第四十一話 謎の施設があるらしい?
俺たち勇者だって。
俺たちみたいな変態の勇者がいるかっ!
いかん、自爆した。
そう言えば、タクミってチンピラが自ら勇者と名乗っていたな。
ヤツもそうだが、俺たちも特に勇者らしいことは何もしていない。
今だって、自分の世界に帰るための旅をしているわけだし。
フランが俺をつついている。
ラスターの話を聞いてやれってことか。
「私は、聖王騎士団の副団長ラスター! SSRとその当選者様を探し、各地を放浪しておりました!」
聖騎士か!
なるほどなぁ、やっぱりあの剣技は体系化されたものだったんだな。
しかも副団長とは……強いわけだ。
てか、方向音痴のラスターに捜索を任せるのは人選ミスなのでは……?
「そもそも、始まりの街で見張っていたほうが出会う確率は高いような気がするけど」
「!?」
俺の言葉でまたも愕然とするラスター。
その手があったか、みたいな顔すんなよ。
この人もアホなんだな……
「ゲホゲホン! ともかく! 皆様には是非とも聖王都へおいで頂きたく!」
勢いでごまかすなよ。
「ラスター。敬語はいいって。で、なんで聖王都とやらに?」
「はっ! 只今、王都にも軍勢が迫りつつあります! さらに聖騎士王陛下がご不在のため、様々な問題が内部でも起きているのです!」
お堅いお堅い。
「ん? 聖騎士王? どっかで聞いたな」
「SSR聖騎士王レイン様ですね」
ああそうか、ミリアサンキュー。
「俺たち会ったよな。そのレイン王に。なんとかの門のとこで闇ドラゴンとやった時」
「うん。私の父が一緒にいたわね。蒼の騎士タチバナって名前は正直恥ずかしいけれど」
「!?」
俺とリッカの言葉にまたも白目を剥きそうなラスターに、顛末を掻い摘んで話してやった。
「なるほど。そのようなことがあったのですか……。陛下と蒼の騎士様は災厄の根源を探すため、また旅立たれました。その隙を狙ったかのように軍勢が……我々聖騎士団はそうそう押し切られることはないと思いますが……」
「うーん。俺たちが王都に行ったとして、何が出来るんだろう」
「SSRは我々の象徴でもあります。民衆の意気は上がるかと。ましてや攻撃術者がいるとなれば」
「ラスター。ちょっと待っててな」
こんな時は円陣だ!
俺たちはラスターから離れて円陣を組む。
「だそうだが、みんなはどう思う?」
ピシッと手が挙がる。
「はい。フランさん」
「行きたくないです!」
「そのこころは?」
「……聖王都にはアカデミーがあるからです!」
「あかでみぃ?」
なんじゃそら? 学園とかじゃないだろうな。
「一般的な学問所などではありません。言わばレアリティの集まる登録所と申しましょうか……」
ミリアの説明でもサッパリわからん。
「養成所……とも違いますし……ともかく、原理はわかりませんが、そこに登録された者がレアリティとして当選者の元へ送られるのです。極秘施設ですから聖騎士王と他の少数しか存在を知らないと思います。私たちにも施設の事は良く解らないくらいですし」
俺にも全然わからんぞ。
「…そこでのフランさんが私の先輩だった、というわけ…ドジで有名だった…」
「つまりフランは恥ずかしいから行きたくないんだな?」
無言で真っ赤な顔を隠すフランは小動物のようにプルプル震えている。
黒歴史でも思い出したのだろう。
そっとしといてやるべきだな。
「フランは置いといて、シャニィとミリアはどうだ?」
「…私は構わないけど、彼方の回廊はどうするの…?」
「私は、当選者のかたに従うのみです」
当然今でも元の世界へ帰るのが第一目標ではある。
「ヤヨイとリッカは?」
「……情報が少なすぎるわね……王都に行くメリットがそれほどあるとは思えないわ。それに私はこちらに来られて、もう満足してしまったから……アホな父は気になるけれど……」
「私も向こうが気になりますね。もしかしたらもう戦争になっているかも……」
「うん。俺も全面的に同意する。戻ったところで戦争中なら俺たちに出来ることなんてなにもないんだろうけどな……」
決まりだ。
帰ろう。
「ミリア。ここから聖王都はどの方角になる?」
「海を挟んで北北西、ですね」
「彼方の回廊は?」
「少しずれましたが、ほぼ真西です」
「やっぱりな」
クレアの占いが予言していたではないか。
向かうべきは西、と。
「ラスター。俺たちはまず西へ向かう。そこがハズレだったら聖王都へ案内してくれ」
「おお! 感謝します! 勇者様!」
「……もう勇者様はやめろ。いつも通りでいい。なんなら俺も呼ぼうか? 『師匠』と」
「ぐあっ! それは恥ずかしい……! わかった。僕はこのまま同行してもいいのかな?」
「ああ、いいとも。あんたはすぐ迷うんだろ?」
「シッ!!」
ミリアが突然唇に人差し指を当てて皆を制止する。
頭の大きな耳が辺りの音を探るようにピクピクと動いていた。
「皆さん静かに伏せてください」
ミリアが小声で言う。
俺は静かに伏せようとするが鎧が余計な音を立てた。
伏せた俺たちにもすぐに感じ始めたこの振動。
かなりの数の生物が移動しているようだ。
息を潜めてしばらく経ったころ、視界ギリギリの辺りを大群が横切って行くのが見えた。
遠すぎて姿形は判別できないが、物凄い数だ。
長い長い隊列を組み、東へと向かって行く。
徒歩の者、空を飛ぶ者、四足の者、馬に乗る者、乗り物、巨獣、巨人。
これほどの大群が街に攻め込んだら……いくらなんでもやばいよな。
第三の街がしのぎ切れるといいのだが……
それにしてもどれほどいるのだろうか。
だいぶ経つがまだ行列は流れている。
幸い、こちらに気付く者はいないようだが。
俺たちは身動きするのも忘れて固まっていた。
俺の腹の下がモゾモゾ動いている。
「あ、あの、アキト。苦しいよ……」
モジモジしながら小声でフランが囁く。
あれ、無意識に抱きかかえていたか。
すまんすまん。
まぁ、一番騒ぎそうだったしな。
結果オーライ。
そっと身を浮かせてやるが、フランは動かない。
その隙間にスッとシャニィが入り込んできた。
「!?」
思わず声を上げそうになったじゃないか。
そんな俺の背中にのしかかってくるヤヨイとリッカ。
油断していて支えきれなかった。
「「「むぎゅ!」」」
潰れた俺は慌てて横へ転がった。
シャニィとフランが潰れるわ!
「コラー!」
思わず声を上げてしまい、慌てて自分の口を手で覆った。
「大丈夫です。もう最後尾は通り過ぎましたよ」
良かった。
ミリアの耳なら信頼できるだろう。
よっこらせ。
背中に二人、首根っこにシャニィをぶら下げたまま立ち上がる。
大群の方を見てみるが、もうほぼ視界には無い。
そのまま空を見上げれば日も暮れかかっている。
今夜は動かずここで夜営するしかあるまい。
「女の子三人もぶら下げてそんな顔しても格好良くないからね」
フランがジト目でそんな事を言った。




