第二十六話 二人の少女は眠り姫
ドサドサドササッ!
俺たちは、乱暴に黒球から放り出された。
全員が俺の上に折り重なっている。
「むぎゅう」
とか。
「うきゅう」
とか聞こえる。
お、重い!
除けようと手を伸ばすと、なんか柔らかい。
「それは私のお尻です!」
ヤヨイの尻か。
聞こえなかったフリをして撫でまわす。
「ヒャン」とか言ってる。
初々しいのう。
「「「「変態!」」」」
「黙れ黙れ! 俺が活躍したご褒美だ!!」
頭にきた俺は、全員の尻を鷲掴みにしてやった。
ブン殴られるのを覚悟していたんだが、みんな顔を赤くしたまま何も言わずに耐えている。
あれ? 俺の時代きた?
よし、もっと触ってやろうと思った時、唐突にリッカ以外の全員がレベルアップした。
さっきのドラゴンのか。
レベルアップの文字と、効果音が何度も鳴る。
バグってるんじゃないのか、と思うくらい鳴りまくる。
「どんだけ上がるんだ」
ピロリロリン
「あのドラゴンすっごく強かったからじゃないの?」
ピロリロリン
「でも私は、フランさんを援護してただけですよ」
ピロリロリン
「…全員に均等された…はピロリロリン」
ピロリロリン
「いい加減これピロリロリン」
ピロリロリン
「ちょピロリロリン」
ピロリロリン
ピロリロリン
「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺たちは無事? に研究所へと戻れたようだ。
皆が喜んでいる中、リッカだけが端末の前でへたり込んでいる。
相当ショックだったのだろう。
せっかくの成果が滅茶苦茶だもんな。
哀れなヤツ……
レベルアップのお陰か、俺もヤヨイも支援が切れたにも拘らず、身体が痛むことはなかった。
正直、一週間くらいは寝込むのを覚悟していたんだが。
シャニィが言うには、「…当選者の許容量があがったから…」とのことだ。
なるほど、前にもそんなことを言っていたな。
こちら側だとどうなるかは、試してみるまで解らない。
それにしても疲れたなぁ。
今日はもう帰って寝よう。
「リッカ、今日はこの辺で解散しようか……なんだ、親父さんの写真を見ていたのか。いやーお前の親父さん強かったなぁ。てか、向こう側で過ごしたのは何年かだろ? それなのにガチムチになるわ、強くなるわで……」
「? この写真は幼いころの私と、親戚の叔父だぞ」
「叔父さんかい!!!!」
俺はパシーン、と写真立てをひっぱたいてやる。
放物線を描いて綺麗に飛んでいく写真立て。
「ああっ」っと叫んでリッカがそれを追いかけて行った。
「うし、帰るか」
パンと膝を叩いて立ち上がる。
「アキトさん、フランさんとシャニィが寝てるみたいなんですけど」
「えぇ?」
本当だ、二人ともスヤスヤ寝ている。
まぁ、精神力を極限まで使ったんだろう。
「仕方ない、おんぶして帰るか」
「そうですね。わかりました」
帰宅した俺は、起きる気配のないフランを布団に寝かせてやった。
途中で寝巻に着替えさせようと色々まさぐったのに、全く起きないとは流石アホの子だ。
俺も風呂で汗を流して寝よう。
身も心も疲れていた俺は、布団に入ると、あっと言う間に眠りへ落ちて行った。
明くる日。
「フランー、もう昼だぞー、起きろー、メシ作ったぞー、起きないと食べちゃうぞー」
……無反応。
「起きないとペロペロしちゃうぞー」
起きる気配がない。
本当にペロペロしてやろうか。
ペシペシと頬を叩いてみる。
……起きない。
寝息は安らかだから、寝ているだけだとは思うが、これはどういう事なんだろう。
そんな時、階下から絶叫が聞こえた。
「アキトさぁぁぁん! シャニィが起きないんですぅぅぅぅ!」
「えええええ! そっちもか!」
取り敢えず、ヤヨイがおぶってきたシャニィを、フランの脇に敷いた布団に寝かせてやる。
二人とも寝息は安定しているものの、段々不安になってきた。
全速力で走ってきたのだろう、死にかけてるヤヨイにお茶を出した。
それを一気飲みして、プッハーと息を吐くヤヨイ。
おっさんか。
さて、どうしたもんかな。
医者に見せたくとも、こいつら保険証ないだろうし。
ヤヨイと色々相談して、出した結果がこれだ。
「取り敢えず寝かせておくしかないだろうな」
「うん。私もそう思います」
「夕飯食べていくか?」
「はい。あ、私が作りますね」
「……シャニィが心配だろう? 今夜は泊まっていくかい? ハァハァ」
「帰ります」
「あれっ!?」
「シャニィの看病、お願いしますね」
「ええっ」
この小悪魔さんっ!




