もが無言となった。

 起伏が多い分、疲労が溜まる。


 正確な時刻は解らないが、夜もだいぶ更けた頃ではなかろうか。

 ずっと出ている太陽のせいで、時間の感覚が無いに等しいのだ。

 そろそろ限界を感じ始めた時、唐突に足跡が途切れた。


 曲がった訳でもない。

 いきなりぷっつりと無くなっている。


 なんだこりゃ?

 二人は空を飛んだのか?


 途切れた足跡の、一歩先へ進んだ時に全てが氷解した。


 忽然と、まるでガラスかクリスタルで築城されたような城が、目の前に現れたのである。

 そして、一歩戻ると城は跡形もなく見えなくなり、進むと現れた。

 境目の部分を通る時に、何やら奇妙な感覚がある。

 空間を強引に捻じ曲げたような、とでも言うべきの奇妙な感覚だった。

 推察でしかないが、この城を隠すための結界か何かなのだろうか。


 二人の足跡は、真っ直ぐに水晶の城へと繋がっていた。


 ついに見つけたぞ!

 あそこに何らかの秘密があるはずだ!



 俺たちは、疲れ果てていたことも忘れ、城を目指すのであった。


 

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