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第二十五話 とんでもバトルはドラゴンと!


 自分がどこにいるのかも解らない。


 皆はどうしたのかも解らない。


 フラン、シャニィ、ヤヨイ、リッカ、俺の大切な仲間たち。



 お元気ですか?


 俺は今。




 何故か、ドラゴンの、目の前に、います。





「どわぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」



 巨大な黒い竜が、これまた真っ黒なブレスを吐いた。

 かろうじて、本当にかろうじて、躱せた。

 俺は、それはもう必死に、すぐ近くにいた二人の後ろへ、飛び込むように隠れた。

 


 一人は、深い海の色をした蒼い鎧の、ヒゲ面でガチムチなおっさん。

 俺に向かって、ニカッと白い歯を見せ、親指を立てている。


 もう一人は、眩い純白の鎧を身に纏う、金色の髪のイケメン。

 笑う時に「フッ」とか言いそうなタイプ。

 いけ好かねぇ。


 二人とも大剣を構え、誰が見ても邪悪と解るような、巨大な闇色のドラゴンと対峙している。


 おっさんの方に「下がってろ坊主!」と声を掛けられた。

 イケメンは勇敢にもドラゴンに斬りかかっていった。



 いや、俺にも何がなんだかわかんねぇよ。

 気付いたらいきなりコレだよ?

 場所は、気持ちが悪いくらい広いし、天井も高いけど、洞窟の中っぽい。

 なんだか妙に明るいがな。


 ドラゴンの後ろには、とてつもなく巨大な鉄扉が見える。

 二人の男は誰だかわからない。

 俺の持つ全ての情報。終わり。


 ドテッ


「痛っ!」



 突然俺の目の前に、フランが尻から落ちてきた。

 驚いたが、馴染みの顔に嬉しくなって抱き起こす。


「フラン! 良かった! 無事か!」

「アキト! って、なにこれどうなってるの?」

「俺にもよくわからん。いきなりここにいた」

「あの二人は誰? え、あれドラゴン!? って、こっちに来るみたいよ!」

「なにい! フラン! 杖を貸せ! あと、支援をくれ! こうなったら動けなくなってもかまわねぇ! はよ! はよ!!」

「わかったわよ! 焦らせないで!!」



 フランがモゴモゴ唱えると、俺の頭上に次々と効果名が浮かぶ。

 それが消えるのも待たずに、フランを抱きかかえて右へジャンプ。

 その刹那、俺たちのいた場所を闇のブレスが通り過ぎて行った。



「あっぶねぇーーー! いいかフラン、よく聞け。ここはたぶん、『向こう側』だと思う。こっちならお前も全力を出せるんだろ? あっちにいる二人にも支援をかけてやってくれ。それが済んだら大きい攻撃術を頼む。俺も囮くらいにはなれるはずだ」

「わかったわ! やってみる!」


 タイミングを計り、意を決して俺が飛び出そうとした時。


 ドタッ バタッ


 ヤヨイとシャニィも落ちてきた。

 戦力きたーーー!


 二人は混乱しているようだが構わず叫ぶ。


「シャニィ! ヤヨイに支援を! その後は俺と一緒にドラゴンの牽制だ! ヤヨイ! 支援を貰ったらフランの詠唱を援護してくれ!」


 少し間を置いて、二人は察したように頷いた。


 いいぞ、戦闘の経験は無駄じゃなかったようだな。

 

 シャニィが自身とヤヨイに支援をかけるのを待つ。



 おっさんたちはどうなってる……? え、普通に強くね?


 二人は縦横無尽に斬りかかり、ドラゴンを押しまくっている。


 あれ? 俺たち、いらない子?


「…アキト…走って…わたしたちにも…出来ることはあると思うから…」

「そうですよ! 私も拳法でフランさんを守りますよ! あと、あちらの男の人たちはどっちが受けですか? 普通なら白い人、あ、でも蒼い人が受けのほうがいいかも」

「知るかーーーーー! よし、仕方ねぇ! 行くぞ!」


 自分の顔をパンと叩いて気合を入れ直した。


 バッ


 俺たちは三方向に散った。



 シャニィとは反対方向からドラゴンに回り込む。

 支援のお陰で足の速さに大差はない。

 

 狙うはドラゴンの翼!


「バカ野郎! 来るんじゃねぇ!!」


 おっさんの怒号が聞こえた。

 

 ドラゴンの巨大な顔が、おっさんたちではなくこっちを向いている。

 大きく息を吸い込んでいた。

 周囲の空気が薄くなったと感じるほどの吸引力。


 やべ、ブレスだ。

 翼に集中しすぎた。

 支援を貰っているとはいえ、アレに耐えられるだろうか。

 いやー、無理っぽいなぁ。

 

 死を覚悟した瞬間、誰かがが俺の前に立ちはだかった。

 そいつは、背中の白いマントでブレスを受け止め、ガクリと膝をつく。

 イケメン野郎だった。


 俺を庇ってくれたのか。

 いけ好かないとか言って、すみませんでしたー。


「大丈夫ですか!?」

「フッ、気にするな」


 やっぱり、フッって言った!


「それよりも、彼を」


 そうだった。

 シャニィとおっさんを援護しなければ。


 俺が走り出すと、シャニィは既に交戦していた。

 素早い動きでドラゴンを牽制している。

 俺も殴りかかったものの、前脚で簡単に振り払われた。

 支援を貰っていても、かなりの戦力差があるようだ。


 おっさんは、シャニィに牽制を任せて、なにやら念じている。

 すると、見る間に大剣が光を放つ。

 おっさんは、それを裂帛の気合と共にドラゴンに叩き付けた。


 ゴアアアアアアアアア!!!!


 ドラゴンの絶叫。

 右目を潰され出血している。

 とても痛そうだ。

 

 だが、これはチャンスだ。

 

「シャニィ! 少しの間でいい! ヤツの気を引いてくれ!」

「…承知…教わった魅了術を…試してみる…」


 シャニィは答えると、ドラゴンの方に向かって、スカートをまくり上げる。



「…アハーン…」



 誰ーー!! 俺のシャニィにあんなこと教えたの誰ーーーーー!!! リッカだなあの野郎ーーーー!!! グッジョオオオブ!!!


 いかん。

 俺が魅了されてどうする。


 本来の目的を思い出し、叫ぶ。


「フラン! 術を打ち込め!」

「かしこまりぃ!」



 ゴオッ



 ドラゴンの真上に巨大な火球が現れた。

 でかい。

 火球はドラゴンに直撃し、背中の羽を焼き尽くしていた。


 これでもう飛べまい。

 本来の力ってこんなにすごいのか。

 不本意だが見直したぞフラン。

 

 だが、手傷を負ったドラゴンは大怪獣さながらに、あんぎゃーあんぎゃーと暴れまわっていた。


 その尻尾が、おっさんとイケメンをはじき飛ばした。

 流れ弾ならぬ、流れ尻尾がヤヨイとフランの方へと、振り回される。


 ピッ


 ヤヨイが、見事な拳法で尻尾を受け流していた。


 なんなの!? ジャッキーなの!? しゅごい!!

 

 支援があるとは言え、凄すぎだろ。


 俺も活躍しないと、後で陰口を言われそうだ。

 あいつらは最近、俺の事をコソコソ噂しているみたいだからな。

 格好良いところのひとつも見せないと、変態の称号しか残らないではないか。


「フラン! 戦叫を頼む!」

「はいはーい」


 よし、後は叫べば攻撃力が上がるんだったな。



「行くぜ! つるぺたあああああああああああああ!!!!」



「「うわぁ……変態」」


 フランとヤヨイが何か言ったようだが、構っちゃいられない。

 俺は脱兎のごとく走り出す。


「待つんだ! 死ぬ気なのか! 我々に任せておけ!」


 イケメンめ、ふっ飛ばされて、逆さM字開脚しているくせに格好つけやがって。ペッ。


「行け坊主! 男を上げるチャンスだぞ! 自分を信じろ! 全てを貫けると!」


 おっさん、良い事言ってるけど、服が燃えて下半身が真っ裸だよ!?



 目前に巨躯が迫る。

 隻眼の竜はギロリと俺をねめつけた。

 口を開け、ブレスの態勢。



「シャニィ・ライトニング!!!」



 シャニィが竜の横っ面に蹴りを見舞った。

 残った方の目に当たったのか、竜はどったんばったん大騒ぎ。


 ナイス援護!


 俺はギュッと杖を握りなおした。

 その瞬間、杖がガチャンガチャンと音を立てて変形していった。



 なにこれ、かっちょええ!!



 俺の中二心に、ビンッビン来る。


 杖は、紅い玉の部分が花みたいに開いた。そこから刃状の光が伸びる。

 杖は一瞬で、輝ける大剣へと変貌を遂げたのだ。


 ダメだ、これは格好良すぎる。

 カチリと俺の中で、スイッチが入るのが解った。



「フハハハハハハハハハ!! 邪悪なる竜よ! 我の名に於いて、今此処に滅せよ!!」



 中二魔王出ちゃったーー。

 もうダメ。制御不能。


 俺は、高く高く飛び上がった。

 そして、全身全霊を込めて斬り下ろす。




「神魔滅殺逆鱗斬ーーーーー!!!」



 オリジナル技名出ちゃった! 恥ずかしい! 絶対後でキチ〇イ呼ばわりされるパティーンだ!


 ズドォォォォン



 ダサい技名にもかかわらず、ドラゴンは頭から真っ二つになって消えて行った。



 ……け、結果オーライってことで、見なかった事にしてもらえませんかね?

 やだ! みんなそんな目で見ないで!!

 


 ハァーと全員で溜息をついて座った時、突然上に引っ張られるような感じがした。

 上を見ると、まるでブラックホールのような黒い球体が浮かんでいる。


 げ、俺たちの身体も浮かんでないかこれ?


 そんな慌てた俺たちの目の前に、ドサッとリッカが落ちてきた。そしてそのままリッカも浮く。


 お前、今頃……。


「なんだこれは、ここはどこだ! いったいどうなっているんだ!?」

「あー、説明するのもめんどくさい。今、ドラゴン倒してー、これからあの黒い球に吸い込まれるとこー、おっさんたちが浮かんでないから、多分あっちから来た俺たちだけが吸い込まれるんだと思うー」


 もう、ガチで疲れてるから、いい加減な説明をしてやった。

 俺にも良く解らんから仕方あるまい。

 なるようになれ、だ。



「おっさん……? あ、あれは……父さん!!!」


「「「「えええ!?」」」」


 待てや! 写真と全然違うじゃねぇか!! ヒョロからガチムチになってんぞ!! 舐めてんのかこの世界は!!

 てか、なんで親父さんだとわかったんだ!?



「リッカ! 大きくなったな!」

「父さん! 今まで何をやっていたんだ! この阿保ーーー!」



 親父さんも何か叫んでいるようだが、もう聞こえない。

 既に高く浮き上がった俺たちは、黒球に飲み込まれる寸前だからだ。

 親父さんはニカッと笑って俺たちに親指を立てていた。


 せめて丸出しの下半身を隠せ。


 その横ではイケメンが、フッと笑っていそうな顔で、軽く手をあげている。

 無駄に爽やかでムカつく。




 何もかもが見えなくなる寸前、親父さんとイケメンが抱き合っているような気がしたが、きっと気のせいだろう。

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