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第三十九話 俺の女を守るため!


「ちょ、ちょっと待ってくれラスター。みんなと相談していいか?」


「ああ。納得いくまでしてくれたまえ」





 俺たちはラスターからちょっと離れ、円陣を組んだ。


 ラスターを同行させるかの会議、開始!




「ラスターの提案、どう思う?」



「んー。私はよくわかんないからアキトに任せるね!」

「そうかそうか。うんうん。フランらしいな」

「えへへー」


 褒めていないが満足そうなので良しとしよう。



「私はアキトさんに従いますよ。あの人からはホモの匂いがしませんし」

「そうかそうか。ヤヨイは自分に正直だな」

「てへっ」


 かなり腐った脳だがまぁいいだろう。



「…アキトのしたいようにして…わたしは何でも耐えるから…」

「うんうん。シャニィもだいぶおかしくなってきてるな」

「…うふ…」


 頭でも打ったのだろうか。



「私は……出来れば彼を連れて行ってあげたいですけど、決めるのはアキトさんです」

「ミリアは天使か……」

「いえいえそんな……!」


 慈悲深き心が胸を打つなぁ。



「私はどちらでもいいぞ」

「……おい、リッカ。お前はアイツと口調が被るから変更しろ」

「えええ!?」

「さぁ、早く。超女の子っぽくな」

「……わ、私は、どちらでもいいと思う、わよ。こんな感じ、かしら?」

「OK。それで行こう」

「えぇぇー……」


 真っ青な顔でブツブツ呟くリッカを残し、ラスターの元へ戻る。



「ラスター」

「ん? 決まったかい?」

「ああ、一緒に行こう」

「ありがたい!」

「ただし条件がある」

「うん? なんだい?」



「俺に剣術を教えてくれ」



-------------------------------------------------------------------------------



 こうして新たな道連れとなったラスター。


 俺が連れて行く気になったのは、ひとえに剣術を習得したいからである。

 彼の剣技は素人の俺から見ても、それほどに卓越していたのだ。


 簡単に言ってしまえば、男としての憧れだ。



 どうせなら格好良く女の子を守ってみたいだろ?



 それに、今の俺は付け焼刃の剣術なのを、高レベルによるパワーだけで強引に怪物を倒している。

 このままではいずれ強敵と出会った場合、破綻する時が来るだろうと感じていた。


 なので、旅の道すがらに俺とリッカは基本の型から普段の練習法、実戦での型、最善の動きを瞬時に行える思考力、相手の動きの読み方、多対一の戦闘、更にはラスターとの打ち合いまでこなした。


 あまりにも熱心に惜しみなく教えてくれるラスターに、後半は旅脚を数日止めてまで学んだ。


 俺たちに触発されたのか、ヤヨイとシャニィもかなり本腰を入れて鍛錬していた。

 地面を踏み込む脚の音が、日に日に大きく、強大になっていった。

 もはや無手では俺もかなわないだろう。


 俺たちが全力で修行しているあいだ、身の回りの世話や御者を、フランとミリアに全て任せたのは心苦しかった。


 ミリアはいつも通りなんでもテキパキこなすが、フランがすごかった。



 なにせ料理をすれば黒焦げにする、川や沢で洗濯をすれば服に穴を開け、得意のはずのお茶すらうまく淹れられないのだ。

 いい加減にやっているわけではないようだが、頑張れば頑張るほど、空回りしているように感じた。



 もしやどこか具合でも悪いのだろうか。



 ある日、さすがに見過ごせなくなり、休憩中にフランをみんなから離れた川へと呼び出した。



「どうしたんだフラン。何かあったなら言ってくれないとわからんぞ」

「…………」

「どこか痛むのか?」


 ブンブンと首を振るフラン。

 そして川縁にペタンと座り込む。


「……ごめん、なさい……」

「別に失敗したからって謝らなくていい。ただ結構心配はしてる」


 俺もフランの隣に座る。

 少し冷たいものの、良い風が川を渡って行く。


「……何やってんだろうね私……」

「あん? いつも通りアホみたいに笑ってくれりゃそれでいいんだよ」

「むー! アホじゃないもん!」


 むくれてポコポコ叩いてくる。


「わはは、元気出てきたな」

「むー…………えへへ」

「うん。泣き虫フランは笑ってた方が良いぞ」

「そう、かな?」

「ああ。少なくとも、俺は救われてるよ」

「ほんとう? 嬉しいな」



「……あのね。私、最近アキトのことばっかり考えてるの」

「そ、そうなんですか……」


 この手の話に弱い俺は、つい身を硬くして敬語になってしまう。

 彼女が出来たことのない悲しさよ。



「でね、アキトとリッカが仲良さそうに練習してるのを見るとね。胸の奥がグチャグチャになってくるの」

「いや、ラスターも一緒に練習してますけど……」


 せめてラスターも視界に入れてやってくれ。



「別にリッカが憎らしいとかは無いんだけど。でもね、改めて思っちゃったの。あぁ、私はアキトがこんなにも好きなんだなぁって。ずっとそんなことが頭の中でぐーるぐる。アハハ」



 照れて笑うフランが愛しく思えるのは、きっと雰囲気のせいだけじゃない。



「あ、だからってアキトは気にしなくていいの。これは、私の、私だけの問題」

「……そうか。わかった」

「次からは頑張るからね!」

「おう。頼んだぞ」


 お互いに微笑む。




「……それで、その……もうちょっと元気出したいから……キス、してもいい……?」




 そんな顔でそんな風に言われたら──────




「……ん……」




 ──────するしかないじゃないか。




-------------------------------------------------------------------------------



 休憩を終え、出発する。


 今日、明日はどうしても大平原を横切らなければならない。

 ここら辺りから北の方へ進路を取りたいのだ。

 食料も乏しいし、さすがに一か月もかけて迂回するわけにもいかないだろう。


 方向音痴の癖に地図は読めるラスターの話によると、この辺りの危険度が最も高いらしい。

 知識人であるミリアも同意しているから間違いないだろう。


 出来れば一気に駆け抜けたいところだが、馬が持たない。

 一晩中走るとなると、どうしても速度は落ちる。

 かと言って、モタモタしていたらそれこそ怪物と出くわすだろう。


 痛し痒しだな。


 ええい。迷っていても仕方がない。

 とにかく慎重に進むしかなかろう。


 俺の考えを皆に伝えると、全員頷いてくれた。


「よし、行こう。すまないが全方向の索敵を頼む」


 俺は御者台に乗る。


「流星号、黒王号、頑張ってくれよ」


 ヤヨイとシャニィが名付けた馬たちにも呼びかけた。





 颯爽と走り出した馬車の上には、暗雲が立ち込め始めていたのであった。

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