第二十二話 平和な日々に祝福を
俺の日常が帰ってきた!
フランは満腹でお昼寝中。
リッカはそのフランの膝枕になりながら、なにやら端末で作業をしている。
ヤヨイは俺の背中を座椅子代わりにして、薄い本を読書。
お互いの体温を感じてる。最高!
そして、シャニィが俺の膝の上で、チュウチュウとジュースを飲んでいた。
やったぜ!! このまま涅槃に逝きそうだ!!!
ロリっ子成分が俺の全身に漲ってきた。
今ならどんな怪物も一撃で倒せるはずだ。
幸せを噛みしめながらコーヒーをすする。
くぅー、五臓六腑に染みるぜぇ。
これなんだよ、俺が欲しかったのは。
ラブコメ展開なんてクソくらえだ。
できればだが、このまましばらくは何も起きないでほしいもんだ。
と、思ってから、ゾワっとしたモノが全身に走る。
あ、しくじった。
フラグだこれ。
俺は、ぐおお、と唸りながら頭を抱えた。
「…どうかした…?」
シャニィが不思議そうに俺の顔を見上げている。
まぁ、いいか。
事が起きてから考えよう。
俺はシャニィの頭をポムポムと撫でながら、何でもないと笑って見せた。
ツインテールがピョコピョコ動く。
「…そう…? 何かあったら…言って、ね…」
ああもう! 可愛いなぁ!!
俺は柄にも無く感動していた。
俺を気遣ってくれるのはシャニィしかいない。
だらしなく涎を垂らして寝ているフランと見比べる。
時々、ピクンピクンと身体が動いているのは、夢でも見ているのかもしれない。
その動きに合わせるようにリッカが、アフンとかオフンとか言っている。
フランの起こす振動で感じているのだろう。
末期だ。
俺も当選するならシャニィが良かったなぁ。
今からでも再抽選してくれよ。
待てよ、そうか、再抽選、か。
「リッカ、リッカ」
「アハーン……なんだい?」
「例のリセマラ装置って、今どうなってんだ?」
「ウッフン、大体の解析は済んだ。だが、アヒン、最後のブラックボックスがどうしても解らないんだ、ヒアッ」
良く見れば、寝たままのフランが、無意識にリッカの身体をまさぐっているようだ。
喘ぎ声の原因はこれだったか。
だが、これはこれで見ものである。
俺に節操など無い。
あと、どうでもいいが喘ぎながら話すのはやめろ。
俺は遠慮なくその姿態を眺めながら、「そうか、まだか」と呟いた。
残念無念。
「クフン、ま、近々何とかなると思うよ、アフンッ」
まず、お前が何とかなれよ。
絶頂を迎える寸前のリッカを、敢えて放置しておくことにした。
俺の背中でもピクンピクンしているヤツがいるからだ。
首を捻って背後のヤヨイを見ると、もう薄い本は読んでいなかった。
視線は外だ。
半ズボンの少年たちが歩いている。
「おい。いたいけな子供たちをそんな目で見るな」
「ハッ!? ……いえ、見てませんよ? 今寝てましたから」
「嘘こけ!」
ブレなさすぎだろ。
いいから鼻血を拭け。
取り敢えず、こちらに向かせて鼻血を拭ってやる。
拭かれている間、ヤヨイはじっと俺の顔を見ていた。
でかい瞳だなぁ。
こっちは免疫が無いんだから、あんまり見つめるのはやめてほしい。
こんな子に『お兄ちゃん』とか言われたら、即死する自信がある。
「よし、綺麗になったぞ」
「ありがとうございます……」
尻すぼみの礼を残して、パッと、まるで定位置でもあるかのように、俺の背中へもたれかかる。
どうやら照れているようだ。
それにしても、随分と懐かれたもんだなぁ。
妹か娘が出来たみたいに感じるわー。
そして俺は気付いてしまったのだ。
気付かなければよかった。
俺、皆のオカンみたいになってねぇか?




