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第二十三話 狩りに行ったが狩られそう!


 俺たち。

 今。

 


 戦っています。



「ヤヨイ! シャニィと右に行ってくれ! くれぐれも無理はするな!」

「はい!」

「…了解…」


「フラン! 術の準備は!?」

「もう少し!」


「来るぞ! 避けろー!!」



「「「「「ぎゃーーーーーー!!」」」」」



 ええ。

 


 フラグのせいです。


 元凶は俺のフラグだと思われるが、発端はヤヨイだ。



「私も、レベルを上げたいです!」


 あまりにも唐突だった。


「なんで?」

「ほら、私、キャラも薄いし、セリフも少ないですし」


 メタ発言やめろ。


「取柄と言えば、ホモ好きくらいで」


 あれは取柄か。


「一応、小さい頃は武術を習っていたんですけど、魔物との戦いでは役に立てないから、レベルの方を上げてシャニィの力になれないかなって」


 やっと納得できる理由来た。


 なるほど、殊勝な心掛けだ。

 でもなぁ。正直、怖いんだよなぁ。

 普通に死ぬかもしれないしなぁ。

 俺としては、何もせず、ロリっ子たちに囲まれて自堕落に過ごしたいんだが。



「はいはい。傾注傾注。二人とも、私の話を聞きなさい」


 見ればフランが仁王立ちで俺たちを見下ろしていた。


「おバカな二人に教えてあげるわ。レベルを上げたいなら、向こう側の方が断然効率良いわよ!」

「「効率」」


「バンバン倒せば、バンバン上がるわよ!」

「「バンバン」」


「さぁ! レベルを上げるためにも、向こうへ行きましょう!!」


「「結構です」」

「あれぇ!?」



 てなわけで、手近なところでもあり、最近ますます増えてきた黒靄を倒してみようと言う事になった。

 被害者も増えているから、退治するのはむしろ喜ばれるだろう。

 俺たちは連れ立って街を闊歩する。


 黒靄はいねがー。悪い黒靄はいねがー。


 皆、思い思いに武装してきている。

 俺は木刀。

 ヤヨイは自転車通学用のヘルメットと鍋の蓋。


 リッカは何のつもりか、ジュラルミンの盾と特殊警棒だった。

 どこから持ってきたんだ。

 どう見ても一番防御力が高いじゃないか。


 全員ギラギラした狩人のような目付きで、夕闇に包まれ始めた街を歩く。

 異様に人通りが少ない。

 皆、化物を恐れているのだろうか。

 商店は普通に営業しているようだが。

 その時、ドンと地面が揺れた。


 地震、じゃないな。



「あっちだ!」


 リッカの指さす方は、公園の方角。

 そこにぶっとい黒柱がそびえ立っている。


「またあの公園かよ!」


 毎度毎度おかしいだろ。

 あの公園に何かおかしなものがあるんじゃないのか。


「行ってみましょう!」


 ヤヨイの声に、全員が走り出した。




 俺たちが到着すると、丁度黒柱から黒靄が這いずり出てくるところだった。

 デカい。

 五メートルどころじゃない。

 靄のせいで解りにくいが、サイのようなカバのような姿をしている。


 それだけじゃない、サイカバの後から、ワラワラと獣型の群れが現れる。


 マジかよ。


 俺たちは数で押されるのが一番きつい。

 ヤツらを始末出来るのが、フランとシャニィの二人だけだからだ。

 それを知っているかのように、ジリジリと迫ってくる。


 大物からいくか、群れを先に倒すか。

 難しい選択だ。

 悩んでいる暇もなく、群れが動き出した。

 仕方がない、こちらも動こう。


「ヤヨイ! シャニィと右へ行ってくれ! くれぐれも無理はするな!」

「はい!」

「…了解…」


 二人は右へ駆け出していく。手薄な方向から大物を相手してもらうためだ。

 頼むぞ。


「フランは詠唱準備だ」

「かしこまり!」


 俺たち二人であの群れを、か。

 こいつは厳しいな。


「リッカは下がっててく……」


 ドカン!


 爆発音で俺の言葉が止まる。


 何が起こったんだ。


 見ればリッカがやたらデカい爆竹のような物を、群れに投げつけている。

 犯罪じゃないのかそれ。



 ドカンドカン



 ダイナマイト、とまではいかない威力なのだろうが、群れはギャンギャン鳴きながら逃げ惑っていた。

 俺も驚嘆している場合じゃない。


「フラン! 術の準備は!?」

「もう少し!」



 ズシーンズシーン



 右から足音。

 大物か。


 振り向くと、ヤヨイとシャニィが大物に追われてこっちへ向かってきている。


 やべぇ!

 こっち来んな!


 大物はグワッと後ろ脚で立ち上がる。


 スタンプか!



「来るぞ! 避けろー!!」



 二人に叫ぶと同時に、大物の前脚が地面を叩き付けた。



「「「「「ぎゃーーーー!!」」」」」



 俺たちは大地震のような振動と、風圧、衝撃波でふっ飛ばされた。


「ぐっ、みんな生きてるか!」


 四人の返事は聞こえる。立ち込める砂煙で姿は見えないが無事のようだ。

 いち早くシャニィが動き出し、土埃を掻き分け、大物に殴りかかる。


 一気に決める気だな。



「シャニィ・デストラクション!!!!」



 前回と技名が違うー。

 どう見ても同じ技なのにー。


 ドオン


 輝く拳が大物の額に突き刺さった。


 やっ……てない!


 大物は四肢をガクガクさせてはいるものの、消える気配はなかった。

 後ろでは俺と背中合わせで、巨大爆竹を投げつけ、群れを牽制しているリッカ。

 好援護だ。



「シャニィ!」


 ヤヨイの悲鳴のような声。

 ボン、と土煙を突き抜け、上空高く舞い上がるシャニィが見えた。

 くるりと反転し、頭から落下してくる。



「シャニィ・ストライク!!!!」



 ドドオン



 お見事!


 大物は木っ端微塵に消え去ったようだ。

 勢い余って頭から地面に突き刺さったシャニィは、上半身が完全に埋まり、脚だけが地上に残されていた。


 スケキヨか!


 俺とヤヨイで慌てて脚を掴んで引っ張り出す。


 ニーソ! 脚! パンツ! ハァハァ!!


 スポンと地面から抜け、逆さにぶら下がったままのシャニィが、土だらけの顔で「…どうも…」と言った。


 よしよし。無事だな。



「アキト。すまない、爆弾が切れた」


 爆弾って言っちゃった!

 いやそれどころじゃない!



「フラン! こっちに来い!」


 獣型を目がけて杖をブンブン振っていたフランが、こちらへ駆け寄ってくる、そして転ぶ。


 何にも無いよそこ!


 カランカランと、杖だけが俺の足元に転がって来た。

 フランが涙目で起き上がろうとするが、その背中に獣型がのしかかっていた。

 首筋を狙うように、鋭い牙だらけの口を開ける。



「いやあああ! アキト助けてえええ! 食べられて死ぬなんていやああああ!」


 ああ、もう! と俺は咄嗟に杖を拾い上げ、獣型に野球スイングを見舞った。

 これで少しでも引き剥がせれば御の字だ。


 顔面にジャストミート。

 野球ならホームランの手応え。

 今日から三冠王だ!


 パン



 と、意外な音を立てて、獣型は粉々になった。

 驚いたのは俺の方だ。

 木刀すらへし折る獣型が一発とは。


 なんなんだこの杖は……


 だが、と俺はフランをリッカに引き渡す。



「これで戦える」



 俺は群れに向かって、ニィヤァ~と悪魔のような笑みを浮かべた。

 気圧されたように群れが少し引いていく。



「…フランさん…アキトに…支援を…」

「もう大きい術は使えないし……そうするしかないわね!」



 フランが早口で何かを唱え、俺に腕を向ける。


 ……何も起こらない。



 また、お約束か!



「アキト! 何でもいいから叫んでみて!」


 こんな時におかしな事を言うやつだ。

 叫ぶって何をだ?


「なんでもいいの!」


 ええい。

 わかったわかった。

 騙されたつもりでやってみよう。



「おっぱああああああああああああああああい!!!!!」



 叫んだ途端に、俺の身体に力が漲る。

 頭上には『叫びました。』の文字が出ていた。


 なんじゃこれは。


「ウォー・クライよ! 攻撃力が上がるわ!」


 なるほど、これは良いモノだ。


 更にフランとシャニィが、二人がかりで俺に次々と支援を掛けていく。

 それに伴って、俺の頭上に次々と文字が浮かぶ。



 『STR増加』『VIT増加』『INT増加』『AGI増加』『ATK増加』『DEF増加』『LUK減少』



 おい、最後のはなんだ!?

 何か減ったぞ!?

 

 それでも全身がギンギンになっていく。


 こりゃすごい。


 群れに向き合った俺は、心の枷も外れていくような気がした。


 これはいかん。

 さっさとケリを付けねば。


 俺は地面を蹴った。

 驚くほど高くジャンプできる。

 群れのド真ん中に着地。


 すぐさまダッシュ。

 手近の一匹に杖を叩き込む。

 最早手応えすら俺に感じさせることなく、獣型は霧散する。


 これなら行ける。

 行ける行ける。


 手近なところから潰しにかかる。パンパンと小気味良く散っていく。

 時折攻撃を受けるものの、傷ひとつ負うことはなかった。



「ハハ、ハハハハ」



 何故か無性に楽しくなってきた。

 

 俺は今、無双しているのだ!



 これぞ男の夢!!



 獣型が俺の速度についてこれていない。

 そこを全力で叩き潰していく。


 逃げろ逃げろ逃げ惑え!




「ハハハハハハ、フハハハハハハハハハハハハハハ」



 駄目だ。出ちゃった。

 中二病。

 もう姫たちを守る勇者ってより、姫たちを攫う魔王気分。



「ハーッハハハハハハハハハ」



「あれはもう駄目だな。完全に」

「置いて帰りましょうか。お腹も空きましたし」

「楽しそうだし、やらせておけばいいんじゃないの? 貴重なアキトの出番だし」

「…もうちょっと…見ていたい…アキト格好良い…」



 最後の一匹を蹴散らし顔の右半分を手で隠して、格好良くポーズを決めようとした時、支援が切れたのかそれとも反動なのか、全身から一気に激痛が走った。

 もんどりうって顔面から倒れる。


 いかん、意識も途切れそうだ。



 その瞬間、俺、フラン、ヤヨイ、シャニィの頭上にレベルアップの文字が輝いた。



 どうやら目的は、果たせたようだな。

 


 俺はそのまま異様な眠気に抗えず、意識を失ったのだ。

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