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第三十四話 意外な敵が住むダンジョン



 ダンジョン!


 地下迷宮!




 浪漫あふれる単語だ。




 自発的に来ているならな。




 俺たちはクレアの迫力に根負けし、渋々ダンジョンに来ている。

 第三の街から、東へ一日ほど歩いた小高い山の中に入口はあった。


 坑道のように見える入口だが、昔は実際に鉱山だったらしい。

 今では放棄され、そこに怪物が住み着いているそうだ。

 その坑道の最深部が、天然の洞窟へ繋がっており、水晶の谷となっているのだ。


「以上が、このダンジョンの概要です。質問はありますか?」

 眼鏡をクイッと上げながら説明するクレア。


「先生! 面倒臭いので帰りたいです!」

 俺は元気よく手を挙げて、正直に言った。



「…………ひどい! 私をこんなところに置いて帰るだなんて! きっと一人になった私は、汚らわしいオークたちに凌辱されちゃうわ! そしてたくさん子供を産まされて……ひっそりと絶望の中で死んでいくのね! 死んだ後は細かく刻まれて餌に……! そんな死に方をしたら成仏することも出来ずにゴーストとなって、この森を永遠にさまよい続けるんだわ! そんなの嫌! お願いだから捨てないでくださいー!!」


「落ち着け妄想癖!」


 ええい、埒が明かん。

 こんなところ、さっさとクリアして帰ろう。


 俺は、まだ騒いでいるクレアの首根っこを捕まえて、ダンジョンに侵入した。



 内部はひんやりとしているが、空気の淀みはないようだ。

 ガスでも溜まっていたら大変なことになる。

 壁や天井もしっかりと補強されていて、崩落の心配もなさそうだ。


 用意しておいた松明とランタンを手分けして持ち、慎重に歩を進めていく。


 いいねぇ、この緊張感。

 これぞダンジョンの醍醐味だ。

 ゲーム好きとしては、たまらんな。


「ここに住み着いてる怪物の傾向はわかるか?」

「この界隈をねぐらにしているオークと、下層には不死者がいると聞いています」


 オークとアンデッドか。

 また随分とポピュラーな。

 ま、それくらいならなんとでもなるだろう。


 問題は内部構造の方だ。

 鉱山だったのなら、かなり枝分かれした坑道があるはずだが。



 俺の心配をよそに、曲がりくねり下ってはいるものの、道はほぼ一直線だった。

 どうも枝道は封鎖されているようだ。


 途中何度か作業員詰所跡のような部屋があったが、オークの姿は無い。

 緊張感がどんどん薄れていく。



 俺の後方では小声だが、ガールズトークに花が咲いていた。

 男の俺は肩身が狭くなる。


「アキトさんて、どんなかたなのでしょう? 変わった雰囲気をお持ちと言うか……」

「鬼畜よ。何度泣かされたか、もうわからないもん」

「ああ、そして変態だ。常に私たちの下着と身体を狙っているんだ」

「セクハラ魔王です。あらゆる部分を触ってきます……いつでもどこでも……」

「…全身をペロペロされる…何時間も…」

「相手の弱点を突くのがとても上手ですよっ」



 お前ら……ある事ない事言いやがって!

 せめてもうちょっとオブラートに包んでくれ。


 あと、ペロペロしたことなんてないぞ!



「……そうなんですか……」


 ほら見ろ、クレアも引いちゃっただろ。


「なら、どうしてそんなかたと一緒にいらっしゃるんです?」


「「「「「………!?………」」」」」


「えっ? なになに? なんです?? もしかしてみなさんはアキトさんの事を? キャー! みなさん赤くなってますよー! やだー! 青春ー! 甘酸っぱーい!」



 せめて俺に聞こえないところでやっておくれ。





 一度休憩を取った。

 軽い食事を済ませ、松明を替え、ランタンに油を補給してさらに歩く。



 突然視界が開け、大きな坑道に踏み入った。

 かなりの広さだ。

 松明の灯りでは先が見通せない。


 その時、奥の方からズシンと足音がした。

 徐々に近付いてきているようだ。


 嫌な予感しかしない。


「シャニィは俺と前衛な。フラン、ミリアは俺たちの後ろでクレアを頼む。しんがりはヤヨイとリッカに任せる。念のため、後方にも注意しておいてくれ」


 隊列を整えて各自構える。


 ピィィィィィーーーーー


 笛の音があたりに響いた。


 ザザザザザザ


 細かい足音と共に、暗がりからオークの群れが現れた。

 意外と機敏で、あっと言う間に取り囲まれる。

 ムッとした獣臭が立ち込めていく。


 この広場に集中していたのか。

 それにしても数が多い。

 見えてないのがまだ潜んでいたらまずいな。


 ギィー! ビィー! とオークたちも声を掛け合っているようだ。



 そういや、本格的な怪物との戦闘はこれが初めてじゃないか?

 やべ、オラワクワクしてきたぞ。



 ギギィーーーー!!



 一回り大きいオークが叫ぶ。

 隊長格なんだろうか。


 その声に合わせて、群れは襲い掛かってきた。


「ハァッ!」


 突っかけてきたオークを一刀両断にする。

 二匹目、三匹目は串刺しに。


 剣を片手持ちに切り替えて右へ左へ。

 四匹目、五匹目。


 その時、ドゥンという轟音と共に紅い火柱が上がった。


 フランだな。

 いいぞ!


 右から来たのを手甲で殴りつけ、左のは袈裟斬りに。

 六匹、七匹。


 そこまで倒すと、敵わないと見たか、俺の周囲は手薄になってきた。



 戦況確認。



 リッカは鋭い突きで確実にオークの急所を捉え、一撃で屠っている。

 強ぇ!


 ヤヨイとシャニィは嬉しそうに、逃げるオークどもをタコ殴りにしている。

 ひでぇ!


 クレアはミリアと防御陣の中だ。


 フランの術は群れの大半を消し飛ばしていた。


 よし俺も、と剣を構え直した時、ギャーピーと声を上げ、残ったオークは奥の暗がりへと撤退して行った。



 拍子抜けしたものの、俺は油断していなかった。


 巨大な質量を感じさせたあの足音。

 絶対何かいる。



「みんな、怪我はないか?」


「ないわ」

「うむ、大丈夫だ」

「余裕です」

「…ここが痛い、さすって…」


 シャニィが自分の無い胸を指さしている。


 いいの!?

 じゃなくて!

 俺のいたいけなシャニィに変な事教えたの誰!?


 フランもヤヨイも「その手があったか!」みたいな顔すんな!



 ズゥン ズゥン


 オークの残党が逃げ去った方向から足音が来る。


 こりゃかなりデカそうだ。



 そいつは暗闇を引きちぎりながら、ヌッと現れた。

 トゲトゲの兜を被った緑色の巨躯。

 5メートルはあろうか。

 右手には巨大な棍棒。

 粗末な腰巻。

 


「オークキングです!! まさかこんなところにいるなんて!!」


 クレアが絶叫する。


 オークキングか、強そうだな。


「よし、隊列変更! ヤヨイとリッカも前衛へ!」



 キングはガバッと棍棒を振り上げ、一気に叩き下ろしてきた。


 狙いは俺か!


 剣の鍔と肩当てで受けるが、ズンと来た。


 おほー、これは効く。


 続いて第二撃。

 剣で受ける寸前に捻りを加え、威力を削いだつもりだったが手が痺れる。


 俺が受けに回ったと見て、三人が王に向かっていく。

 ヤヨイとシャニィは、歩法と拳の弾幕で牽制している。


 その隙にリッカが一気に踏み込む。


 ピュンピュピュン


 見事に王の膝を貫いた。

 目にも止まらぬ三連突きだった。


 グオォォォォ


 痛みで絶叫する王。

 たまらず片膝をつく。



 シャニィが王の身体を駆け上がり。



「シャニィ・必殺拳! 獄!!」


 輝く拳で顔面を殴りつけた。


 なんちゅう技名だよ。


 だが技名はともかく、かなり効いているようだ。


 ヤヨイが王の後ろに回り、大地も揺るがす踏み込みと共に、背骨の急所に肘を叩き込んだ。

 のけ反るキング。



 今だ!!



 俺は剣を振りかぶって高々と飛んだ。


 狙いは王の頭!



 振り下ろそうとした刹那。




 ゴォォォォオオ






 俺と王は巨大な火柱に包まれた。







「ぎゃーーーーーーーーーーー!! あっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「わーーーーーーん!! アキトごめんなさーーーーい!!」


 グワァァァァァァァ!





 俺とフランと、オークキングの絶叫が広場に響き渡ったのだった。

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