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第四十八話 母性本能恐るべし


 通路発見の一報を受け、俺はフランを肩に担いで走り出した。


 抱っこでは走りにくい。


「こんな荷物扱いは嫌ぁー! ひゃん!」


 騒ぐフランの尻を掴んで黙らせる。

 異様に柔らかいのは放尿後の解放感で弛緩しているからだろうか。

 なんにせよ、またとない機会なので念入りにまさぐっておこう。


「それで通路ってのはどう言うことなんだ?」


 並走するラスターに問う。


「君たちが離れてすぐに例の声がしてね。資格を得た者に門を開くとか言ってたよ」

「資格……?」

「僕の推測だが、その黒い武具が鍵だったのかもしれないね」

「……ふむ、解らん話ではないな」


 確かに、ロボもこの武具たちを守護していた雰囲気だった。

 ラスターの言が正解だとするならば、俺と言うよりも有資格者を待っていたことになる。


 いったい誰が、何のために。


「僕は今回の事で古い伝承を思い出したよ。いやあれはもう、おとぎ話かな」

「なにそれ」

「この世に災いが満ち溢れる時、七人の騎士が現れて、それを打ち払うだろう。かいつまんで言うとこんな感じのお話さ。子供のころは大抵これを聞かされるくらい有名なんだ」

「へぇー」

「僕たちは数々の苦難を乗り越えるこの騎士たちに憧れたもんさ」

「私も知ってるー! 小さい頃はワクワクしながら聞いてたなぁー」


 俺の背中からフランも同意していた。

 こちらでは相当メジャーな話と言う事か。

 あちらでの桃太郎くらいに。


「でも、今の状況と違うんじゃねぇか? 俺たち全員で七人いるけど騎士っぽいのは俺とラスターとリッカだけじゃん」

「ああ、誤解させてしまったね。神より授かりし七色の武具を纏った騎士たちってことなんだよ」

「ほほう、なるほどな。つまり、俺がそれほど立派な騎士様に見えるってことか」

「「ないない」」

「くっ……」


 あからさまに否定されると、それはそれで精神に来る。

 まぁ、俺に災いを打ち払う力なんてもんはないけどな。


 部屋に戻ると、皆はその通路とやらをためつすがめつしていた。


「何かありそうか?」


 肩からフランを下ろしながら聞いてみる。


「…わからない…でも、まだ先は長そう…」

「そうか。どのみち行ってみるしかないだろうな」

「…うん…ねぇアキト…わたしも抱っこ…」

「く、そう来たか」


 さっきフランにお姫様抱っこをしたのはまずかったな。

 そうだ、これなら。


 俺はシャニィの小さい身体を抱き上げて肩に乗せた。

 いわゆる肩車だ。

 目の良いシャニィに、高いところから監視もしてもらえると言う一石二鳥の技だ。


「…アキト…わたしを子供扱いしてるでしょ…」

「ソンナコトナイヨ」

「…片言になってるじゃない…」

「わかったわかった。大人扱いすればいいんだな」

「…うん……ひゃっ…あっ…んっ…だめっ…」


 顔の横に来ているシャニィのすべすべ太ももにキスしてやった。

 公平に両脚を。


 くすぐったいのか、感じているのか、顔は見えないがシャニィの変な声が頭上から降ってくる。

 後ろ首に当たっているシャニィの股間も熱くなっていくような気がした。


「変態すぎませんか? あれ」

「アキトがロリコンなのは知っていたけど、あれはもうダメかも……」


 俺の後ろでヤヨイとフランがこそこそ言っているが、聞こえない振りを貫く。

 だが、流石の俺も変態臭さを感じ、逃げるように通路へと歩き出した。



 しばらく歩く。

 最初に通った回廊と同じような造りが延々と連なっているだけだ。

 先程と違うのは、いたって平和な事だろう。

 目玉羽が出てくるようなこともなかった。


 こうまで平穏だと、だんだん眠くなってくる。

 ここに侵入してからどれくらい経ったのだろう。

 既に時間の感覚など失われて久しい。


 俺の頭にしがみつくような姿勢のシャニィは、既に寝息を立てている。

 見張りの意味は既に無くなってしまった。


 これがもし敵の奸計なら、今の俺たちに抗う術はない。

 他の皆もフラフラと半分寝ながら歩いていた。

 フランに至っては目を閉じ、壁に顔をこすりつけながらもなんとか歩いている状態だ。

 あれで痛くないのだろうか。


 よく見ればフランの頬がヌラヌラと光っていた。


 汚ぇ! こいつ自分のよだれで顔をすべらせてやがる!


 こりゃもうダメだ。

 いったん休憩しよう。


「みんな、少し休もう。昼寝したい」


 俺の意見は賛成の嵐により即決された。

 起こさないようにシャニィを下ろし、腹に抱え直してから壁を背もたれにして座った。

 すぐさま、当たり前のごとくフランとヤヨイがくっついてくる。

 守るように二人の腰に手を回して抱き寄せると、安心したように身を任せて目を閉じていた。


 可愛いやつらめ。


 俺も大きく息を吐きながら目を瞑ると、すぐさま眠りに落ちて行った。


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 しばらくして目を覚ます。

 それほど長い時間寝てはいないはずだが、なんだかやたらと長い夢を見ていた気がする。

 起きると同時に内容は忘れてしまうのが夢の不思議なところだ。


 ふと目を開けると、俺の目の前に三つの唇が迫っていた。

 言うまでもなくフラン、ヤヨイ、シャニィだった。

 これでラスターが交じっていたら一大事だ。

 腐女子のヤヨイが喜んでしまう。


 面倒臭いので右から順にキスしてやった。


「な、なんか扱いが雑じゃないですか?」

「雰囲気を大事にしてよ!」

「…もっと濃厚に…」


 なんで俺が文句を言われてるんだろう。



「何か変な夢を見た気がする」


 再び歩き出した俺の一言は皆を驚かせた。

 なんと全員が夢を見たというのだ。


 しかし誰も詳しい内容を思い出せない。

 俺も沈思黙考してみるが、ぼんやりとしか覚えていない。

 俺たちに何が起こったのだろうか。


「何かの啓示かもしれないね」


 聖騎士らしいことをラスターが言う。

 解らないことは神や悪魔のせいにするのが一番納得できる。

 だが俺はもっと人為的な何かを感じていた。


 どれくらい歩いただろうか、俺たちはようやく次ぎの部屋へ辿り着いた。



 こちらも内部は広い。



 あれ……? なんか既視感がする……


 広い部屋の床一面に巨大な円の文様が描かれていた。

 その円の中央には大きい碑石のようなものがある。

 あの神社で見た物と似ている。

 いや、間違いないだろう。

 これは『門』だ。

 あちらとこちらを繋ぐ門だ。


 やった!

 当たりだ!

 これで帰れる!



「見た見た! これ見たよね!? ねっ!?」


 思わずテンションの上がる俺。


「アキトちゃんったらそんなにはしゃいじゃってー、子供みたいですねー。かわいいー」

「不覚です。アキトさんに萌える日が来るなんて……なでなで」

「…アキトかわいい…おっぱい吸う…?」


 フランたちに捕獲され頭を撫でられまくる。

 どうやら母性本能をくすぐってしまったようだ。



「うわーやめてくれー」




 く、屈辱だわっ!!


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