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第四十二話 まともなご飯にありつけた


 大群も通り過ぎて行ったし、もう大丈夫だろうと言う事で、火を起こした。

 夜営と食事の準備をするためだ。


 温かい食べ物と飲み物は身体も心も潤う。


 こちらへ来てからというもの、肉体はともかく精神が休まらない。

 想像していたよりもストレスが蓄積されているようだ。

 色々不便な事が多すぎるのも一因だと思う。


 男の俺ですらこうなんだから、女性陣はもっとだろうな。


 大事なことだから言っておくが、冒険中は何よりもトイレと風呂が大変だ。

 風呂はまだお湯で身体を拭くなり出来るからそれほどでもない。

 湯船に入りたいと言う文句は出るがな。


 問題はトイレだ。

 森とかならともかく、こんなだだっ広い平原だと隠れる場所もほとんどないし、あまり馬車から遠くへ行くと危険性が増す。


 そんなわけで、女の子たちは四本の棒に布を取り付けた簡易的な幕を張って、その陰でしている。

 持ち運びにも優れ、場所を変えながらすれば皆で使える。


 製作者は俺だ。

 いちいち陰になりそうな所を探すのに苦労したんでな。

 これが多少なりとストレス緩和になってくれればいいんだが。


 こういう時、男に生まれて良かったと心底思うよ。



 むしろこれからの問題は食料だな。

 いよいよその辺の生き物を狩るしかなくなりそうだ。

 俺とラスターは獣でも我慢できるが、女子たちはどうかなぁ。


 煮立ちそうな鍋のスープを見ながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。


 人数分のカップにスープを注いでいく。

 一人につき二口飲めるかどうかくらいしかない。


「なぁミリア。このあたりに集落とか村はないのか?」


 食べられる野草を処理しているミリアに聞いてみた。

 この野草が青臭くなくて意外といけるのだ。

 ある意味、今の俺たちの生命線ともなっている。


「もう少し西へ行けば小さな街がありますよ」

「お、そうなのか。じゃあそこまで持たせるしかないか」

「あら? シャニィさんは寝ちゃってるんですか?」

「ああ、メシが出来るまで寝かせておこう」

「優しいんですねっ」


 俺の腹にしがみついたまま寝ているシャニィの頭を撫でてみる。

 すっかり寝入っているようだ。


 それを見たフランがこちらに突進してきた。

 そして俺の眼前に頭を突き出す。


 どうやら撫でろと言うことらしい。


「わかったわかった。座れ」


 俺は隣に座ったフランを左手で撫でてやった。

 右手にはスープの鍋。

 腹にはシャニィ。


 なにこれ。

 変な構図。


 クスクスとミリアが笑っている。





「アキトさーん!」


 静寂を打ち破るように、薪を拾いに行っていたラスター、ヤヨイ、リッカが駆けてきた。


「東! 東を見てください!」


 ヤヨイの声に従い視線を向ける。


 とっぷりと闇に浸かった東の夜空。

 だが、その一部分だけが赤い。

 その意味に気付いた俺は思わず立ち上がっていた。


 腹のシャニィはその勢いでも剝がれない。

 シャニィを抱え直し、夜空を見やる。


「あれは……燃えているのか……?」


 東と言えば第三の街がある方向。

 怪物の大群が向かった先と同一。


「街が攻められているのかな……」


 隣に立つフランが不安そうな顔をしている。


 俺にもわからない。

 無言でフランの頭を抱き寄せるくらいしかできなかった。



「あの街は堅固だ。そう簡単には落ちないさ」


 ラスターも東を眺めながら確証でもあるかのように力強く言った。


「あそこには『黄昏の占術師』がいるからな」



 聞けば、先の大戦を生き残り、貴重な攻撃術を操る老婆の事らしい。

 世に数名といない攻撃術の使い手であり、凄腕の占術師だが普段はひっそりと暮らしているそうだ。

 隠者みたいなものなのだろう。

 攻撃術と言うのは、尊敬や畏敬の対象であると同時に、畏怖や禁忌の対象でもあるようだった。


 ん? 占術?

 占術と言えば、あの街にはクレアが居たな。

 まさか身内だったりして。



「みなさん。ご飯が出来ましたよー」


 緊迫した空気の中、ミリアの暢気な声が上がった。



 このお茶目さんっ。



-------------------------------------------------------------------------------



 翌朝早くに俺たちは出立した。


 出来れば早いとこ次の街に行きたい。



 もう、大群を警戒せずともよかろう。

 ここからは全力で西へ向かうのみだ。



 昼に小休止を挟んで尚も進む。



 道中は快調そのもの。

 黒王号と流星号も昨日しっかり休んだためか、颯爽と疾駆している。


 街道に戻れたのも幸いしたな。

 固められた道は走りやすい。

 次第に木々が多くなってきた。

 やっと大平原を抜けたようだ。


 長かったなぁ。


 そしてようやく街が見えてきた!


 ミリアは小さい街などと言っていたがとんでもない。

 今の俺たちには充分な大きさです。



 ただ、なかなか街に入れてもらえなかった。

 怪物の大群を恐れているのだろう。

 斥候隊じゃないのかと散々に疑われた。


 救い主はラスターだった。

 聖騎士の紋章を門番に見せた途端、連中の態度が軟化したのは驚いた。


 逆に諸手を挙げて歓迎される。

 聖騎士団の威光はこんな街にも届いていたようだ。


 門番のおっちゃんにこの街で一番大きい宿の場所を聞き、馬車ごと街に乗り入れた。


 街の規模にしては通行人が少ない。

 これもやはり大群を警戒してのことなのだろう。


 大通り沿いに建つ宿屋には、馬車の車庫と馬小屋も併設されていた。

 馬車ごと世話人に預ける。


 この世界の宿はどこも大体同じ構造のようだ。

 一階が食堂兼酒場。

 二階が宿泊施設だ。


 今回は涙を飲んで、野郎部屋と女子部屋にわかれた。


 くそう、女の子と一緒が良いよぅ!

 こらヤヨイ! これはそういうのじゃない!

 ギラギラした目で俺とラスターを見るな!


 部屋に荷物を降ろし、食堂へ。


 まともな食事にありつけるのは久々だ。

 みんなウキウキしている。


 ビールのようなもので乾杯だ!


 くっはー! 五臓六腑に染み渡るぁー!


 料理もガンガン運ばれてきた。


 ガツガツと貪る俺たちを、恰幅のいい女将さんがニコニコと眺めていた。

 客は俺たち以外にいない。

 俺がキョロキョロしていたのに気付いたのだろうか。

 聞いてもいないのに女将さんが話し出した。


「それがねぇ、若い男衆はみーんな大きな街の兵隊として行っちまったんだよ。なんでも怪物の大群が動いているって言うじゃないか。お陰で旅人も全然来なくてねぇ。商売あがったりだよ。街のみんなも怯えちゃってさぁ。だーれも家から出てきやしない。お兄さんたち、良かったらゆっくりしていってよ」


 一気にまくしたてられ、俺たちも目を白黒させた。


 驚いて喉に食べ物を詰まらせたフランの背中をさすってやる。


「そ、そうなんですか。それは難儀してるでしょう……」


 一応同情しておこう。





「そうなのよぉ。この間もね、ここから西の方で戦いがあったみたいでねぇ。何でも街や村のいくつかと、彼方の回廊が滅茶苦茶になったらしいんだよ。なんとか撃退はしたみたいなんだけど、はぐれた怪物たちがこっちの街にもきちゃって大変だったんだからぁ」



「!!!???」





 今なんて言ったの!!??

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