第二十一話 唐突なまでのラブコメディ
レベルアップの一件があってから、何かが色々おかしくなった。
歯車が嚙み合っていない。
フランが妙に俺を意識しているような気がするのだ。
お邪魔は致しませんとばかりに、ここ数日は誰も我が家へ来てはいない。
今の俺には、ロリっ子成分が不足している!
ヤヨイとシャニィは今頃何をしているんだろう。
リッカの毒牙にかかっていなければいいのだが。
ズズ、と紅茶を一口飲む。
ふぅ、静かだ。
静かなのには訳がある。
フランの姿がない。
いや、ある。
いかにも気付いて欲しそうに、柱の陰からこちらを見つめている。
ほぼ全身丸見えじゃないか。
あれで隠れているつもりなんだろうか。
そして顔をよく見れば、頬を軽く染めているようだ。
何故かポーっとしている。
俺の視線に気付くと、キャッと声を上げ、顔を両手で覆って台所の方へパタパタと消えて行った。
数瞬後、ゴンと言う音と泣き声。
アホの子ぶりは健在である。
あれからずっとこんな感じなのだ。
正直、やりにくくて敵わん。
ゴロンと横になると、障子の影から覗くフランと目が合う。
シルエットで丸わかりだぞ。
「おい、フラン」
逃げようとするフランに声をかけると、ビクっと立ち止まった。
恐る恐ると言った感じでこちらへ振り返る。
「ちょっとこっちへ来い」
「う、うん」
俺が座布団を指さすと、チョコンと座る。
そして指をモジモジ。
女子か!
いや、女子なんだけれども。
「俺に何か言いたい事でもあるのか?」
「……」
うつむいたままモジモジしている。
埒が明かない。
俺は意識的に優しく話すことにした。
「なぁフラン。言いたいことは何でも言っていいんだぞ? 俺たちの仲だろ?」
ボンと、フランの頭から煙が上がる。
そして何かを決意したように、真っ赤な顔で言った。
「あの……あのねアキト。……アキトは私の事をどう思ってるのかなーって……」
どう? どうとは? 改めて聞かれると、解らなくなってくる。
そもそも、こいつが現れなければ、様々な面倒事に巻き込まれず、自堕落に、平穏に暮らしていたはずだ。
だが、現れたことで、ヤヨイ、シャニィ、リッカと出会う事が出来たとも言える。
騒がしい毎日も、悪くなかったように思えてくるな。
まぁ、ぶっちゃけ、楽しかった。
俺たち二人はいつも一緒に過ごしてきたんだったな。
泣き顔のフラン。
お茶を淹れる時の、香りを楽しむように目を瞑るフラン。
戦う時のちょっと凛々しいフラン。
俺を癒す時の、慈愛に満ちたフラン。
俺に撫でられて、幸せそうな笑顔のフラン。
やばい、何か段々意識してきた。
不思議な事に、フランがいつもより可愛く見えてくる。
嘘だろ、おい。
俺にこんなお約束が通用するとでも……
「私はね、初めて会った時から、ずっと、アキトのことが───」
思いつめたように真っ赤な顔で、俺の目を見つめるフラン。
フランの涙目の中に、俺が映っている。
バカな。バカな。
俺がこんな気持ちになるなんて。
やめろ。やめろ。
それ以上言うな。
「お、俺もお前の事が───」
頭の中で警報が鳴っている。
ダメだダメだダメだ。
言うな言うな言うな。
「嬉しい……じゃあ、一緒に向こう側へ行ってくれる?」
「誰が行くかああああああああああああああ!!! ッシャオラアアアアアアアアアアア!!!」
俺は呪縛を振り払うように叫ぶと、背後の襖をスパーンと開け放った。
「「「ぎゃーーー」」」
悲鳴を上げながらヤヨイ、シャニィ、リッカが転がり出てきた。
全員が片手にコップを握っている。
これで聞き耳を立てていたのだろう。
「やっぱりかあああああ!! 俺にお約束は通用しないぞおおおおおお!!!!」
俺は悪鬼の形相で、逃げ回る四人を追い回した。
多分、シャニィとリッカの謀略だったのだろう。
無駄に手が込んでいるのがますますムカつく。
しかも、本来ならこちら側に付くべきはずの、ヤヨイまでもが陰謀に加担していたとは。
「テメェら全員ひん剥いてペロペロしてやるぁぁぁぁ!!!」
「「「「いやぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」」」」
と言う、ある日のお話であった。




