表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/156

第三十一話 初めてのキスは星空で


 俺たちは歩いた。


 歩いた。


 歩きまくった。


 夕闇が覆うまで!



「なんか思ってたのと違----う!!!」



 野営の準備を始めたころ、俺は思わず叫んでしまった。


 ペイッと脱いだ鎧を投げ捨てる。


「どうしたのよ、急に」

「どうしたもこうしたもあるかー! 一日歩いて敵の一匹も出ないってなんだー!」

「順調でいいじゃない。まぁまぁ、これでも飲んで落ち着いてよ」


 フランが俺の腕にしがみつきながら、お茶の入ったカップを渡してくる。

 アピールのつもりだろうか、必要以上に胸を押し付けてきた。


 うむ、これはこれでいいんだ、が……


 ヤヨイとリッカも目を光らせながら、ジリジリと近付いてくる。

 

 や、やめろ……


 ヤヨイが前から、リッカが後ろから飛びかかってきた。


 ゴリゴリィ


「ぎゃーーーー! リッカァァァ! 鎧! せめて鎧を脱げぇぇぇぇ!!」

「あらあら、アキトさんモテモテですねっ」

「ミリア! リッカをなんとかしてーー! 背中が削れるぅぅぅ!」

「私も入れてください。えいっ」

「ぎゃーーー!」

「…むふふ…」


 シャニィに至っては、何のつもりか俺の股下に潜り込んでいた。



---------------------------------------------------------------------


 手分けして薪になる乾いた枝を集め、火打石で火をともす。

 これが意外に難しい。

 時間もかかる。

 百円ライターの有難味を、こんなところで感じるとは……


 辺りは既に暗闇だ。

 そしてかなり肌寒い。


 火がこんなに暖かいなんてなぁ。


 しみじみと炎を見つめる。


 シャニィとヤヨイが自分の定位置はここである、とでも言うように、俺の膝の上と背中を占領していた。

 寒いから丁度良い。


 夕飯はミリアとフランが用意していた。


 鍋で温めたスープ。

 焚火で炙った干し肉と、とろけ始めたヤギの乳のチーズ。

 それを、これまた炙ったパンに挟む。


 熱いうちに頬張ると、身も心も温まっていく気がした。


 シャニィは俺の膝の上に乗ったまま、むぐむぐと美味しそうに食べている。

 愛い奴め。


「ほら、シャニィ、こっち向け。ほっぺがチーズまみれだぞ」


 俺が拭いてやっていると、ミリアが微笑ましそうに言った。


「まるでお母さんみたいですねっ」

「……せめてお父さんにしてくれ……あと、その例え、地味に効くからやめて」



 夕食後、ほどなくしてシャニィがうつらうつらし始める。

 小さい分、俺たちより歩数が多かったからだろう。


「シャニィ、眠いなら横になれよ」

「…んー…」


 膝から降ろそうとすると、ガシッとしがみついてきた。

 まぁいいか、眠ってから降ろそう。


 見れば、ミリアもリッカの膝枕で寝息を立てていた。

 大きな耳のついたミリアの頭を、愛おしそうに撫でているリッカ。

 時折、その動物のような耳がピクピク動く。


 いいなぁ、俺も後で撫でてみよう。


 フランとヤヨイも少し眠たそうに、俺の両脇でそれを見つめていた。


「お前たちも眠っていいんだぞ」

「そうですね……私、毛布を出してきます」


 ヤヨイが配った毛布を被り、寝息を立てているシャニィを起こさないように降ろそうとしたが、ガッチリと俺の服を握っている。

 俺は諦めてそのまま仰向けに寝転んだ。

 毛布にくるまったフランとヤヨイが、俺の両腕に身を寄せてくる。





 疲れてはいるが、なかなか寝付けない。



 目を開ければ、夜空に満天の星々。

 当り前だが、知っている星座が無いことに驚く。


 本当に別の世界に来てるんだな。



 パチパチと爆ぜる焚火の音と、みんなの寝息。



 感傷に浸っていると、フランが小声で話しかけてきた。



「アキト……起きてる?」


「……ああ」




「…………ごめんね」


「なにがだよ」




「私のせいでこっちへ来ちゃったこととか……他にも色々迷惑かけちゃったりしたから……」


「そんな事か。長い付き合いだしな、お前のアホっ子ぶりにはもう慣れたよ。……まぁ、なんだかんだで楽しかったし、気にすんな」



「…………うん……アキトは優しいね…………ずっと……ずっと……駄目な私を、見捨てないでいてくれたよね……」



「声が変だぞ…………泣いてんのか?」



 首だけを横に向けると、フランの大きな青い目に涙が浮かんでいた。



 天空の星たちが、その目の中で瞬いている。



 決意を秘めた瞳に、吸い込まれそうだ。




「……アキト…………私は……あなたが、大好きです……」



 フランの微かに震える瞼が、静かに閉じられた。

 俺も目を閉じ、フランの顔へ唇を寄せる。



 そっと口付けした俺たちの上を、流星がひと粒、フランの涙と共に流れて行った。




-------------------------------------------------------------------------------




 翌朝。



 俺は早くから起きだし、消えてしまった焚火に火をつけ、朝食の準備を始める。



 そうだよ。

 寝不足だよ。

 言わせんな。


 簡単な朝食が出来上がるころ、モソモソとみんなが起きてきた。

 慣れない野営でみんな寝不足だろう。


「おう、みんなおはよう」


「……お、おはよう……エヘヘ」


 フランがはにかんでいた。

 なんだかいつもより可愛く見えるから困る。


 まぁ、正直照れるよな。

 俺もなんだか顔が熱くなってきた。


「……お……おはよう……ござい、ます……」

「……お、お、おはよう。い、い、いい天気だな」


 ヤヨイとリッカがキョドってるのはなんなんだ。


 ミリアとシャニィは、そんな俺たちを見てキョトンとしている。




 シャニィをいつものように膝に乗せ朝食を食べ始めると、フランがそっと寄ってきて、俺の肩に頭を預けた。

 こいつにしては珍しく慎ましやかだ。

 そして意味有り気な視線を、リッカとヤヨイに送っていた。


「「!!??」」


 電流を浴びたように、二人はやおら立ち上がると、俺の方に全力で近付いてくる。


「ア、ア、ア、アキトさん! あーんしてください! 私が食べさせてあげます!」

「は、早く口を開けるんだアキト! 私の分も食べさせてやる! ほら、あーーーん!! なんなら口移しがいいか!?」


 こいつら目がイッてる!


 二人は俺の口を無理矢理こじ開け、パンを強引に詰め込んでくる。

 なんとか咀嚼し、詰まりそうになるのを水で流し込む。




「ハァハァ……殺す気かっっっ!!!」



---------------------------------------------------------------------


 荷物をまとめ、武具を装着して俺たちは歩き出した。


 出来れば今日中に次の街へ。



 茂みの多い荒れ地に伸びる街道をひた歩く。



 太陽が中天に達するころ、ようやく、街へ到着した。

 最初の街よりはこじんまりとしているものの、活気はあるようだ。


 街の中心部に、大きな建物がある。

 宿屋と酒場、それに食堂を兼ねているらしい。


「取り敢えず、水と食料の補給をするとして、これからどうしようか。先へ進むか、今日は休むか、だな」

「あっ、乗合馬車があるみたいよ。三つ目の街まで行けるみたい」


 フランが看板を眺めながらそんな事を言った。


「お、ナイスだ。いつ頃出発って書いてある?」

「明日の朝だって」

「ふむ、じゃあ今日は宿を取って休もうか」


 みんな嬉しそうに頷いている。

 野宿はやっぱりキツいもんなぁ。



 俺たちが宿へ向かおうとした時、街の入口の方が賑やかになっていた。


 数名の男女が、巨大な四足獣を引きずって凱旋したところのようだ。


「でかい! タイライサーのボスを仕留めたのか!」

「やったぜ! 家の牛もあれに食われて頭にきていたんだ!」


 街の人々が、歓声を上げている。


 確かにデカい、マイクロバスほどもありそうだ。

 見た目は豹のような虎のようなライオンのような怪物で、ものすごい牙を持っていた。


 解体屋か何かに、獣を引き渡した男女が、俺たちに気付いた。


 先頭の男が話しかけてくる。



「やぁ、君たちも冒険者かい?」


 その男は無駄に爽やかな雰囲気を出している。

 だが、どうにもハナにつく爽やかさだ。

 動きがいちいちキザっぽい。


「まぁ、そうだけど」

「へぇー、そうなんだ……プッ」


 そいつは、俺たちを眺めるだけ眺めてから鼻で笑った。

 俺たちは、相当弱そうに見えるのだろう。


 フランたちの顔から、みるみる表情が消えていく。


「俺は、ヒラノタクミだ。仲良くやろうぜ」


 そう言いながら、俺に握手を求めつつ、片目をつむった。

 かなりキモいが、俺も挨拶くらいは返しておこう。


「俺は、ミウラアキトだ。よろしくな」


「その名前……! お前、まさか当選者か!?」

「そうだけど? お前も?」


 わかり切ってるけど一応聞いてみる。



「そうだ! 俺は選ばれし者タクミ! 災厄を滅するべくこの地へ降り立った勇者だ!」


 …………………人の事は言えんが、これは痛い人だー。


 俺たちは立ち尽くすしかなかった。


「ライム! こっちへ来い!」


 ライムと呼ばれた女性が、向こうの男女の中から出てきた。

 緑の髪で、盗賊風の成りをしている。

 ちなみにおっぱいがでかい。

 タクミの横に立つと、変なポーズで俺にウィンクをよこしてきた。


「俺はこの、SRライムに当選したんだ! 彼女は最強のレアリティだ!」


 ……あー、わかった。

 こいつSSRを見たことがないんだな……まぁそこら中にいるわけもないか……


 フランとシャニィが俺の後ろでプークスクスと笑っている。


 お前らひどいな……


「さぁ、お前のレアリティは誰だ?」


 うわー、めんどくせぇー。

 

「あ、俺が当選したのはただのRだから。じゃあな」

「待て待て!」


 適当にお茶を濁して立ち去ろうとしたが、腕を掴まれる。



「俺を舐めているのか貴様!!」



 貴様とか言うヤツ、初めて見たよ……


 俺のそっけない態度が、勇者様にはお気に召さなかったらしく激昂していた。



「タイマンで勝負しろぉ!!」




 

 ええー! もう宿に帰らせてくれよ…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ