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第六十一話 のじゃロリ姫の小さな望み


 俺たちは姫君の思し召しによって、宮廷に参内する運びとなってしまったらしい。


 予定を無視するとか、はた迷惑なお姫様だな。

 この出来事だけ見ても、姫がどんな性格をしているのか解ってしまう。

 ぶっちゃけ、わがままそうな気がする。

 アラン団長も、すみませんなぁと申し訳なさそうにしていた。


 俺たちは巨大な鋼の門を抜け、城下町へと馬車を進めた。


 雑踏。

 ざわめき。

 賑わい。

 様々な音が、俺たちを叩く。


 そして目の前にはとてつもない広さの目抜き通りが、城へと一直線に続いていた。

 

 更に、驚くほど大勢の人、人、人。

 人数の把握も出来ないほどの数。

 そういや、港町からも人が流入しているって言ってたな。


 騎士団に周囲を囲まれて現れた俺たちへ、人々の視線が集中する。

 疑惑の眼と、ひそひそ話。


 決して俺たちは犯罪者じゃありません!


「さらし者みたいで恥ずかしいですね……」


 ヤヨイが視線を床に落として、ぽつりと言った。

 それだ。

 まさしくそれ。


「いっその事、勇者ですよーって触れ回った方が良いんじゃない?」

「きっと、聖騎士団、いや王宮かしら、の意向があるのかもしれないわ。特に口止めされた訳でもないから大したことは無いと思うけれどね」


 フランのアホ発言に、リッカが律儀に答えていた。

 我がチームの分析班は健在なり。

 しかしリッカの口調もすっかり板についたな。


「ワッハッハ。読みが鋭いですな。ま、本当に大した理由ではないので御安心ください」


 アラン団長が俺たちと気さくに話しているのを見た群衆は、犯罪者ではないらしいと納得したのか、それぞれに散って行った。

 団長、ナイスです。


 それにしてもすごい人波だ。

 それこそ、有象無象が右往左往している。

 あれか、各地から難民が押し寄せているとか。


「その通りです。居住地を追われた者、自ら避難した者などが王都へ集中していると耳に挟みました」


 またもアンジェラ船長に脳内を読まれた。

 何なのこの人。

 ちょっと怖くなってきたよ。


「申し訳ありません。貴方をずっと見つめていたもので、何となく考えがわかるように……」


 今何か、さらっと凄い事を言われたような……

 目を燃え上がらせたフランたちが、船長を射殺すように睨みつけた。

 君らも怖いよ……


 そんなバカな事をやっているうちに、馬車は王宮の巨大な門を潜り抜けたのだった。


 城がこれまたデカい。

 派手な装飾や華美さはないが、白亜の城と言う表現がぴったりだった。

 高い尖塔がいくつも並んでいる。

 窓々からは温かな灯りが漏れ、夕闇も相まって、白き城を一層引き立てていた。


 俺たちは馬車を降り、案内されるがままに謁見の間へと導かれた。

 そこは広く、豪勢な造りであった。

 顔を伏せたまま赤絨毯の上を進み、階段の下で片膝をつく。

 このまま王族がおいでになるのを待つわけだ。

 そして、それほど待つこともなく、声がかかる。


「そなたたちが勇者どのじゃな。良い。面を上げよ」

「ハ」


 なんだか可愛らしい声だぞ。

 俺たちは、声の主に命じられるまま、顔を上げた。

 不釣り合いとも言える、大きな玉座に小さく座る少女。

 輝くような金髪と、緑色の大きな瞳、桜色の唇。

 可愛らしく整った顔立ち、豪華な白いドレス。

 年の頃は、シャニィと同じくらいだろうか。


「わたくしが王女のシャルロットなのじゃ!」

「お初にお目にかかります、姫。私は、アキトと申します」


 のじゃロリきたーーーーーー!


 冷静な返答とは裏腹に、心の中で喝采を上げる俺。

 それを見透かしたように、フランがちょっとむくれている。

 シャニィもライバルを見るような目で、シャルロット姫を見ていた。

 何に対抗心を燃やしているのかは解らない。


 フランたちも次々に名乗っていく。

 皆、少し緊張しているようだ。

 俺も王族などと言うものと遭遇するのは初めてだったが、何故かそれほど緊張はしていない。

 王女殿下が、少しだけフランに似ているからだろうか。

 そんな事を考えていると、皆の名乗りが終わったようで、姫が口を開いた。


「気さくにシャルと呼んでもよいのじゃぞ」

「は、では私の事も気軽にアキトと呼んでください」


 俺はお近付きになるべく、出来るだけ爽やかそうに笑って見せた。


「よいのか!?」

「勿論ですとも、姫」

「わーい! ……ゴホン、アキト、姫ではなくシャルと呼べと言ったはずじゃぞ」


 本当にいいんだろうか?

 姫の周りにいる人たちも、特に咎める様子はないようだが。

 てか、やたら名前を呼ばせたがるのはなんなんだろう。

 まぁ、いいか。

 お近付きになるためだ。


「では失礼して、シャル」

「なんじゃ? エヘヘ」


 相当嬉しかったのか、満面の笑顔。

 笑うと年相応になるのか。

 可愛いなぁ。

 シャル姫の笑顔で、こちらの連中も緊張がとけたみたいだ。


「敬語もいらぬぞ。よいな?」

「シャル、流石にそれはまずいかと思いますが」

「わたくしが言うのだからよいのじゃー!」


 ああ、基本はやっぱりわがままっ子なのか。

 下々の人間と対等に会話したいとか、どんな王族だよ。

 俺は一応確認のために、シャルの傍に控える面々に視線を向けると、そっと頷いていた。

 俺も軽く頷き返しておく。

 側近の人も苦労がにじみ出ているな。

 ご苦労様。


「では、シャル」

「なんじゃ」

「今日は俺たちを招いてくれてありがとうな」

「うん! ヘヘー」


 くっ、抱きしめてあげたい。


「今日は晩餐会を用意してあるのじゃ! みんなと一緒に楽しむのじゃー!」



-------------------------------------------------------------------------------


 俺たちはいったん、宿泊用の貴賓室へ通された。

 二間続きで、リビングとベッドルームに別れている。

 貴賓室と言うだけあって、その豪華さたるや。

 ベッドルームも巨大なキングサイズのベッドが七つも並んでいた。

 七人で使うには勿体ないくらいだ。

 勿論、アンジェラ船長も数に入っている。


 ちなみに、ラスターは久しぶりの古巣に戻ったこともあってか、アラン団長に引きずられていった。

 今夜は彼の家で飲み明かすそうだ。

 きっと、べろんべろんになるまで飲まされる事だろう。

 南無。


 さて、その晩餐会だが、俺は貴族たちがワルツに乗って踊りまくるようなものを想像していたが、別段そんなことは無かった。

 参加者も、俺たちとシャルロット姫だけである。

 晩餐会と言うより、姫との親睦会だが、俺たちには気楽で良かった。

 マナーとか、知ってはいても面倒だしな。

 それでも、出てくる料理はいずれも見たことがないほど豪華ではあった。

 

「のぅ、アキト。アキトは様々な冒険をしてきたんじゃろ? それをわたくしに聞かせるのじゃ!」


 シャル姫にせがまれるるまま、俺は今までの旅路を語った。

 面白おかしく、多少の脚色を加えて。

 シャルは目を輝かせて、大笑いしながら聞き入ってくれた。


 まだ話の途中だと言うのに、立派な白いスーツを着た女性が、シャルに何事か耳打ちしていた。

 黒髪も短く、引き締まった体形のキリっとした美人だった。

 姫の親衛隊長かもしれない。


「えぇー、詰まらないのじゃ……すまぬ、アキト。お開きにせよと言われたのじゃ……」


 途端に悲しそうな顔になるシャルロット姫。


「俺たちはしばらく王都に滞在するから、いつでも話してやるよ」

「まことか!? 約束じゃぞ! もう我々はお友達なのじゃからな! きっとじゃぞー!」


 俺の言葉にパッと顔を輝かせたシャルは、心底嬉しそうに退席して行った。

 なるほど、友人に飢えていたのか。

 聞けば、ずっと城詰らしいしな。

 こんなところじゃ、同年代の友人なんて出来るはずも無いか。

 俺たちで良けりゃ、いくらでもなってやろう。 


 俺たちも貴賓室へ戻り、女性陣と今後の方策を練っているところへ、扉が小さくノックされた。


「……わたくしじゃ、開けて欲しいのじゃ……」

「!?」


 姫ぇ!?

 こんな時間に!?


 俺は慌てて扉を開けた。

 そこには寝間着姿で、何かの動物のぬいぐるみを抱きしめたシャル姫が、ポツンと立っていた。

 侍従たちの姿は無い。


「もっと話がしたくて、こっそり脱け出してきたのじゃ……迷惑じゃったか?」

「いや、そんなことないよ」


 俺は笑って姫を招き入れた。

 フランが、唯一得意のお茶を全員分淹れてくれる。


「美味しい……! フランはすごいのじゃ!」

「そ、そう? エヘヘ」


 普段、褒められ慣れていないフランが、照れ笑いを浮かべている。

 いつもアホ呼ばわりしてるもんな。

 ごめん。


 余計な人間の目が無いぶん、先程の晩餐会よりも砕けた空気で俺たちは談笑した。

 皆の話を、シャルはとても楽しそうに、興味深そうに聞いていた。


 そしてシャル姫はシャニィの顔を眺めた後、こう言った。


「シャニィ、ちょっとそこをわたくしに譲るのじゃ」


 シャニィは俺の膝の上で菓子を食べていたのだ。

 渋々と膝から降りるシャニィの代わりに、シャルが乗ってきた。

 小さい身体がすっぽりと俺の膝に収まる。


「おお、これは心地よい。アキト、さっきシャニィにやっていたみたいに、わたくしの頭をなでるのじゃ」

「はいはい」


 俺はそっと、わがまま姫の小さな頭を撫ではじめる。

 すぐにシャルはうっとりとした表情になった。


「アキトは優しいのう……わたくしの将来の伴侶に相応しいのじゃー」

「「「「は!?」」」」


 シャルロット姫の爆弾発言に、貴賓室が仰天と怒りの渦に包まれていくのであった。

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