第三十話 とうとう始まる大冒険!!
「あーあ……」
心の底から溜息をつく。
どう表現すればいいだろう、とにかく何もしたくないし考えたくない。
身体が異様に重く感じた。
不貞腐れて眠ってしまいたいくらいだ。
あれほど嫌だって言ったのに……
俺たちは、向こう側へ来てしまったんだ。
行き交う人々。
通り過ぎる馬車。
石畳の街道。
石造りの街並み。
街の中を流れる川。
「ここは……当選者が初めて訪れる街、です」
「ほう! これは素晴らしい! まるで中世ヨーロッパみたいじゃないか!」
リッカだけがウキウキだ。
俺とヤヨイの落胆は半端じゃないぞ。
「もーどーでもいーよ!」
デーンと大の字に寝転がる俺。
「もう! 恥ずかしいから立ってよー!」
フランが俺を抱き起そうとする。
だが俺は既にマグロだ。
何の気力も無い。
俺はそっと目を閉じた。
おれのたたかいはここでおわってしまった
BAD END
ブッチュウウウウウ
「「「「「!!??」」」」」
慌てて目を開けるとシャニィが俺にキスをしていた。
な、なにしてんですか! シャニィさん!! いや嬉しいけども!!!
他の女性陣が愕然とした顔から、怒りの形相に変わっていく。
怖えぇぇぇ!
そしてミリアだけがオロオロしていた。
「ちょ、ちょっとシャニィ! 離れなさいよ!」
「な、な、何をしているんだ! うらやま……じゃなく、私がかわりに……でもなく!」
「シャニィ! 駄目! 離れな、さ、い……すごい力!」
ヤヨイが引き剥がそうとするが、ものすごい握力でしがみつき、吸い付いている。
まるでスッポンだ。
「キャー! あの男! あんな小さい子にいかがわしいことをしてるわ!」
「変態よ!」
「いやらしい目でこっちを見てるわ! 犯される!」
そこの見知らぬ女ども! ちょっと待てぇぇぇい!
俺はガバッと飛び起き、チューーーーーッポンとシャニィを引きはがす。
唇がもげるわ!
「ミリア! 金はあるか!?」
「は、はい!」
「宿! 取り敢えず宿を探そう!」
「こっちです!」
俺はシャニィを脇に抱えて全力疾走に移った。
一刻も早く逃げねば!
宿に駆け込み、六人部屋を取った俺たちは、隠れるように入った。
「ぜぇ……ぜぇ」
「…やる気…出たでしょ…」
「出るかっ!」
急に愛情表現が露骨になってきたな。
俺が見ていない間に何かあったんだろうか。
まぁいい。
とにかく、来てしまったものはしょうがない。
なんとか向こうに帰る算段をしないとな。
シャニィを囲んでギャイギャイやりあっているみんなを集めた。
取り敢えず、今後の方針を決めよう。
「議題は、いかにして向こうへ帰還するか、だ。リッカはともかく、俺とヤヨイは帰りたい」
「ええー! せっかく来たんだからー、災厄を止めよ……イダッイダイイダイ!」
「誰のせいでここに来ちゃったんで、す、か、ねぇ!」
フランにアイアンクローを決めて泣かせた後、改めて意見を募る。
「そう、ですね。愚見ですが、私たちが正規の手順以外でこちらへ来られた、と言う事は、あの門のようにこちらから向こう側へ行ける場所があるのかもしれません」
「なるほど。さすがミリアだ」
「だが、具体的にはどうする? アテもなくさまようわけにもいかないだろう?」
「確かにそうだな」
リッカの言う事も尤もだ。
宛てなんてあったら苦労しない。
「…だったら…街の人に聞いてみるとか…」
俺の耳元から声がする。
背中に張り付いたシャニィだ。
コバンザメか。
「そうだな、ゲームの基本みたいなもんだ」
「それと、こちらの怪物たちは向こうと比較になりません。怪物もあちらでは弱体するようですね」
そうか、フランも力が出せずにいたもんな。
「どちらにせよ、旅に出ることになると思います。ですので、まずはみなさんの装備を整えましょう」
「!!」
まずは装備だよな!
街の武具屋へ繰り出した俺たちは、思い思いの装備を買い込む。
金を出したのはミリアだ。
悪い、後で返すからな。
俺は、防御性能と動きやすさの両立を考え、いわゆるプレートメイルを選んだ。
胴体部分と腰、そして腕と脛を覆うタイプだ。
全て金属で出来ている。
毎度フランの杖を借りるわけにもいかないので、武器は剣を買った。
片手持ちも両手持ちも出来る。
そして、革製のマント! これを外すわけにはいかないよな!
ヤヨイは体術重視なので、革製の胸当て。手甲と脛当ては金属製だ。
スカートのまま鎧を付けているが、おれは敢えて黙っていた。
勿体ないしな。
リッカはなんと、ガッチガチのプレートスーツだ。
頭部以外が全て金属で覆われている。
まるで女騎士だ。
長い黒髪が金属鎧に映えて、とても似合っていた。
「子供のころ、フェンシングをやっていたのでな」
と、細身の剣、レイピアを選んでいた。
これで装備は整った。
後は、雑貨屋で旅に必要な道具を揃え、情報収集のために人の集まりそうな場所へ向かう。
ガッシャガッシャと鎧を鳴らしながら通りを闊歩すると、コスプレしているみたいでちょっと気恥ずかしい。
だが、いっぱしの冒険者気分にもなり、少しだけ高揚していく。
それっぽくなってきたぞ!
しばらく歩くと、街の寄り合い所のような建物があった。
観光案内や休憩所にもなっているらしく、大勢の人が集まっていた。
受付のやたら巨乳なお姉さんに、聞いてみることにした。
「ちょっと聞きたいんだけど」
「はい。なんでしょう?」
「お姉さん、おっぱい大きいですね。イデデデ」
四人が四か所を同時にツネっていた。
「最近、何か変わった噂とかはありませんでしょうか?」
俺の代わりにミリアが聞いてくれていた。
俺は今、ツネり攻撃から逃げるのに忙しい。
「噂、ですか。そうですね……」
お姉さんが思案するように上を向くと、胸もポヨンと動いた。
たまりませんな、イデデデ。
お前らにはあんな凄いの無いだろ!
「そう言えば、第三の街に占い師が来ているみたいですよ。なんでも、とても良く当たるとか」
ほうそれは興味深いな。
うまくいけば、門の場所を占ってもらえるかもしれない。
「とても参考になりました。ありがとうございます」
「いえいえ」
他の連中にも当たってみたが、目ぼしい情報はほとんどなかった。
仕方ない、お姉さんの情報に従ってみるか。
俺たちは、最後に食料品などを買い求め、街の出口に立っていた。
いよいよだな。
これから冒険の旅に出るのだと思うと、なんだかんだ言っても昂ってくる。
男の浪漫であり、憧憬でもあるのだ。
目の前には、石畳の街道と草原が広がっている。
目指すは北の方角。
全く必要は無いのだが、剣を背中から抜き、高く掲げる。
「出発だ!」
俺たちは冒険の第一歩を、大きく踏み出すのであった。




