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第四十六話 謎を秘めたる黒き武具


 俺たちの前に立ちはだかる白い人型。


 体長は2メートル以上ありそうだ。

 やたらと白いもので全身を覆っているとしか表現できない。

 例えるなら、全身タイツを着た人間、と言ったところか。


 顔も真っ白なのっぺらぼうだ。


 いや、良く見れば顔の真ん中に緑色の小さな穴が開いている。

 あれが目なんだろうか。


 そして両腕が異様に長い。

 膝下くらいまで垂れさがっている。


 手の爪が異様に鋭利なのも不気味だ。


 頼むから動いてくれるなよ。


 淡い期待を込めながら一歩を踏み出す。


 ぎゃあ! 顔がこっちを向いた!


「警告。速やかに退去せよ。退去しない場合は排除対象とする」


 口は見当たらないのに喋った!


「まるで映画に出てくるロボットかアンドロイドみたいね」

「全くだ」


 リッカの声に肯定する。

 流石は科学者の娘。

 的確な表現だ。


「でも、おかしくないですか? なんでこの世界にロボットなんて……」

「それなんだよな。そこがどうしても結びつかない」


 ヤヨイの疑問ももっともだ。

 こちらの文明はお世辞にも進んでいるとは言えない。

 とてもじゃないが、さっきの目玉やこんな白いのを作成出来るとは思えないのだ。


 しかもここは古代遺跡だったはず。

 古代と言うくらいだし、百年や二百年じゃないだろう。

 そんな昔からこいつらが存在していたと言うのも考えにくい事だ。



「……排除対象と認定。排除開始」


 ロボの目が緑から赤に変わった。

 そしてズシンとこちらに歩き出す。


 こりゃいかん。

 のんびりとしすぎた。


 皆は俺が号令をかけるまでもなく、すでに動き出していた。

 各々の役割が見えて来ている証拠だろう。


 ミリアはフランと下がりつつ素早く詠唱し、支援術を次々と俺たちにかけていく。

 他の皆はお互いの邪魔をしないように散開して行った。



 良いパーティーになったもんだ。



 そのパーティー随一であるアホの子、フランにだけ釘を刺しておこう。


「フラン! 攻撃術は俺が合図するまで使うなよ!」

「わかってるもん! なんで私にだけ言うのー!」

「アホだからに決まってるだろう! お前はこの間俺を殺しそうになったのをもう忘れたのか!」

「わーん! アキトのバカー!」


「ミリア! そのアホをよく見張っておいてくれ!」

「は、はい! フランさん。アキトさんは貴女の事を思いやっているんですよ。きっとフランさんを愛しているからですねっ」

「グス……そうなのかなぁ……?」


 なにその曲解。

 俺はまた焼かれるのが嫌なだけだぞ。

 まぁいい、後で乳でも揉んでやればフォローになるだろう。

 なるか?



 ガインッ


「ぐおっ!」


 振り返れば、ラスターが盾で打撃を受けていた。

 受け止めきれずに身体が揺らいでいる。


 あのラスターが受け流すことも出来ないのか。

 なんて膂力だ。


 ラスターを狙っている隙をついて俺はロボの背後に回る。


 肩を狙って剣を振りおろした。


 ガギッ


 硬い!


 異様な硬さだ。

 まるで、鋼の塊を殴りつけたような感触。

 しかも傷ひとつ付けられなかった。


 手に残る痺れが硬質さを物語っている。

 盾を腕に付け替え、両手で剣を握り直した。


 これは打撃だと厳しいな。


「シャニィ! ヤヨイ! 牽制だけでいい! 拳を痛めるぞ!」


 果敢に殴りかかっている二人に注意を促す。

 俺の声が届いたのか、足でかきまわす作戦に切り替えたようだ。


 うまく攻撃をかいくぐりながらロボの気を引いている。



 表面の白い部分はきっと装甲板なのだろう。

 むやみに叩いても無意味と悟った。

 ならばどうする。


 俺は少しの間、白い姿をじっくりと見た。

 やつの動きの中にヒントがあると思ったのだ。


 時間はかけられない。

 皆、必死で躱している。

 ロボの動きが、どんどん滑らかになっているような気がした。


 時々、俺にも長い腕が飛んでくる。

 盾で受け止めるも、たたらを踏む。

 踏ん張る事すら危うい。


 見つけろ。

 見つけろ。


 ヤヨイのか細い脚がロボの爪で引き裂かれた。

 堪らず転倒したところをリッカが庇う。


 探せ。

 探せ。


 シャニィが必死に牽制するが、リッカとヤヨイにロボが向かって行く。

 背後から斬りかかったラスターが腕の一振りで吹っ飛んでいった。


 あいつが滑らかに動けるのは勿論、関節があるからだ。

 関節……関節!?


 関節部分を見ると、黒い部分がある。

 きっと継ぎ目だろう。


 それだ!! 


 よく見れば各部に継ぎ目が見えた。


 そこに賭けるしかない。


 俺はロボの背後から全力で首の継ぎ目を狙った。


 ガシュッ


 くっ、浅い!


 多少の傷はつけたものの動きは止まらない。

 ロボはぐりんと顔だけを俺の方に向けた。


 ひとつしかない目が異様に赤く輝き────


 まずい!!


 咄嗟に傾けた俺の首筋を掠めて光線が走った。

 首と肩が焼け焦げる。

 鎧が何の防御にもなっていない。


 まるでレーザーだ。


 そのままロボは両手を水平に広げ、上半身ごと物凄い早さで回転した。

 俺とラスターがそれに巻き込まれる。


 直撃を食った俺は、凄まじい速度で弾き飛ばされた。

 受けた剣はへし折られ、盾もどこかへ行ってしまった。


 俺の身体は受け身を取ることも出来ず、部屋中央のガラスケースに叩き付けられた。


 パッシャーン


 衝撃でガラスケースが木っ端微塵になる。


 全身が悲鳴を上げているものの、なんとか動くことは出来た。

 しかし頭がふらつき、視界もぐにゃぐにゃと歪んだ。



 眩む俺の目に入ったのは、ケースの中にあった物のようだ。



 それは。



 黒い。

 果てしなく黒い。

 漆黒。



 だが形状は見慣れた物体。



 剣だ。

 鎧も。

 盾もある。


 飾り棚に鎮座した武具が一揃い。



 なんでこんなもんがケースの中に……

 まさかロボはこれを守護しているのだろうか。


 まだ少しふらつく頭では、うまく考えることが出来なかった。

 そこへ誰かの絶叫。


 くそっ、こうしちゃいられん。


 俺は折れた剣の柄を投げ捨て、黒い武具を手に取ろうとした。

 しかしあまりにも禍々しい色がそれを躊躇させる。


 幅広の長剣。

 刀身までもが黒い。

 その刀身には、びっしりと文字のようなものが刻まれていた。


 大型の盾。

 菱形をしているその盾にも、やはりびっしりと裏側にまで文字が刻み込んであった。


 この武具からは不思議な気配を感じる。


 ええい、迷っていてもしょうがねぇ。


 俺は意を決して剣と盾と掴んだ。

 特に異常は表れない。

 むしろ武具が自ら俺の手に吸い付いてくる気がするほどだ。


 流石に鎧を着替えている暇は無い。

 そのままにして俺は仲間の元へと駆け出した。



 ミリアの癒しを受けたのだろう、ヤヨイが戦線に復帰していた。


「リッカ! ラスター! 関節の継ぎ目を狙え!」


 俺の声にすぐさま動き出す二人。

 しかし簡単に防がれてしまっていた。


 疲労とダメージが俺たちを蝕んできているのだ。

 正念場だと感じた俺は、愛すべきアホの子の名を叫んだ。


「フラン!」


「みんなさがって!!」


 ゴオッ


 ロボの全身が炎に包まれる。

 思った通り表面装甲には焦げも付かない。

 

 だが、継ぎ目はどうかな。

 柔軟性がある以上、金属では無いと信じよう。

 炎で多少なりと脆くはなるはずだ。


 いち早くラスターが動き、ヤツの右足首に剣を突き立てる。

 次いでリッカがラスターの背後から現れ、左膝に連続で突きを放った。


 さしもの、ロボも立っていられなくなり片膝をつく。


 すかさず両側からヤヨイとシャニィが左右の腕に組みつき、ヤツの両肘を砕いた。

 いわゆる関節技だ。



 君たちすごい!!


 感嘆している俺の方をロボの赤い目が捉えた。

 まだ距離があるのに俺を狙うのか。


 ビッ


 やべぇ!


 俺は咄嗟に黒い盾で光線を受け止めた。

 貫通して来るだろうと覚悟していたが、何事も起こらない。


 決めるならここだ!


 俺はロボの首筋を狙った。

 さっき俺が付けた傷から炎が侵入していれば、一段と脆くなっているだろう。


「はあぁっ!」


 キィィィイン


 澄んだ音が広間に拡散していく。



 その後、空気さえも凍ってしまったかのような静寂が訪れた。



 あれ? 斬ったよな?

 何の手応えもなかったんだけど……


 失敗を確信した俺は、皆に引きつっているであろう笑顔を向けた。 



「……て、テヘ」


 皆、微妙な顔で俺を見つめる。


 そんな目で見るのやめて!




 その瞬間。



 ズ……ズズゥン!



 首から胴体までを袈裟斬りにされたロボの上半身が、轟音と共に崩れ落ちたのだった。


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