第五話 それでも俺は行きたくない
ある日、俺はずっと疑問に思っていたことを聞いてみようと思い立った。
「ところでお前、SSRってことはSRとかRもいるのか?」
「当然じゃない。私は最高レアリティなのよ! 私が出るなんて、アキトはとても幸運なの! ほら、褒めて!」
両手を広げて俺の称賛を待つフラン。
ものすっごいドヤ顔である。
面倒臭いので無視しよう。
「……ほう。俺のやってるゲームだとSSRってのは最高峰に強かったりするんだが、そこらへんはどうなってるんだ?」
俺は至極最もな意見をぶつけてみた。
ゲームなら最高レアってのは、異様に低い当選確率を乗り越えるために、莫大な投資や、豪運の果てに獲得するものだ。
フランは腐ってもSSRな訳だろ?
一応期待はするよな。
フランはこれでもかと、そこそこある胸を張っているが、それが逆に俺の不安を煽る。
「とーーーーーぜんよ! 最高の攻撃と最高の癒しを保証するわ!」
「ほほう、それは凄い。是非やってみてくれ」
「えっ」
途端に目が泳ぎだし、オドオドし始める。
ダラダラと変な脂汗も流していた。
なんだこいつは。
「えっじゃねぇよ。その最高の攻撃っての見せてくれよ。どのくらい凄いんだろ。楽しみだなぁ」
「えっっ」
ああ、解った。
こりゃダメなパターンだな。
「あのですね、アキトさん……怒らないで聞いてくださいね……。こっちの世界だとちょっと、その……」
「つっかえねーーーーーー!」
「うわああああああん!!」
俺は大の字になって寝転がると、部屋の隅っこでベソベソ泣いてるフランに聞いてみた。
「なぁ。俺の他にもこうして選ばれたヤツがいるわけだろ? そいつらみんな素直に向こうに行くのか?」
「……グスッ……ほぼ全員行くわね……こちらの世界から抜け出したいとか新天地でやり直したいとか、そう言う願望がある人の方がSSRの当選率が高いの」
「へー。でも俺は今の生活に満足してるんだけどなぁ」
「嘘つき! こっちじゃ叶えられない欲望まみれのくせに!!」
「なっななな、何言ってんですかねこのアマ!!」
否定は出来ないのが悲しすぎる。
俺は冷静になろうと努めながら、色々質問してみることにした。
「向こうってそんなに切羽詰まってんのか?」
「そうね……大いなる災厄が迫っているわ。こちら側から行った人たちが懸命に頑張ってる。でもSSR持ちの人たちはともかく、SRやR持ちの人たちは苦戦を余儀なくされてるの」
「ほう……具体的には?」
「うっ……頭が……!」
「!?」
こいつまさか……
「じゃあ向こう側からこっちには帰ってこられるのか?」
「うっ頭が」
「おおおおおおおおおおおい!」
肝心なことは何にも知らねぇのかこいつは。
こっちから行った連中も、どれほどアホ揃いなんだ。
「でもねでもね。向こうには可愛い子がいっぱいいるわよ! アキト好みのロリっ子も! だから行ってみましょうよ!」
聞き捨てならない事を言われた気もするが、なるほど、フランも見てくれだけは良いもんな。
これは期待できるかもしれん。
フランの期待に満ち満ちた目を見ながら────
「だが断る」
「!?」
愕然と硬直するフランを放置し、俺は時計を見て立ち上がった。
もうこんな時間か。
あまり遅くならないうちに出掛けよう。
「ちょっと買い物に行ってくるわ。お前にも金は渡してあるんだから、自分で必要な物は買っておけよ」
と、言い残して夜道に出た。
流石に俺がフランの下着やらを買う訳にもいかないからな。
いや、買えと言うなら際どいのを選んで買うし、かぶれと言うなら喜んでかぶりますがね。
食料や雑貨などを買い込み、帰宅する途中、唐突にそいつは現れた。
もしくは、そこに、居た。