第二話 泣き虫少女のお願いは
「で、そのSSRってのはどこにいるんだ?」
俺がボソっと言うと、フランはニッコニコしながら己を指さした。
うわ、飛びっきりの笑顔だ。
可愛いけど、何かムカつく。
「お前はどう見ても違うだろ。本物はどこだ? 後から来るのか? どうせならロリっ子がいいな」
わざとらしく手を額にかざし、キョロキョロしてやる。
こいつに可愛いなんて言ったら、絶対調子に乗りそうだもんな。
「んーーーー!」
フランは力いっぱい指さす。
既に涙目で顔が真っ赤だ。
「返品」
「いやぁぁぁ! うわーーん!」
俺は言い放って椅子ごと背を向けると、絶叫が背後から聞こえた。
てか、当選って言われてもなぁ。
俺には何も覚えがないんだけど。
何か買ったっけ?
それとも新手の詐欺か何かなんだろうか。
こういうのは、キッチリハッキリさせておかないと、後々面倒になるからな。
新聞や、宗教の勧誘と一緒で、きっぱりと断るのが大事なのだ。
よし、説教タイムだな。
泣きながらギッシギッシと、椅子にしがみついてくるフランの顔をつかんで引きはがし、その場に正座をさせる。
叱られた犬みたいに素直に従うフランの姿は、悔しいがちょっと可愛い。
俺は、つい情が出てしまい、小さい子供に話しかけるような口調になってしまった。
「お前な、いきなりそんなこと言うヤツにさ、やったーわーい当選だーってなると思うか? 詐欺ならもうちょっと勉強してから来るんだぞ。それと、妄想癖があるようだから、一度病院へ行った方がいいかもな」
「ちーがーいーまーすー! 詐欺じゃないですーーー! 頭も大丈夫ですーーーー!」
思い切り口を尖らせるフラン。
頭はどう見てもダメだろうに。
しかもこいつ、ちょっと優しくしたらつけ上がりやがって。
これはもう殴って良いフラグだろう。
さり気なく拳を握りしめる。
「この世界じゃなく、別の世界で当選したんですーーーーー!」
「へ???」
この女は突然何を言いだすんだ。
別の世界って、いわゆる異世界だろ?
頭がお花畑なんだろうか。
俺より少し下くらいの年齢に見えるんだがなぁ。
とにかく、これ以上関わってはいけない気がする。
つまみ出そう。
「はいはい、そーかそーか良かったなぁ。玄関まで送るから気を付けて帰るんだぞ。ちゃんとお家まで帰れるか?」
「うわああああん! 違うのー! 本当なのー! そんな可哀想な子を見る目で見ないでえええ!」
どっちだよと思いながら、必死にしがみついてくるフランを引きはがす。
既に俺の服はヨレヨレだ。
「そういやお前、何もない空間から出てきたよな。もしかしたら本当の事を言ってるとか……?」
フランはパッと笑顔になり、
「ね、そう思うでしょう? その通りなのよ! 貴方は別の世界でSSRのこの私を引き当てたの! とっても幸運なことなんですよ!」
とか言ってる。
本格的にヤバい。
完全に目がイッちゃっている。
「わかったわかった落ち着け。ツバを飛ばすな」
「モガー!」
飛んでくるツバを拭いながら、目を爛々とさせるフランの顔を座布団に押さえつける。
猿の躾なら、ここで俺の優位性を示すために、フランの背中を咬むところなんだがな。
ある意味、猿の方が躾けられるだけマシなんじゃないか?
「なぁ、聞きたくもないけど……当選した後はどうなるんだ?」
「良くぞ聞いてくれました! ……えーと、アキト様には私と冒険を開始し、向こう側の世界を災厄から救っていただこうと─────」
「超イラネ」
即答した俺に、ぎゃあぎゃあ泣きながらすがりついてくる。
だってこいつ、メモを取り出して読み上げてるんだぞ。
信用できるはずもなかろう。
ってお前、俺の服に顔を押し付けるな。
あ、鼻水ついた。
コンニャロウ。
そもそも俺は、そんなありがちな話に乗ってやるような男じゃ無い。
その手の物語の連中は、全員が全員とも苦労してるじゃないか。
苦労の果てに得るものが、達成感だけなんてのは御免被る。
だいたい俺は自堕落に、そして平穏に生きたいのだ。
出来れば可愛いロリっ子とイチャイチャしながらな。
後はネットとゲームがあれば充分だ。
さて、コイツをどう説得して帰したものか。
土下座スタイルで泣いているフランを見ながら、俺は頭を巡らせるのであった。