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第百五十話 今日も繰り出す旅路へと


 国賓並みのもてなしを受けた夜、ちょっとした事件が起こった。


 俺たちにあてがわれた貴賓室。

 城の最上階近くにあるこの部屋で、俺たちは夕食の余韻と共に談笑していた。


 当り前のようにその輪に加わるシャルロット王女。

 ラスターは宰相の責務を果たすため、この場にはいない。


 フランが得意気な顔で数々の冒険譚をシャルへ聞かせている。

 周囲に星を飛び散らせるほどキラキラした目でそれに聞き入るシャル姫ちゃん。


 俺は茶をすすりつつ、広々とした窓から眼下の夜景を眺めていた。

 窓に映る俺の顔は、渋みの効いた表情をしている。

 うむ、なかなかにダンディー。


「ちょっとアキト、間抜けな顔してないでシャルに私の活躍を聞かせてあげてよ。ほら、私が災厄の足をやっつけた時の話とか」 

「フラン、誰がアホ丸出しで不細工な顔だって? ダンディと言いなさいよ、ダンディと」

「そこまでは言ってないんだけど……まぁいいや、なんでもいいから早くー」

「わたくしも聞きたいのじゃー」

「わかったわかった」


 ピピピピピピピピピピピピピピ


 突然、豪勢で広い部屋に、けたたましい電子音が鳴り響く。

 うとうとしていたマールの身体がビクッと跳ね上がった。

 その勢いでふくらはぎが攣ったらしく、ゴロンゴロンと床で悶絶している。

 お前は運動不足のおばさんか。


「なにこれー、うるさいよー!」

「何の音なのじゃこれはー」

「な、何事かえ?」

「なんだっけこれ? って、あぁぁぁ! これはあれだ! 通信機だ!」


 俺は慌てて自分の荷物をひっくり返した。

 底の方から転がり出てくる真っ黒な無線機。

 第三の街を出る時、無意識に背負い袋へ入れていたらしい。

 貴重品は持って歩く癖が役立ったようだ。


 緑色に光るボタンを慎重に押す。


「あああああ! 繋がりました! 繋がりましたよ! アキトさん! 私です! ヤヨイです!」

「ヤヨイ!? ヤヨイなのか!?」

「はい! アキトさんは今どこに……ちょっ、みんな待ってくだ」


「…アキトー、わたしだよー、元気に…」

「アキトさん! どこにいるんですかなの! わっ」

「アキト!? 私よ! 研究が完成したわ! ぶっ」

「アキトさんっ! 私たちただいま戻りましたよっ! きゃぁ!」


「待てぇぇぇい! 一遍に喋るなぁぁぁ!」

「なになに!? ヤヨイたちなの!?」

「おぉー! 懐かしいのじゃー! みんな元気かのう」

「いたたた……攣ったのが治らぬゆえ、主様、揉んでくりゃれー」


「お前たちもちょっと静かにしなさい!」


 ただでさえかしましいのに、もはや収拾がつかない。

 全く女の子ってのは。


「ヤヨイ、ヤヨイ。こちらアキト。どーぞ」

「あっ、はい! ヤヨイです。アキトさんどーぞ」

「こちらはフラン、マール共に元気だ。現在は聖王都でシャルロット王女の世話になっている。そちらの状況を説明せよ。どーぞ」

「了解。そちらの状況把握しました。こちらは第三の街です。私たちも元気です。そして、リッカさんとミリアさんが研究を完成し、こちらの世界へ帰還いたしました。どーぞ」

「マジかよ!?」


「ヤヨイ、ちょっと変わって……アキト? 久しぶりね、リッカよ。謎花の解析と成分分析は完了したわ。散布装置も一緒に持って来たわよ!」

「でかしたぞリッカ! よくやった! これで災厄の靄を恐れずに済む! お前は天才だ!」

「ふふふ、照れるわねー」

「アキトさん! 私も褒めて欲しいですっ!」

「おっ! ミリアか! ミリアもよくリッカを守ってくれたな! 偉いぞ! それと、妹のマリアに会ったよ」

「えぇぇっ!? わーっわーっ、それは恥ずかしいですっ! もし私の過去を聞いていたなら忘れてくださいっ!」

「ちょっと変わってミリア。もうひとつ良い知らせがあるわよアキト。この靄避けスプレーを向こうの世界でも散布してきたわ。戦争も少しずつ小康状態になってきているわよ」

「うぉぉぉぉ! すげぇぞそれは!」


 朗報すぎて涙がチョチョ切れる。

 戦争さえ終わっちまえば、地球は救われたも同然だ。


「わかった! 出来る限り早く合流しよう! 船が着き次第、俺たちは三の街へ向かうからな」

「了解よ……ザ、ザーッ……っちも準備を……ザザザーッザッ……やく会いたいから……ザーーーーーーッ」

「リッカ? おーい……もしもしもしもし!? ……ダメだ、電波が途絶えた。電池切れかな?」

「えー!? 私まだ全然話してないのにー!」

「わたくしも話したかったのじゃ!」

「妾の足が……足がぁ……」

「まだ攣ってんの!?」


 取り敢えず、ではあるが、ヤヨイたちの状況も少しわかった。

 なによりもみんなが無事だったことの方が、俺には喜ばしい。

 そして地球も救えそうなんだぞ。

 万々歳じゃねぇか。


 こうなると早くみんなと会いたくて気ばかりが焦る。

 全員が揃うなんて久しぶりだしな。


 とは言え、船が到着するまでは我慢するしかない訳で。

 あー、もどかしい。


 ま、今は予定通り聖鎧の回収に向かうしかあるまい。

 橘博士が戻ってくれば、整備なんかもしてもらえるかもしれないしな。

 それに、世話になったシャルロット王女にオリジナル聖鎧を見せてやりたいってのもある。


 俺たちはそのまま、夜も遅くまでお喋りをして、眠りについた。


 明けて翌朝。


「これが自走式馬車だよ」


 ラスターの案内で庭に出た俺たち。

 まるで己が作った物を自慢するようなニコニコ笑顔の彼。

 それなのに嫌味さは微塵も感じさせない。

 朝っぱらから爽やかな野郎だこと。


 だが俺の寝不足でショボショボした目も、自走式馬車とやらの姿に大きく開かざるを得なかった。

 台形の箱型。

 十二の車輪。


 おいおい、これって……

 まさか月脱出用のシャトルを改造したのか!?


「聖騎士王陛下とタチバナ殿が御帰還なされた時に乗っていた物だそうだよ」

「やっぱりか! しかしこりゃぁ……すごいな。もう馬車ってよりトレーラーか装甲車って感じだぞ」

「ん? なんて言ったんだい?」

「ああ、いや、俺たちの世界にある乗り物に近いってことだよ」

「ふむ? まぁ、製作者がタチバナ殿だからね」

「そうだったな」

「でもこれって、私たちが乗って来たシャトルより大きくない?」

「お、いいこと言うねフラン。俺もそう思ってた。二十メートルくらいあるし、貨物タイプなんだろうなきっと」

「はー、なるほどねー」

「こいつに乗せてあの量産型聖鎧を運んできたのか……それを車両に改造するって……あの人はアホなんだろうか」


 親指を立てて白い歯を輝かせニカッと笑う、ガチムチの眼鏡ヒゲ親父が脳裏に浮かぶ。

 リッカの親父さんにも困ったもんだな。

 いくら天才科学者と言っても、これはどうなのかねぇ。


「ラスターよ、操縦をしっかり頼むぞ。アキトたちに怪我をさせぬようにな!」

「はっ! 心得まして御座います。王女殿下!」

「えっ!? 運転はラスターがするのかよ!?」

「ははは、大丈夫だよ。タチバナ殿にみっちり教わったからね。それに、動かし方自体は簡単なんだ。えーと、おうとまちっくとか言ってたかな」

「……はぁー、オートマか……ガチですげぇなあのおっさんは」


 ラスターに入口へいざなわれ、ステップを上がる。

 フロント奥が操縦……いや運転席か。

 げ、生意気に左ハンドルだし。

 外車かっ。


 後部座席はやたらと広い。

 十人程度なら余裕で乗れそうだ。


 しかもだよ。

 驚いたことに、座席の更に後ろ。

 そこには、トイレと、仮眠用ベッド、そしてミニキッチンまで備え付けてある。


 アホか!

 キャンピングカーじゃねぇんだぞ!


 だがそれでも、このバカでかいトレーラーの五分の一にすら満たぬスペースだろう。

 残りは全て貨物室なのだ。


 なるほど。

 これなら量産型聖鎧くらい余裕で運べるはずだわな。

 俺のアキトリアスには、ちょっとばかり小さいがね。

 ま、オリジナル聖鎧は乗せられないとしても、馬力は無駄にありそうだし、いざとなれば引きずって持ち帰ればいいさ。


「アキトー、ここに座ろー」

「主様、こっちこっちゆえー」

「あ、あぁ」


 フランとマールの間に出来たスペースを勧めてくる二人。

 こんなに広いってのに、わざわざ並んで座らせる気か。

 別にいいんだけども。


「君たちの仲の良さは羨ましいと思うよ。本当にね」

「あぁん? ラスターなら宰相なんだし、お見合い相手とかいくらでもいるんじゃねぇの? アランのおっさんなら無駄に山ほど紹介してきそうなもんだけど」

「君はまるで見てきたように言うね。まさにその通りなんだよ。でも、アラン団長の紹介してくる御婦人方と言うのが、また……」


「こりゃ! ラスター! 早く出発するのじゃ! 帰りが遅くなってしまうじゃろ!」

「はっ、はいぃ! 失礼いたしました! では、行ってまいります王女殿下!」

「うむっ! くれぐれも気を付けてな! アキト! フラン! マール! 寄り道せずに戻ってくるのじゃぞ!」

「あっははは、シャルがお母さんみたいー! 行ってきまーす」

「行ってくるゆえー」

「行ってくるよシャル! また後でな!」


 巨大なトレーラーは駆動音も高らかに、またもや俺たちを旅路へと連れ出すのであった。


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