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第百四十八話 ド派手な帰還はアホ丸出し


「なにあれ……? ねぇアキト! 茶色い人が飛んでるよ!」

「アホかっ、よく見ろフラン。何となく見覚えがないか?」

「どれどれー」


 額に手をかざし、大きな目を細めるフラン。

 もうだいぶ遠くに離れちまったが、あれで見えてるんかね?


 俺たちはドラゴンマールに乗り、王都を目指して飛行中だ。

 そこですれ違ったのが、件の茶色い人型物体である。


「うーん、ちっちゃくなっちゃってよくわかんない」

「ま、あのスピードじゃ仕方ねぇわな」

「結局何だったの? 教えてよー」

「シャニィならすぐに気付いたかもな。あいつロボットアニメ好きだし」

「ロボット? あっ! わかった!」


「うむ、さっきのはどう見ても聖鎧だ。ただ、俺たちのより少し小さい気がするけどな」

「だね。色もなんか地味だったし、なんでだろ?」

「うーん、そこなんだよな。ロボアニメだと、大抵ああ言う色は量産型だったりするんだが」

「へー、そうなんだ? で、量産型ってなに?」

「えーとな、一個しか無かったものを参考に、性能や値段を下げて、早く大量に作られたものが量産型だ」

「へぇえー、すごいねー! アキトは何でも知ってるね!」

「いや、こんなので称賛されてもな」

「で、結局どう言うことなの?」


 ズッコケる俺。

 危うくマールのトゲトゲで頭を貫くところだ。

 俺の説明が悪かったらしい。


「あれが本当に量産型の聖鎧だったとしたら、の話になるんだけどな」

「うんうん」

「基本的な性能なんかは、オリジナルの聖鎧に遠く及ばないってことになる」

「私たちが乗ってたやつは?」

「オリジナルだと思う。わざわざ不死王が守ってたくらいだし」

「やったね!」

「やったのかねぇ……?」

「でも、オリジナルって元祖でしょ? さっきのよりは強いってことじゃない!」

「まぁ、憶測でしかないんだが、そうなるな」

「じゃあやっぱり、やったね! だよ」

「つっても、まともに操縦も出来ねぇんじゃ、馬車よりポンコツだぞ」

「あー、確かにねー」


 腕組みしてうんうん頷くフラン。

 こいつはほんとにわかってんのかね?


「主様、右後方ヲ見テクリャレ」


 くぐもったマールの声。

 言われるがまま右へ振り返る。


 さっきの量産型が向かった方角だ。

 かなり遠方に、いくつもの丸い光が瞬いている。


「あっちは確か……」

「災厄がいた方よね……?」

「あの光は……まさか、戦闘の……?」

「流石ハ主様ヨノ。妾モ、ソウ推察スルユエ」

「おいおいおい! ってことはあの量産型が災厄本体と闘ってるってのか!? いったい誰が!?」

「ちょっとアキト、立ったら危ないよ! 私まで落ちちゃう!」

「おっと、そうだったな。すまん……くそ、わかんねぇことばかりだ!」


「主様、落チ着イテクリャレ」

「そうだ、マール! あっちに向かってくれないか!?」

「ソレヲヤッテシマウト、王都ニ戻ル体力ガ無クナッテシマウユエ……」

「あぁ、そうか……そうだよな……うーむ」

「ねぇアキト。私、思ったんだけど、あの茶色いのが飛んできた方向って王都じゃない? 取り敢えず王都に行ってみれば何かわかるかもよ?」

「おぉ! フランにしては冴えてるな! アホっ子の汚名返上だ!」

「エッヘン! ……えぇぇ!? アホっ子って言わないでよ! しかもフランにしてはってひどくない!?」


 俺たちはぎゃいぎゃいやり合いながら空の旅を続けた。

 量産型と出会ってからわずか数時間。


 ついに聖王都を視界に捉えた。

 巨大な街は周囲を強固な城壁に覆われ、外敵の侵入を許さない。

 中央にそびえ立つは白亜の城。

 相変わらず、城のド真ん中に上から剣をブッ刺したような面白い形をしている。


「わー、なんだかすっごく懐かしいねー」

「だなぁ。シャルやラスターが元気だといいんだが」


 王都へ近付くにつれ、何やら城壁に兵士が集まって行くのが見て取れた。

 いや、王都中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているようである。


 何か事件でもあったのだろうか。

 人々は口々に何かを叫び、こちらを指さしていた。

 兵士たちは武器を構え、守城兵器を向けてくる。


「しまったぁっ!! 俺たちのせいだ!」

「なにがー?」

「アホ! こんなでけぇドラゴンでいきなり王城へ乗り付けたら誰だって驚くわい!! やべぇ、絶対に敵だと思われてるよ!!」

「主様、案ズルナカレ」


 マールはそう言って、慌てることもなく優雅に城へ向かう。

 あぁ、城の窓やバルコニーからも、大勢の人が驚愕の表情でこっちを見ているじゃないか。


 あれ?

 あの金髪幼女は、もしかしてシャルロット王女か?


 マールは城の真上で何度か羽ばたき、ホバリングした。

 待て待て、ここら辺にマールが降りられる広い場所なんてないぞ。

 降りるならせめて中央広場とか……


「デハ、行クユエ」

「えっ!? どこに!?」


 俺が疑問を投げかけた途端。

 足元のドラゴンマールが突如消失した。

 俺の全身が強烈な浮遊感に包まれ、急激に落下する。


「ぎゃぁぁぁぁあああああ! なに考えてんだアホマールゥゥゥゥ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!! 落ちてるよぉぉぉ!! 救けてアキトぉぉぉぉ!!」


 墜落死を覚悟した時、ガシッと腕を掴まれ、俺とフランは空中にとどまった。

 人型に戻ったマールが、俺とフラン、ついでに荷物を空中キャッチしていたのだ。


 そして、宙ぶらりんの俺の眼前には、大きな緑色の瞳を目一杯に広げた金髪の幼女の顔。


「ア、アキト……? 本当にアキトなのか!?」

「や、やぁ、シャル。ご機嫌麗しゅう」


 俺たちはそのままバルコニーから城内へ入り、シャルロット姫から歓待された。

 普通に考えたら死罪モノの案件だが、シャル姫と宰相ラスターが迅速に王都へ触れを出して騒ぎを鎮静化したと聞く。

 勇者アキトの一行だと知れ渡っただけで、一気に王都はお祭りムードになったと言う。


 いやぁ、これは人徳だね。

 良いことってのはしておくもんだよ。


「とってもびっくりしたのじゃ。まさかアキトがドラゴンに乗って現れるとはのう」

「驚かせてごめんな。うちのアホ帝竜が無用の混乱を招いちまった」

「うんにゃ。良いのじゃ。むしろアキトを連れて来てくれたのじゃから、感謝しておるぞマール」

「それはいいんだけどね、アキト。なんでシャルを抱っこしてるのかが意味わかんないんですけど」


 少しだけ膨れっ面で言うフラン。

 そう、俺はシャルに乞われ、膝の上にその小さな身体を乗せているのだ。

 少女特有のぷにぷにもちもち触感がたまらない。


「おやおや? 嫉妬ですかフランさん。大人げないですなぁ」

「違うもん! バカアキト! 私もして欲しいだけだもん!」

「主様、妾にも頼むゆえ」


「ハッハハハハ、君たちは相変わらずだね」


 向かい側で笑い声をあげるのは、宰相のラスター。

 理知的、王族、イケメンと三拍子揃った男である。

 しかも金髪碧眼で性格も良い。

 ただし、極度の方向音痴が玉に瑕。

 その上、俺に正式な剣術を教授してくれた師匠だ。


 これであんまりモテないってんだから、世の中よくわからん。


 そう言うわけで、これまでの経緯を掻い摘んで二人へ話し終えたところなのだ。

 極上のお茶と菓子をいただきながらね。

 そしてここから、話は核心へと進む。


「さっき、俺たちは茶色い聖鎧のようなものとすれ違ったんだが、心当たりはないか?」

「「……」」


 途端に押し黙るシャル姫とラスター。

 その反応だけでわかる。

 この二人は知っているのだと。


「しかもそいつは真っ直ぐ災厄本体へ向かって行き、そのまま戦闘状態に入ったんだ。それに、あれはこの聖王都の方角から飛んできたように思う。つまり、この王都と関連性の深い人物が乗っていたことになる。あの聖鎧が無人機じゃなければな」

「よい、アキト。どうせ見当はついておるのじゃろ?」


「ハハ、僕もアキトの洞察力を舐めてたよ。流石だねアキト。そう、あれに乗っているのは御帰還なされた聖騎士王レイン陛下と蒼の騎士タチバナ殿さ」


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