第十九話 頭隠して尻隠さず
「ぎゃーー! 痛ぇー! フラン! そっち行ったぞ!」
「え?え?きゃーーー! いやーーー!」
「シャニィ! フランさんの援護を!」
「…承知…」
「はっはっは。みんな頑張るんだー」
その日の夜、図々しくも我が家の庭に黒靄の群れが現れた。
最初に出会ったあの猫とも犬ともつかない獣型だ。
一匹一匹はそれほど脅威ではない。
だが如何せん数が多い。
群れで連携を取っている。
まるで狼が狩りをするかのようだ。
ヤヨイを庇って名誉の傷を負ったが、軽傷だ。多分。
リッカは何故か群れに襲われることなく、腕組みしながら俺たちを観戦している。
どうなってんだ、ズルいぞ。
ヤヨイを背中に庇いながら群れを睨む。
ジリジリ後退しているのは、背中に当たる小さな胸の感触を味わうためだ。
策士だな俺。
「えい! えい!」
フランは杖でペシペシ叩いているが、果たして効いてるんだろうか。
あ、一匹倒した。
やるじゃないか。
シャニィは素早い動きと体術で、既に数匹を屠ったようだ。
これがSSR格差か。
それでも群れの数はちっとも減った気がしない。
むしろじわじわと押され気味なのは俺たちだ。
一応、木刀で武装してはいるが、最初に放った一撃でポッキリと半分に折られた。
無意味すぎる。
「アキトー! 早くなんとかしてよー!」
スカートを咬まれて、脱がされかかってるフランが涙目で訴える。
リッカの目が、カッと見開かれた。
コイツこんな時にまで!
くそ、フランめ、無茶を言いやがる。
何とか出来るならとっくにやってるわい。
獣型は連携を取っているのに、俺たちはなんてまとまりがないんだ。
む、連携…まとまり…。来たぞ来たぞ。天啓が来た!
俺は半分になった木刀を、高々と軍配のように掲げた。
「シャニィ! ヤツらを一纏めにしてくれ!」
シャニィはすぐさま俺の考えを察知してくれたようだ。
目前の一匹を葬り、獣型の群れを囲うように走り出す。
まるで牧羊犬だ。
「フランは詠唱準備!」
スカートを咬んでいる獣をペシペシしていたフランは、何を言われたのか解らない顔でキョトンとする。
この、アホの子!
「ほら、呪文だか、魔法だかあるだろ! 敵を倒すヤツ! アレだ、アレ!」
「わかったわ!」
杖を構え、キリッとした顔で雄々しく立ち上がり、詠唱を開始するフラン。
だが、尻に獣型をぶら下げたままだ。
もうダメかも。
「ええい、シャニィの方はどうだ!?」
「うまく纏めているみたいです!」
俺の背中から覗いていたヤヨイが教えてくれた。
いいぞ。ナイスだ。
軍師気分になってきた俺は、軍配代わりの木刀を振り下ろし、「今だ! フラン!」と叫んだ。
……何も起こらない。
「うぉい!!」
流石に慌てた。群れの周りをグルグルと全力疾走しているシャニィがゼイゼイ言ってる。
やばい。
「フラン様まだですかあああ!」
思わず敬語になる俺。
シャニィの囲いがじわじわ解けていく。
こりゃ本格的にやばい。
「詠唱完了! 行くわよ!」
「やっちゃってください! フラン様!」
ピィン
と、群れの下に紅く巨大な魔法陣のようなものが現れる。
そして、チュン! と言う音と共に、真紅の円柱が上空高く立ち上った。
群れがその中で舞い上げられて行く。
「コンビクト!!」
フランが叫ぶと辺りに閃光が撒き散らされた。
群れは光の中で霧散して行く。
花火みたいで綺麗だった。
「「おー」」
俺とヤヨイは思わず拍手を送った。
思わず玉屋ーと言いそうになるのをこらえた。
フランは鼻も高々とふんぞり返って「エヘン、エヘン」言っている。
しょうがない、今日くらいは調子に乗せとこう。
シャニィはうつ伏せに倒れ、肩で息をしながら、親指だけをこちらに向けて立てていた。
良く頑張ったな。
グッジョブ。
慌ててヤヨイがシャニィの元へ駆けてゆく。
リッカは、居ない。
まさか巻き込まれたのかと思いキョロキョロ探すと、いた。
スカートと下着の一部を咬みちぎられ、半分出たフランの尻に顔を埋めている。
姐さん、とうとう実力行使ですかい。
近くには、フランに咬みついていた獣型がピクピクと倒れていた。
脇腹が不自然にへこんでいるのは、リッカが蹴飛ばしたんだろうか。
俺が短くなった木刀で、獣型をポコポコ叩くと霧散して消えた。
ふう、と、俺が大きな溜息をつくと、妙な効果音が辺りに響き渡った。
同時に、俺の頭上に、
LEVEL UP
の文字が浮かんだのだ。
なんだこれ!?




