第二十四話 強制転移はやめてくれ!!
ひどい目にあった。
戦闘後、皆が気を失った俺の足を引きずり、持ち帰ってくれたらしい。
そのまま俺は寝込んだ。
強制的に身体能力を引き上げた反動で、全身が1ミリも動かせないほどの筋肉痛に襲われたのだ。
数日経って、ようやく起き上がれるようになった。
今は縁側で日向ぼっこをしている。
それにしても、これはダメだ。
諸刃の剣すぎる。
戦闘が終わる前に支援が切れたら、俺フルボッコにされるじゃん。
しかも筋肉痛で逃げられないし、死ぬだけじゃん。
うーん、これからどうしたもんかねぇ。
俺は老人のように背中を丸めた。
一気に何十年も老け込んだ気分なのだ。
室内からは、かけっぱなしのテレビ音声が聞こえてくる。
戦線がだいぶ拡大しているようだ。
様々な国を巻き込んできている。
戦争難民、戦士者数、大規模破壊兵器使用の可能性。
そんな話題のようだ。
ここはまだまだ大丈夫だろう。
なんたって島国だしな。
超大国が動かないうちは平気平気。
次の話題は、各地で目撃される巨大生物。
被害者も増加しているらしい。
とうとう死者もでたようだ。
……ごめんなさい。
それに関してはホントごめんなさい。
向こう側で戦っているはずの勇者たちに期待してください。
俺たちにはどうにもできません。
もしかして、結構やばいことになってきているんじゃなかろうか。
向こう側もこっち側も。
やだなぁ。
「「「「ただいまー」」」」
買い出しに出ていた皆が帰って来たようだ。
まるで自分の家のようにくつろぎだす面々。
静かだった家が、一気に騒がしくなる。
「アキトー、ご飯よー、早く来ないとなくなっちゃうわよー」
フランの能天気な声が背中を打つ。
おかげでウダウダした気分が吹き飛んだ。
「おーう、いま行くー」
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俺たちは食事の後、リッカの親父さんの研究所へ案内された。
散歩がてらに丁度いいと、皆で来ている。
街のはずれのほうにあるこの研究所だが、思っていたより遥かに規模が大きい。
何よりも、地下がすごい。
巨大ロボのひとつやふたつ、余裕で建造できそうだ。
中二心がウズウズする。
だんだんマッドサイエンティスト気分になってきた。
俺たちは更に地下へおりる。
「ここだ」
ひとつの扉の前でリッカが立ち止まった。
入ってみると、さほど大きい部屋でもなかった。
机と端末、幾ばくかの機材。
奥には、ステージのようなものが設置してある。
いや、これは台座か?
リッカは慈しむように機材を撫でている。
そうか、ここが……
「そうだ、ここは『召喚の間』だ」
うわー、ネーミングセンスやべぇー。
『リセマラ部屋』でいいだろこんなもん。
だがSSRの二人は目をキラキラさせていた。
異文明に興味があるのか。
「まぁ、まだ装置は修復できていないのだがな」
端末や機材からケーブルが伸び、それは隣の部屋へ繋がっているようだ。
そちらに大型の機材類があるのだろう。
隣の部屋の入り口には『儀式の間』と書かれたネームプレートが貼ってあった。
センスセンス!
「お前の親父さんは中二病か!」
俺は思わず突っ込んでしまった。
「? 父はいつも、自分はマッドサイエンティストだ! と自慢気に言っていたぞ」
「やっぱりか!!」
「召喚されたレアリティたちは、この台座の上に現れるんだ」
リッカが少しウキウキと説明してくれた。
少女に囲まれてご機嫌なようだ。
ヤヨイとシャニィが、フンフンと説明を聞いて頷いている。
ふと見ると、机には写真があった。
無精ひげでヒョロっとしていて白衣を着た男と、幼い少女が映っている。
きっと親父さんとリッカなのだろう。
写真の二人は幸せそうに笑っていた。
「アキト」
「なんだ?」
「私には解る。これはすごい装置よ」
「嘘こけ!」
解りもしない機材や端末を「ふんふん、ほうほう」とか言いながら見て回るフラン。
そして。
「あら? これはなにかなー?」
「!? フランやめるんだ! それは!」
リッカが制止するより一瞬早く、フランが端末の何かをいじった。
ビギュン
隣の部屋にあると言う、大型装置から轟音が聞こえる。
物凄い勢いで動き出したようだ。
駆動音が振動となって全身を揺さぶる。
「どうしたんだ!?」
「フランが装置の作動スイッチを押してしまったんだ!」
ええー! あのバカ! どこまで迷惑をかける気なんだ!
轟音にかき消されまいと大声で話す。
「どうなるんだこれ!?」
「装置はまだ修復できていない! どうなるかは私にも解らん!」
リッカは泣きそうな顔をしかめながら、全速力で端末を操作しているが、さしたる効果は無さそうだ。
これはマズい。
台座の下で泣き崩れるフランを全員で囲む。
泣いてたってしょうがねぇだろう、このアホっ子は。
何とかここから脱出せねば。
ここは地下深くなんだ。
爆発でもしたら生き埋めだぞ。
轟音はますます大きくなり、それと共に部屋が光で満たされていく。
もう皆の声すら、かき消されて聞こえない。
光は、もはやスパークと化している。
近くに誰がいるのかすらも解らなくなった。
皆に触れている感触だけが頼りだ。
だが、その感触もだんだん薄れて────
全てがピークを迎えた時、唐突に音も光も消えた。
装置が壊れたのか、それとも安全装置でも働いたのか。それは解らない。
何故なら、俺たちも綺麗さっぱり消えていたのだった。




