第三十三話 頭がアレな占い師
俺たちは、宿屋の一階部分にある酒場兼食堂で、夕食を取っていた。
既に酒が入っている。
ビールに似たような酒をキューっとやる。
たまらんな。
「さっきのアキトさん。かっこよかったです! 奥義とかゾクゾクしますね……」
ヤヨイが顔を染めて身震いしている。
何か怖い。
「そうだ、無我夢中で良く解らなかったが、なんで急に奥義なんて」
俺の疑問は、ミリアが晴らしてくれた。
「当選者とレアリティの絆が深くなったからです。お二人はとっても仲良しなんですねっ」
そういや前に、そんな事聞いたな。
許容量と絆が大事と。
「絆ねぇ……俺たちそんなに仲良かったっけ?」
「むーーーー!!!」
フランが半ベソで怒っている。
何か言おうとしていたが、恥ずかしいのか言い出せず、結局ショボンとした。
「わかったわかった、泣くな」
ぺすぺすと頭を撫でてやると、にへーっと笑顔になる。
尻尾があったら全力で振り回していそうな顔だ。
その瞬間、頭が四つ、ニョキっと俺の前に生えてきた。
「どうやって移動したんだ!?」
仕方なく、次々頭を撫でてやる。
全員、ごろにゃんとでも鳴きそうな顔になっていく。
猫かお前ら。
本物の猫みたいなミリアの耳を撫でると、ピクピク動いていた。
気持ちよさそうに目を閉じているところなど、実に猫っぽい。
心なしか、顔が上気しているようだ。
面白そうなので、集中的に耳を撫でまくってみる。
こうかは ばつぐんだ
「んっ……クゥン……あっ……アンッ」
なにこれエロい。
どうやら、ミリアは耳が弱点のようだ。
そのうち全力で攻めてやろう。
夕食後、一風呂浴びた俺たちは、早めに休むことにした。
ひんやりしたベッドが心地良い。
寝不足と疲れからか、俺はあっと言う間に眠りへ落ちた。
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翌朝。
朝食を食べた後、街の出口へと向かった。
乗合馬車がたくさん集まっている。
そこは既に乗客と荷物で溢れかえっていた。
「えーと、俺らはどれに乗ればいいんだ?」
「あ、ここですね」
結構大型の馬車を指さしているミリア。
これなら六人乗っても余裕がありそうだ。
「おっちゃん。六人なんだけどいいかな?」
「毎度っ。六人分ですな。荷物は後ろに乗せてくだせぇ!」
気の良さそうなおっちゃんだ。
荷物を載せ、俺たちも乗り込む。
俺たち以外に客はいないのか、待つほどもなく出発した。
とめどなく流れて行く景色。
さえずる小鳥たち。
ゴトゴトと揺れる馬車。
思ったよりも速いし快適だな。
昼になる頃、村の脇を通り過ぎた。
もっしゃもっしゃと、宿で作ってもらった弁当を食べながらそれを眺める。
やたら閑散としている村だった。
夜営を挟み、さらに北へ────
そして、第三の街へ到着した。
街全体が、壁で覆われている。
城塞都市と言うやつだろうか。
それにしても巨大な街だ。
城壁は見上げるほどの高さ。
その上に兵士のような、ウロウロしている人影が見えた。
活気も凄まじい。
物々しい姿の冒険者連中、見たこともない種族、ずらりと並ぶ露店。
御者のおっちゃんに別れを告げ、俺たちは歩き出した。
あてもなく。
取り敢えず酒場でも行ってみるか。
ビールっぽい絵と矢印が書いてある標識に従って移動する。
おいヤヨイ、そいつらは男同士で歩いているだけだ、そんな目で見るな!
リッカ! お前は美少女にホイホイ付いて行こうとすんな!
収拾がつかんわ!
はぐれないように、シャニィと手をつないで歩いている俺までが、どうも奇異の目で見られているようだ。
違う! 決して人攫いじゃないぞ!
情報収集と言えば酒場、と言う短絡的思考でやって来たわけだが、あまりにも混雑している。
昼間から飲んでる連中ばかりだ。
ここでも奇異の目で見られているが、構わずに酒場をグルリと見渡す。
酒場の最奥にポツンとテーブルがある。
そこに座っていたのは、フードを目深に被り、ジプシー風の服を纏った女性だった。
テーブルには大きな丸水晶が鎮座している。
わかりやすっ。
「あんたが占い師か?」
ニヒルな感じで話し掛ける。
しかし、シャニィと手をつないだままだった!
少し気恥ずかしくなり、つないだ手を離そうとしたが、離れない。
ブンブン腕を振っても、全く離れない。
力が強い!
「あなた方は……」
女がふと顔を上げた。
丸い大きな眼鏡をかけた、女と言うよりは少女だった。
結構可愛い顔をしている。
そしてガバッと立ち上がって言い放った。
「あなた方は人攫いですね!? 私も捕まえて奴隷にしようとしてるんでしょう!?」
「待て待て! いきなりなにを言い出すんだ!」
「そうよそうよ! アキトはそんなことしないわよ! ……手籠めにはされるかもしれないけど……」
「そうだぞ! アキトは多少鬼畜なだけだ! 普段はとっても変態だぞ!」
「そうですよ! 時々お尻触られたりしますけど……」
「…色んなところをペロペロされる…」
「私の弱点を執拗に攻められました……」
「やっぱり! 目が変質者ですもの! 助けてー!」
「お前らぁぁぁぁ!」
「コホン、取り乱して失礼致しました。私は占い師のクレアと申します」
「クレアクレアクレアクレアクレア?」
「はい?」
「いや、なんでもないんだ」
聞けばクレアは腕は良いのだが、ちょっと被害妄想の気があると語った。
これでちょっとか。
危うく犯罪者にされるところだったぞ。
しかも自分で腕が良いって言っちゃってる。
「でさ、仕事の依頼なんだけど。占ってもらえるかな」
「ええ、勿論」
話が早くて助かる。
「と、言いたいのですが。今は無理なんです」
「ん?」
「水晶が無いんです」
「目の前にあるだろう?」
テーブルの水晶に指を突きつける。
「あ、これ氷です」
「氷かよ!!」
よく見れば所々溶けて歪になってきていた。
「数日前、野盗の大集団に襲われたときに、落として割ってしまって……まぁその野盗と言うのは、ただのホモたちの集会を勘違いしただけだったんですけれども」
「詳しくお願いします!」
身を乗り出すヤヨイを無言で引き戻す。
食いつきすぎだ。
「水晶が無いと、占いの精度が九割落ちちゃうんです……」
落ちすぎだろ。
しかしそうなると困るな。
俺たちのアテってこの占い師くらいだもんな。
「そこで、私から逆依頼です! 一緒にダンジョンへ行ってくれませんか!?」




