第三十五話 びっくりするほどフレンドリー
フランの術は、俺ごとオークキングにとどめを刺していた。
お見事……
ドシャァァァ
「アキトー! しっかりしてーーーー! うわーーーん! 死んじゃダメーーー!!」
ガクンガクン
「大変です! アキトさんの頭がアフロになってますよ!!」
「…もこもこで可愛い…」
「と、取り敢えず脱がしたほうがいいんじゃないかな? ハァハァ」
「みなさん、落ち着いてください。私が癒しを……リッカさん! アキトさんのそんなところをまさぐってはいけませんよっ」
「このままアキトさんが死んでしまったら……さっきの汚らしいオークたちが仲間の復讐に戻ってきて……か弱い私たちを一生性奴隷に……ヒ、ヒィィッ!!」
「アキトー! お願い起きてー! 私を残して死なないでー!!」
「ここをこうすればいいんじゃないのか?」
「いえいえ。ここはこうして、こうです!」
「…うわ…ヤヨイ…大胆…」
「ちょっと、みなさん。アキトさんに早く癒しを……そ、そんなことまでしては……いけませんいけませんっ!」
「ハッ!? もしかして、私だけ仲間じゃないからここに一人置いて行かれて……私がオークに食べられている間に逃げ出そうとしてるのでは……イヤァァッ!」
「だぁぁぁぁぁぁぁ! 大人しく死なせろぉぉぉぉぉぉ!!!」
-------------------------------------------------------------------------------
ミリアの癒しのお陰で、俺はすっかり回復した。
たいしたものだ。
アフロになった髪まで戻っていたのは解せぬがな。
少し休憩した後、俺たちはまた歩き出した。
できれば今日中に踏破したいところだ。
あれほどいたオークたちはどこへ行ったのだろうか。
全く遭遇することすらなかった。
そして、小一時間ほど歩いた俺たちの前に現れたのは、分かれ道であった。
一本は広い坑道。
あのオークキングすら楽々通れそうな広さがある。
どうやら上へと伸びているようだ。
空気の流れを感じるところからすると、もしかしたら外へ通じているのかもしれない。
もう一本は狭い道。
三人程度横に並べる広さだ。
こちらは明らかに下へと向かっている。
まぁ普通に考えて下だよな。
そしてまた、俺たちは一歩を踏み出した。
程なくして、坑道は終わりを告げ、洞窟へと変化していた。
水晶が見当たらないのは、まだ目的地ではないからなのだろう。
すると、行き止まりに突き当たった。
床には穴が開いており、そこには縄梯子が掛けてある。
その穴からは淡い光が見えていた。
「俺が先に降りて、安全を確かめる。少し待ってろ」
「そんな事言って、下からパンツを覗く気でしょ!」
フランがスカートを押さえながら俺を睨んだ。
「うむ」
「正直!!」
縄梯子を慎重に降りる。
数メートルで地に着いた。
「おおー」
そこには一面の水晶が煌めいていた。
まさしく水晶の谷だ。
澄んだ地下水も流れている。
上にオークキングがいたせいか、人間に荒らされた様子は無かった。
よし、これなら大丈夫だろう。
女性陣がおっかなびっくり降りてくるのを、ガン見で楽しむ。
ピンク。
水色。
くまさん。
純白。
紫。
鎧。
俺たちは手頃な大きさの水晶を、布袋に拾い集めた。
売れば旅の資金になると思ったからだ。
少し奥の方まで進んでみると、水晶の壁がまだまだ続いていた。
しかしこんな宝の山、よく放っておくもんだ……な…………………………?
視界に広がる巨大な空間。
周囲は鏡のように反射する水晶に覆われている。
だが真に注目すべきは、床にあった。
なんだこれは……………………
俺もみんなも息を吞むしかなかった。
床に。
像。
鎧。
駄目だ、うまく頭が回らない。
とにかく、あまりにも巨大なモノが水晶の床に埋まっているのだ。
白銀の、神像だろうか。
あるいは、騎士の像だろうか。
大きさも凄まじい。
20メートルはありそうな巨体だ。
両手を胸の上で組み、横たわるその姿は、もしかしたら古代の墳墓なのかもしれない。
「……誰か、これがなんだか知っているか?」
「…………憶測でしかありませんが」
と、上ずった声のクレアが呟く。
さすが眼鏡だ!
物知り!
「神話に登場する『神王の聖鎧』かもしれません。その神話ですが、神々の王は『深淵の彼方より来たりし者』との争いで、聖鎧を用いた、との記述があります。私が知っているのはそれくらいですけど……」
「いや、充分だ。参考になったよ」
この世界の人間がわからないんじゃ、俺たちにわかるはずもない。
わからんことをクヨクヨ考えても詮無き事、さ。
「あれ? なんだろうねこれ」
ちょ、このパターンは…………
マッハで振り返ると、フランがしゃがんで何かを触っていた。
フランを抱きかかえ、一気にその場を離れる。
「バカ! まだ懲りないのかお前は!! このポンコツ!!」
「あん、こんなところじゃダ・メ。みんなに見られちゃうから……」
「アホー!!」
しかし、数分経っても特に何も起きることはなかった。
ホッと胸を撫で下ろす。
俺の腕の中で、頬を赤らめモジモジしているフランに気付き、解放してやった。
自分で言っておいて照れるとは、なんたるアホの子か。
フランがしゃがんでいた場所を見てみると、水晶の床に右手の形のへこみがある以外は、おかしな部分は無いようだ。
良く見つけたなこんなの。
まぁ、何事も無くて良かった。
取り敢えず、目的は果たしたわけだ。
そのまま帰っても良かったのだが、像の大広間の奥に小道を見つけてしまった。
気になった俺たちは、協議の結果進んでみることにした。
しばらく歩くと、結構広い空間の真ん中に、水晶で作ったと思われる椅子がポツンとあった。
華美な装飾を施されたそれは、まるで玉座のようにも見える。
その後ろの壁には更に奥へと続く道があった。
不用意に近付くなよ、と一同に言い聞かせる。
特にフランにだ。
外壁にそって移動すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
ヒィッと声を上げる女性陣。
「人か……久しく人など見ておらぬな……」
いつの間にか椅子に腰かける人影があった。
地の底から響くような声。
顔は見えない。
黒いフードを被り、その上から冠を戴いている。
全身黒尽くめの中で、細った手だけが異様に青白い。
「あ……あ……」
珍しくミリアが動転している。
「あれは……不死者の王です……」
なんだって!?
不死者の王と言うと、ゲームならリッチやノーライフキングを指す。
とんでもなく高位の怪物だ。
そう言えば、クレアの情報の中にあったな。
ここに住み着いているのはオークと不死者だと。
ゾンビやスケルトンを予想していたのに、いきなり不死王とは。
事前情報がザックリしすぎだろ!
弱い人間なら近付いただけで死ぬんだぞ!
「人よ……ここには何もない。すぐ立ち去るが良かろう」
あれ? 思ったより友好的?
「ね、こう言ってくれてるんだから、帰りましょうよ!」
「そ、そうだな。はは、お邪魔しましたー」
俺たちはそそくさと立ち去ろうとした。
「待て」
「な、なんでしょう!?」
「……後ろの通路は外への隠し扉と通じておる。使うが良い。それと、道中気を付けるのだぞ」
フレンドリー!!




