第十六話 貴女の親父は天才か
リセマラ……だと?
リセマラってのはあれだろ?
ゲームを始める時に、強い装備品やキャラクターが出るまでリセットを繰り返すと言うあれだろ?
ゲームによっては、とんでもない労力と時間を必要とするあれだろ?
「私の父は科学者でな、連続失踪者事件を警察に協力する形で調べているうちに、向こう側の事を知ったらしい」
事件と並行して向こう側を調べ始めたリッカの父親は、偶然にもSSR当選者と出会い、そのSSRから様々な情報を得た。
そして私財を投じ、試行錯誤の果てに完成したものこそ、こちらから向こう側に干渉することのできる装置だったらしい。
相当な天才だったのであろう事が窺える。
「そして数十回に及ぶリセマラの末、最高峰のSSRに当選した父は向こう側へ旅立った。……数年ほど経つが音沙汰は無い。どこでどうしているのやら」
たいして心配もしていないような顔で、やれやれと肩をすくめるリッカ。
親父さん哀れ。
娘を置いて向こうへ行っちまうんだから仕方のないことではあるが、リッカは工学系らしいし、こう見えてもそれなりに親父さんを気にかけているのかもな。
「私に向こう側の気配があるのは、きっとリセマラ作業を手伝っていたからだと思う。様々なRやSRを見てきたからな」
「…確かに…向こうでそんな噂を聞いたことがある…」
「私も聞いたわ。聖騎士王と共に現れた男がいるって」
なにそれ強そう。
「そう、それだ」
とリッカが頷く。
「私もまた、君たちのような向こうの住人の気配が解る。それでここに来たんだ。多少なりと放蕩親父の情報が聞けないものかとな」
ほんの少しだけ寂しそうな表情になって「あんなのでも父親は父親だからな」と呟いた。
「…噂では…どこかの竜を倒したとか…邪悪な不死者を倒した…と聞いた…でもそれくらい…最近ではそう言う話も…聞かなくなった…」
シャニィの無表情は変わらないが、どこか申し訳なさを感じた。
それを見て堪らなくなったのか、リッカが音速を超えているかのような速度でシャニィを抱きしめると、全力で頭を撫ではじめた。
「…あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛…」
ザリザリザリザリと、まるでシャニィの頭が削れているような音がする。
撫でまわしている手が、あまりの高速に光を発しているかに見えた。
おっかねぇ。
頭から煙を出しているシャニィを助けようと、止めに入ったヤヨイが同じ目にあわされている。
ジリジリと下がりながらフランは「うわぁ……」とドン引きしていた。
「ちょっと聞きたいんですけど」
と、今度はフランを撫でまわしているリッカに俺は尋ねる。
「ああ、私に敬語はいらんぞ、名前も呼び捨てで構わない」
「はぁ、じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだい」
「そのリセマラ装置って今は?」
「あれか、あれは父が当選したSSRの力が強すぎたのか、それともなんらかのストッパーが働いたのか、動かなくなってしまった。そもそも強引に向こう側と接続していたようだし、負荷がかかりすぎたのだろう」
そりゃ勿体ない。
こっちに絶望している人間に、高額で貸したら大儲けできそうだったんだが。
「私も修復してみようと試みたが、いかんせんブラックボックスの解析に手間取っていてな。もう少しのところで行き詰っている」
しれっとそんなことを言うリッカ。
もしかしてこの人も天才なんじゃなかろうか。
「もし直ったら教えてください。向こうには行かないけど俺もリセマラしたいんで」
「!? うわーーーーーーーん!!」
フランの泣き声が響き渡った。




