第十五話 おっぱい美女は百合属性
そいつは、いやその女性はザッと俺の隣に仁王立ちしていた。
パンツスーツに身を包み、後ろでひとつにまとめられた長い黒髪をなびかせ、豊かな胸の下で腕を組んでいる。
おお、見事なガイナ立ち。
そしておっぱい。
どうしてもおっぱいに目が行ってしまうが、ふと顔を見上げると、こちらを見ていない。
その視線の先にはキャッキャと遊ぶヤヨイとシャニィ。
かけていたサングラスを外したその顔は、頬を紅潮させ目を爛々と見開いていた。
まるで獲物を狙う猛禽類だ。
ええー。
一瞬で解ったー。
ダメな人だー。
「君、ハァハァ」
「はい」
「彼女たちは君の連れか? ハァハァ」
「はい」
「私に紹介してくれないか? ハァハァ」
「お断りします」
俺は寝ころんだままキッパリと言った。
俺の癒しと萌えを奪われてたまるか。
それにしても息が荒すぎだろ。
「頼む! 頼むから! ハァハァ」
息も絶え絶えにやっとこちらを向く。
向いた瞬間硬直していた。
俺のせいではなく、俺の横で首をカクンカクンさせているフランを凝視していた。
「こ、この子も君の連れかっ!」
「はい」
「ハーレムっ! いやこの世の天国かッッ!!」
自らを抱きしめながら身悶えしている。
凄まじい変態だ。
「……君っ! 私と友達になろう! 君と友達になれば自動的に彼女たちとまぐわえる! いや知り合える!」
うわー、目がマジだー。
よしこうなったら、撃退するにはこれしかない。
目には目を、変態には変態をだ。
「おっぱい」
「?」
「貴女のおっぱいを好きにさせてくれるならいいですよ」
「!?」
ズサッと両腕で胸を隠すようにして後退った。
勝ったな。
と思ったのも束の間。
何かを決意したように「クッ」と恥ずかし気な顔を背けながら俺に胸を近づけてくる。
ええー、予想外ー。
そこまでするのか、この変態は。
試合に負けて勝負に勝った俺は、せっかくだし、遠慮なく揉みしだいてやろうと両手をワキワキさせる。
初体験にドキドキしてきた。
俺の手が胸に触れる寸前で、パチンと鼻提灯を割ったフランが目を覚ました。
寝ぼけまなこで「誰ぇ?」とか言ってる。
なんつータイミング。
だが俺はそんなお約束に負けるようなヘタレではない!
行ってやらぁ!
スコーン
俺の顔面にボールがめり込んだ。
比喩ではなく、めり込んだ。
下手人はきっとシャニィだ。
こんなバーロー並みのキック力は他に有り得ん。
ある意味ご褒美ですと思いながら、俺はズウゥゥンと地に伏した。
「私は橘立夏だ。大学生をしている。趣味は美少女鑑賞だ。可愛い子猫ちゃんたち、よろしく」
そのリッカさんは、未だにハァハァしながら名乗りをあげた。
その美少女たちに囲まれて、天にも昇る心地なのだろう。
今にも果てそうで怖い。
聞けばこの近くの大学で何やら研究を行っているらしい。
とてもそうは見えないが、きっと頭が良いのだろう。
ふと見ればSSRの二人が顔を見合わせている。
「? どうした?」
「…この人から…」
「あのね、このリッカさんて人からは、何故か解らないけれど向こう側の気配がするの」
シャニィを遮るように言うフラン。
可哀想に、言わせてやれよ。
「どういう事だ?」
「…簡単に言えば…」
「向こう側とこの人に何らかの関係があるってことね」
酷い先輩だ。
後輩より弱いくせに。
「関係ってなんだ?」
「ああ、それはきっと私の父親のせいだろう」
目に焼き付け! とばかり、ヤヨイたちの生足を舐めまわすように凝視していたリッカが言う。
後ろ手に素早く隠したカメラを、俺は見逃さなかった。
盗撮までするとは……
それはともかく、リッカの言葉はとても聞き流せるものでは無かった。
「「「「???」」」」
俺たちがハテナマークを浮かべていると、リッカはとんでもない事実を口にした。
「私の父親はリセマラの末に、向こう側へ旅立ったんだ」
「「「「はい!!??」」」」
 




