第三十二話 チンピラ勇者に鉄槌を!
いきなり勝負って言われてもなぁ……
どう言って断ろうか。
「俺が勝ったら、お前のレアリティは全て貰う!」
「「「「「「ええー!」」」」」」
なんて面倒臭い事を言い出す勇者様なんだ。
こんな条件じゃなきゃ、負けてやってもいいと思ってたのに。
むしろ、フランたちがボキボキと指を鳴らしているんですけど!
勇者様が殺されちゃう!
シャキン
タクミが腰の剣を抜く。
やたらときらびやかな細剣だ。
太陽の光を受け、宝石たちが輝いている。
あいつの剣、高そうだな。
あれを売れば、しばらくは金に困らないんじゃないか?
ミリアにも金を返せるな。
追い剥ぎみたいな発想に、自分が嫌になってくる。
つい、某ゲームのアイスソードの逸話を思い出してしまった。
タクミは、チャカチャカと妙な動きで、フェンシングのような構えを取っている。
構えがおかしかったのか、リッカが後ろでプッと笑った。
「お前も抜けよ! さぁ! 腰抜けか!?」
キザったらしい仮面を脱ぎ捨てた自称勇者様が煽ってくる。
仕方ない。
ガララ
俺も背中の剣を抜き、両手で持つ。
「おお!? なんだ!? ケンカか!? いいぞ!! もっとやれ!!」
「勇者様ぁーん! がんばってぇーん!」
「俺はタクミが勝つ方に賭けるぜ!!」
「タクミィ! そんなカワイコちゃんたちを連れたチンピラは殺しちまえ!」
「酒とツマミはいかがっすかぁ~!」
街の連中が面白がって、俺たちをぐるりと囲むように集まってくる。
便乗商売まで始まっていた。
しかも結構売れている!
難癖付けられてるのは俺の方なのに、悪役扱いかよ。
「フッ!」
声援に乗せられたタクミが突きを放ってきた。
こいつ、首を狙ってきた! 本気で殺す気だな!
ギャリン
剣で受け流してみる。
うまくいった!
ギャンキィンと何度か打ち合う。
思ってたよりも強いなこいつ。
意外とレベルが高いのかも知れんな。
うーん、わざと負けてやるのも難しそうだ。
ガッ!
ギャリギャリ
更に何度目かの打ち合いが、鍔迫り合いになった。
何のつもりか、顔を近づけたタクミが声を潜めて俺に呟く。
「お前の連れ、みーんな可愛いじゃないか……俺が貰ってたっぷりと仕込んでやるよ……前も後もな……クヒヒ」
「…………あぁ?」
「俺のぉ、ハーレムにあの子らを入れるっつってんだよぉ。股にも色んなモノ入れちゃうけどなぁ」
下卑たことを言いながら、グッと剣を押し込んでくる。
こいつ、最初からそれが狙いだったんだな。
女が欲しくて声をかけてきたってことか。
道理でな、難癖の付け方が強引だと思ったんだよ。
ん? なんだ? 急に力強くなったような……
見れば、タクミの頭の上に次々と支援効果の表示が現れていた。
取り巻きの男女が支援をかけたのだろう。
クソ、汚ぇぞ、タイマンじゃなかったのかよ。
ボゴン
更に力が加わり、俺の足が石畳にめり込む。
「俺はずぅっとこの街でぇ、怪物狩りと女狩りをしてんだよぉ。そこらの連中よりよほどレベルが高いんだぜぇ」
確かに嘘ではなさそうだった。
剣を支える俺の腕が折れそうなほどだ。
危機感に脂汗が止まらない。
レベルなら負けていないはずなんだが。
ビシッ
石畳に亀裂が走るほどの圧力。
「アキト!!」
フランの絶叫。
もう泣いてる。
泣き虫め。
心配すんな。
「クヒヒ……もうすぐお前は死ぬぞぉ、早く死ねぇ……この後、女どもを犯すんだからよぉ」
「ぐぅっ……!」
俺の背が反っていく。
圧力に抗しきれない。
それでも支援は飛んでこない。
みんな、俺の性格をよく知ってらっしゃる。
こんなクソ相手に支援なぞいらぬわ。
もっと強敵と相対するとき、我にその全てを捧げるがよい。
やべ、ちょっと中二魔王が顔を出してきちゃってる。
「もうあきらめろよぉ、やべぇ勃起してきたぁ、最初はあの女にしよう、クヒッ」
舌なめずりをしながら、フランを舐め回すように見ている。
ブチンッ
ギィン!!
ブチ切れたパワーを剣に乗せ、全力で跳ね上げる。
タクミの剣は、遠くの建物の壁に深々と突き刺さっていた。
「我の女に手を出そうとした者の末路、その身を以って知るが良い。これは汝に与えられる最大の慈悲である」
バギョッ
「キィヤァァァァァァァ!!! 俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!!!」
右腕を叩き折った。
斬ったつもりだったが、よほど質のいい鎧なのだろう、折れただけで済んだようだ。
もっとも、関節が何ヶ所か増えるくらいにはなっているが。
ゴギュッ
左腕もあらぬ方向へ。
「アギィィィィィィィ!!」
そして俺の頭上に、
『奥義使用可能』
の文字が浮かぶ。
なんなのだこれは、と思う間もなく、身体が命ずるままに剣を下段に構え、意識を集中する。
紅く輝きだした剣を、一気に上へと振り上げた。
斬ることの敵わなかった鎧が、真っ二つになる。
それと同時にタクミの足元から、爆発したかのような紅い光が噴出した。
光は奔流となって、タクミごと上空へ昇っていく。
威力に耐えきれなくなったのか、奴の鎧と衣服が消し飛んでいくのが見えた。
輝きは、咲き誇る大輪の華のように広がり、儚げに散っていった。
「奥義、閃紅刃」
俺は呟きながら、剣を背中に収める。
ドサッ
全裸のタクミが落下してきていた。
可哀想なことに、全身の体毛が全て焼き消えている。
ピクピクと痙攣しているところを見ると、死んではいないようだ。
連れの男女とSRのライムが駆け寄り、必死に癒しの術をかけ始めた。
「アキトー!!」
ガバッと、フランが泣きながら抱き着いてきた。
「心配したんだから!」
みんなも俺にしがみついてくる。
シャニィはまたも股下に居た。
「しゅいませんでしたーーーーーー!!」
ミリアが高位の癒しをかけ、動けるまでに回復したタクミとその一行が、俺たちに土下座していた。
いいから、せめて服を着ろ。
「取り敢えず、顔を上げてくれよ」
「は、はい、あの、あなた方はいったい……」
「無知なお前さんたちに、世の中は広いってことを教えてやろう」
俺はフラン、シャニィ、ミリアをこちらへ呼んだ。
「いいかタクミ。この三人はな、SSRだ」
「!!!!!!?????」
愕然とするタクミ一行。
笑えるから服を着てくれ。
周囲の野次馬連中までドヨッとしている。
まぁ最高峰のレアリティだしな。
珍しいんだろう。
先程とは打って変わってチヤホヤされる俺たち。
災厄を止めに来たんじゃない、とはとてもじゃないが言い出せないな。
黙っておこう。
俺は、らっきょうのようになったタクミの頭に近付き、囁いた。
「これに懲りたら、改心しろよ? でないとお前の本性バラしちゃうぞ? 勇者様のままでいたいだろ?」
「は、はい! 勿論です!」
「それと」
「はい! なんでも言ってください!」
「壊しちゃった物の弁償代、払ってくれよな」
「は、はい……」




