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第百四十九話 わがまま王女に頼まれて


「やっぱりリッカの親父さんたちか。あの人ならやりそうだもんな」

「そうだねー。なんかすごい科学者って言ってたもんね……性癖には問題ありそうだったけど」

「やめろフラン! またヤヨイの腐女子顔が浮かぶだろ!」

「あははは、きっとここにいたら喜んでるね」


 全然笑い事じゃないんだが、フランは快活に笑っている。

 こいつが笑うと、どんな大事件でも大したことではないように思えてくるから恐ろしい。


「不思議なのは、あんな量産型の聖鎧をどこから持って来たのかってことだけどな」

「ああ、それなら何やら工場? とやらから持って来たと言っておったのじゃ」

「工場? はて、そんなもんどこにあるんだろ」

「あっ、あれじゃない? ほら、月の」

「あー、あれな! 確かにあそこは何やらデカい物を作ってる感じだったな。やるじゃないかフラン」

「えへへー」


 月の巨大施設。

 建物も大きいが、生活用品もやたらとデカかった。

 まるで巨人族が作業していたかと思うほどに。

 そしてその地下工場。

 災厄のバカが靄を放ちやがって、見回る暇も無く俺たちは脱出したが、間違いなく何か大きな兵器を作っていた痕跡はあった。


 SSR聖騎士王レインと、蒼の騎士橘博士があの施設へ立ち寄ったのも間違いない。

 俺たちは彼らの後を追っていたんだからな。


 なるほど、あの工場は災厄に対抗するための量産型聖鎧を生産してたってことか。

 誰がどうやって施設を建造したのかと言う疑問は残るがな。


「それはいいが、武器や燃料はどうしてんだろうな」

「さぁのう、わたくしもラスターも聞かされてはおらぬのじゃ」

「うん。ただ、ひとつだけわかっていることがあってね。陛下とタチバナ殿があれに乗って出撃した場合なんだれども、まずひと月はお戻りになられないんだ」

「ええぇ、その間ずっと闘ってんのか?」


「どうなんだろうね。食料はかなり積み込んでいたから、休憩はしていると思うんだけれど、闘っているんだろうね。お陰で災厄の侵攻もかなり抑えられているみたいだよ」

「ふーむ、そういや俺たちの聖鎧アキトリアスも内部のインフラ設備は結構充実してたしな。継戦能力は高いのかも」

「ぷぷっ……アキト、聖鎧の名前、それで貫き通すつもりなの……? うぷぷぷ……ダサッ……」

「うるさいよフランさん。ペロペロの刑に処されたいのかね?」


 俺の言葉に震えだしたのはマールだった。

 どうやら超絶ペロペロスペシャルがトラウマとなったようである。

 青ざめながら頬を紅潮させると言う、なんとも複雑な顔でブツブツとなにやら呟いている。


「マールを見ろ。お前もこうなるんだぞ」

「……なんかちょっと嬉しそうに見えるんですけど……もしかして気持ち良かったのかな?」

「わたくしも気になるのじゃ」

「いけません! 王女殿下にはまだ早すぎますから!」


 乗り気のシャルを慌ててラスターが止める。

 賢明な判断だ。

 幼女、しかも王女が性的快楽を求めてはいけない。


「ところでアキトよ。しばらくはゆっくりして行けるんじゃろ?」

「んー、そうしたいのは山々なんだがな。さっきも話したけど、出来れば第三の街に残してきた連中と合流したいんだよ」

「うんうん、まずは海を渡らないとねー」

「そうか残念じゃ……ラスター、港町に船は残っておったかのう?」

「えーと、しばしお待ちを」


 ラスターが帳面をめくる。

 なんだよ、船の管理までしてんのか。

 宰相ともなると色々大変だなぁ。


「ごめんアキト。すぐに動かせる船はないみたいだ」

「マジかー」

「あちゃー」

「次に入港するのは半月後、だね。しかもその船はエリィ号だよ」

「おー、そうなのか」

「そうだ、アキトは知らないと思うから言っておくけれど、始まりの街の領主が復調したことで、アンジェラ船長も船乗りに復帰したんだ」

「おおお! それはエロい! じゃなくて良かった! あのおっぱいがないと、いや、あの船長がいないと船員たちもやる気が出ないもんな! いやぁ良かった良かった。俺も早くあの豊満な乳、もとい、ムッチリした尻、じゃねぇ、毅然としたアンジェラ船長に会いたいもんだ!」

「アキト……なんだか、ちょくちょくエロ単語が口に出てるんですけどー?」


「妄想がダダ漏れじゃな……」

「主様を見損なったゆえ……」


 幼女組が無念そうに自分のつるぺたをさすっている。

 俺はつるぺたも大好きだよ!


「しかし半月かぁ、だいぶかかるな」

「そうじゃ、アキト。わたくしはおりじなる? とやらの聖鎧が見たいのじゃ!」

「えぇ? 置いてきた場所はすごく遠いぞ? それに移動手段が……」


 俺は目だけ動かして、そっとマールを見る。

 その気配を察知したのかマールは顔を伏せた。

 こいつ!


「馬車ならいくらでも用意できるのじゃ!」

「いやそれが、馬車でも往復に二十日はかかるんじゃないかなぁ」

「シャルロット王女、タチバナ殿が作ったアレならどうです?」


 ラスターにしては珍しく、ニヤニヤと笑いながら提言した。

 なんだよアレって。


「なんでも、自走式馬車とか言っておったのじゃ」

「はい? なにそれ?」

「馬が要らない馬車だそうだよ」

「えぇぇぇぇ!? それって自動車のことか!? どうやって作ったんだそんなもん!」

「あっははは、リッカのお父さんすごいねぇ~」


「一度だけ走るのを見たが、とんでもない速さじゃった。だから~アキト~、一緒に行こう~?」

「いけませんよ殿下。王女が軽々に城を出るなど大臣たちに知れたら……」

「えぇ~!? ラスターはすぐにダメって言うのじゃ~! じゃあアキト、ラスターも連れて行っていいから、聖鎧をここまで持って来ておくれ~」

「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


 このお姫様は、いきなり何を言い出すんだろう。


「シャル、さっきも説明したろ? あのポンコツ聖鎧はまともに動かないって」

「それなんじゃがな、アキト。わたくしがタチバナ殿にお話をねだった時に、こう言っておったんじゃ。『聖鎧は二人で乗る物、だから二人の絆が強いほど、その力を発揮する。二人の想いがひとつなら、念じるだけで聖鎧は答えてくれる』とな!」

「絆……」


 俺は思わずフランの顔をまじまじと見つめた。

 キョトンとした顔でクッキーを頬張るフラン。

 あげないわよ、と言う顔で菓子を必死に隠そうとしている。

 いらんわ!


 絆、ねぇ。

 そう言えばフランやシャニィと出会った頃、そんな話を聞いた気もする。


 でも、このフランがなぁ。

 絆って言うべきかはわからんが、まぁそれなりに二人の親密度は上がったはずだ。

 勿論、お互いに好きだとわかってるし、俺はフランを愛している、と自分の中では思うわけ。

 だけど、それが全部俺の独りよがりかもしれないんだよね。


「フラン」

「なにー?」

「お前って、俺のこと今も好きなの?」

「「「「ブッッ!!」」」」


 一斉にみんなが口の中の物を噴き出した。


「なっ、ななな、なんなの急に!?」

「だって、絆が強い方がって話だったからさ。だから実際のところ、フランはどう思ってんのかなーって」

「ちょっ、待っ、こ、こんなところで……デリカシーなくない!?」

「うーん、あやふやな物差しすぎてよくわからんよなぁ。どうすりゃ絆ってのは増えるんだ?」


「……る」

「ん?」

「愛してるって言ったの!! 好き好き好き! 大好き!! アキトを世界一愛してるんだからね!! ……はぁはぁはぁ……」

「ぎゃぁぁぁぁ! 耳がぁ……耳がぁぁー……鼓膜が破けるだろこのアホ!」


 マールとシャルなど耳を押さえて床を転げ回ってるじゃないか!

 ラスターに至っては両耳と鼻から血を流して失神してるし!

 これじゃ超音波兵器による殺人事件だぞ!


「犯人はお前だ!」

「ひどい! 恥ずかしいけど頑張って言ったのにぃ~、うわぁ~ん」

「いや、ごめんごめん。素直に嬉しいぞフラン。ほれ泣くな、俺も愛してるからさ」

「顔と言い方が胡散臭い~、うえぇぇ~ん」

「失礼すぎるよ!? でもマジごめんって」


「な、何が起こったのじゃ……? 突然耳が爆発したようじゃったぞ。ぬぬぅ、まだキーンとしておる」

「主様……どこ……? 妾はもう何も見えないゆえ……」

「耳じゃなくて目を!?」


 こりゃいかん。

 俺はフランを必死なだめ、みんなに癒しをかけてもらった。


 その甲斐あってか、ラスターもなんとか一命を取りとめたようであったのだ。



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